第104話 王子殿下、王女殿下(悪役令嬢)の活躍に疑念を抱き、問うてしまう
(第一王子視点)
第一王子は、襲撃の後始末をする中、王女殿下(悪役令嬢)の活躍に疑念を抱き、(悪役令嬢)にそれをぶつけてしまいます。
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『は、は、はい! メリユ姉様っ』
メグウィンの姿になったメリユ嬢とメグウィンが抱き合っている光景を眺めながら、わたしは、ほんの一週間ほど前に、王城にやって来たときのメリユ嬢のことを思い返していた。
我儘な貴族令嬢の振りを止め、自分の正体を明かすことを決意した彼女。
あのときの彼女は、果たしてどこまでのことを神託で受けていたのだろうか?
少なくとも、オドウェイン帝国がゴーテ辺境伯領側から攻めようとしていることを知っていたことは間違いないだろう。
とはいえ、ハラウェイン伯爵領での災厄や此度の襲撃は、どうなのか?
いや、サラマ聖女の訪問に合わせて使徒の姿に変身したり、王妃陛下の明かしたハラウェイン伯爵領の災厄に対してそれを解決するために来たと言っていたのだから、全て承知の上で彼女は動いていたということになるのだろうか?
「ふむ」
メグウィンとわたしに対しては、積極的に(しかし、少しずつ)自分の正体を明かしていっていたことを考えれば、単に歳が近いからというだけでなく、やはりメグウィンとわたしが近い将来、オドウェイン帝国の陰謀によって、殺されるということも神託で知った上で、わたしたちとの距離を詰めようとしていたのかもしれない。
そう、確かにそう考えれば、全ての辻褄が合うのだが……これほど複雑な状況で、更に自分自身に圧し掛かる負担も相当に大きいことも踏まえながら、あれほどまで適確に動けるものなのだろうか?
知れば知るほど、メリユ嬢の凄さを嫌というほど突き付けられてしまう。
一国の王太子になろうとしているわたしでさえ、メリユ嬢に課せられた神命の数々を考えれると、到底彼女と同じことができるとは思えないのだ。
いや、一国の王や宰相レベルの人間ですら、彼女と同じように振る舞えるかと問われればかなり難しいと言わざるを得ないだろう。
「……わたしなら重圧のあまり潰されてしまいそうだな」
そして、メグウィンを甘やかせて落ち着かせた彼女は、『やるべきことがある』と言い、メグウィンの代わりとして、わたしと一緒に残務対応にあたったのだ。
まずは、応接室で近衛騎士たちに実質軟禁に近い状態におかれたサラマ聖女への対応。
聖騎士団の修道騎士たちが信用できなくなった今、サラマ聖女も自ら望んでその対応を受け入れたのだが、そこにハラウェイン伯爵たちも呼び、話をしたいと言った彼女がそこでどう動いたか?
『何卒ハラウェイン伯爵領の不名誉となりませんようご配慮いただきたく存じます』
近衛騎士や王都騎士団ですら、大国セラム聖国の修道騎士たちを領城の地下牢に収監する事態に動揺を隠せない状況の中、今後ハラウェイン伯爵領に此度の事態が汚点として残らぬよう配慮せよと言ったのだ。
普通であれば、後から気付いて騒ぎになりそうなところだろうに、この時点でサラマ聖女に対して交渉をしかけるとはな。
しかし、彼女のしたことは正しい。
此度の事態がそのまま明るみに出れば、ハラウェイン伯爵領は王族暗殺未遂の地ということにされかねない上に、セラム聖国との衝突の引き金にすらなりかねないのだ。
だからこそ、彼女は、今回の大捕り物はあくまで『セラム聖国側が(汚職を行っていた)アディグラト枢機卿を捕縛するためにハラウェイン伯爵家に協力を依頼し、聖騎士団、王国近衛騎士団で共同して行ったもの』ということにして欲しいと提案してきたのだ。
そして、不名誉とならぬよう、『セラム聖国から何らかの形でハラウェイン伯爵領に恩賞を与えられないか』と交渉したのだ。
結果的にサラマ聖女はその全てを飲み、王都の教皇に書簡を至急送ると回答した。
もっとも、メグウィンが神兵だと信じ切っているサラマ聖女に拒否権はなかったのかもしれないが、ハラウェイン伯爵たちがメグウィンの姿のメリユ嬢に深く感謝の意を表したのも事実で、ハラウェイン伯爵家は今後も王家に忠誠を誓ってくれることだろう。
本当に大したものだ、彼女は。
わたしですらできなかったことを成し遂げ、王国の危機を既に一つ、こうして救ってくれているのだから、タダ感謝することしかできない。
それでも……彼女の凄さを傍で見れば見るほど、わたしはある一点だけがどうしても気になって仕方なくなってきたのだった。
サラマ聖女、ハラウェイン伯爵との会談を終え、応接室の控室で少し彼女と二人きりにしてもらったわたしは(妹のメグウィンにしては)落ち着き過ぎているように見えるメグウィンの姿のメリユ嬢に、まず感謝の言葉を伝えた。
相変わらず苦笑いしながら首を左右に振って、そんなことは必要ないと言わんばかりの彼女。
本当に、聖国との交渉を我が王国側に有利に運んだという功績すらもどうでもいいというつもりなのだろうか?
気になったわたしは思わず問うてしまうのだ。
「……しかし、メリユ嬢、今のサラマ聖女殿との交渉にしても、あれではメグウィンのなしたこととなってしまうのだが、本当にそれでいいというのか?」
「構いません。
わたしのなしたことは、本来表に出てこないはずのものでございますので」
何の躊躇もなく、可能な限り表立って目立つつもりはないと告げる彼女に、わたしは……胸を締め付けられるような感覚を覚えてしまった。
「はあ、本当に君は……何と言えばいいのか」
「それに、サラマ聖女猊下は、神兵のお考えと捉えていらっしゃるようでございますから、誰の功績にもならないとも考えられますでしょう?」
……それだ。
訊くならば、今しかないだろうと、わたしはそう思った。
「メリユ嬢、サラマ聖女殿には真実を黙っていたのだな?」
「直接神兵なのかどうかも尋ねられてはおりませんでしたし」
まあ、彼女がウソを付いていないというのは、それでそれで事実だろうが……。
「何事も、真実が必ずしも正解とは限りませんので」
「なるほど、確かにそれはある」
わたしは頷きながら、本当に彼女は十一歳の聖女なのかと思ってしまうのだ。
気になって仕方がない、サラマ聖女のあの話。
ファウレーナと言ったか、伝承にある使徒と彼女の関係がどうしてもわたしの中で引っかかったままになっている。
だからこそ、わたしは、
「その、一つ尋ねたい、ファウレーナ嬢」
鎌をかけてしまったのだ。
「はい?」
何の疑問も浮かべることなく、メグウィンの顔でわたしの質問に応じた彼女。
そう、彼女は自分がファウレーナと呼ばれたことに疑念をまるで覚えていないようだった!
「ファウレーナ嬢は、受肉しているから使徒でないと言い張るのか?」
「っ!??」
明らかに『しまった』という表情になる彼女。
その反応に、わたしは全身に鳥肌が立つのを感じてしまうのだ。
わたしの婚約者が、人間ではなく、神兵でもなく、使徒かもしれない。
どう受け入れていいかも分からない、怖ろしい真実。
「ファウレーナ嬢、君は……」
強張った表情で、視線を横に逸らす彼女。
しかし、二つ数える間もなく、彼女はわたしの目を見て、
「わたしが使徒であるという事実はございません」
と言い張るのだ。
「あの我儘な令嬢だったかつての君のように演技でないと誓えるのか?」
「はい。
タダ、ファウレーナという名に、聞き覚えがないという訳でもございません」
あの彼女が震えているだと!?
どういうことなのだ?
どう受け取ればいい?
彼女が聖女として神に誓ってウソを付いていないというのであれば、彼女は本当に使徒ではないのだろう。
あり得るとしたら……?
「まさか」
ファウレーナという使徒が……メリユ嬢として、人の子として生まれてきたということなのか?
いや、考えられなくはない。
ファウレーナという使徒が、伝承通り、未練を残したまま天界に帰り、再び地上に戻ることを望んでいたなら……神がその使徒に一つの救いの道として、人の子として生まれてくるという方法を示した可能性があるのではないだろうか?
もし……そうであれば、今の彼女の反応は、とても納得のいくものだ。
かつての自分の名前。
今は使徒でないとしても、聞き覚えがない訳ではないもう一つの自分の名前。
言わば、彼女は半分使徒、半分人間のような感じになっているのではないだろうか?
そして、わたしはそんな彼女の過去を抉ろうとしてしまったのではないだろうか?
「すまない、メリユ嬢。
わたしは……」
「いえ」
悲しげに目を伏せる彼女に、わたしは、本当に、本当に愚かな問いをしてしまったと深く後悔してしまうのだった。
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さて、今回のお話、また盛大な勘違いをさせてしまった悪役令嬢メリユ=ファウレーナさん、どうなってしまうのでしょうか?、、、




