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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第103話 王女殿下、悪役令嬢によって救われたことを知る

(第一王女視点)

第一王女は、悪役令嬢が自分の身代わりとなることで、聖騎士団の襲撃から救われたということを知ってしまいます。


[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 メリユ様にまた無茶をさせてしまった。

 本当に一刻前の能天気だったわたしを引っ叩きたいと心の底から思ってしまう。

 そう、だって、ハードリー様のお部屋で待っている間、メリユ様はわたしの身代わりに襲撃を受けられていたというのに……わたしは『お兄様が騙されてくれていたら良いのに』なんて思ってしまっていたのだから。

 もしお兄様がこのお部屋にいらっしゃって、もう一人のメグウィンの存在=わたしに驚かれたなら、『メグウィンなメリユ様のご正体を見抜くことが叶わなかったことを叱責したい』なんてことまで考えてしまっていた自分が恥ずかしい。


『メグウィン、無事で良かった』


 わたしのお姿のメリユ様とお兄様がハードリー様のお部屋に入ってこられたとき、わたしのお顔で苦笑いされているメリユ様と、もう一人のメグウィンであるわたしに驚かれなかったお兄様に、お兄様が『メリユ様のご正体を悟られた』ということは察したのだけれど……お兄様が駆け寄られてきて、わたしを抱きしめられたときにはその訳が分からなかった。


 けれど、今なら、お兄様がどれほどわたしを案じてくださっていたのかが分かる。


 だって、わたしの身代わりになられたメリユ様は、聖騎士団の襲撃の際、修道騎士の剣をその身に直接受けられたとおっしゃるのだもの。

 お兄様のご説明では、メリユ様は身体の表面にバリアを張られて、胸に突き立てられそうになった剣すら簡単に弾き返されたそうだけれど、それを傍目にご覧になられていたお兄様はきっと気が気でなかったことだろう。


「まさか、メリユ様がそういうおつもりでわたしのお姿になられていた、だなんて」


 メリユ様がご神託の内容を口外できないというご制約を課せられているのは分かる。

 超越者としてのお力を与えられた神命の代行者であるからこそ、どれほど身内の親しい相手であってですら、明かせないよう厳しく締め付けられているのだろう。

 それでも、『たまたま神よりわたしの姿を賜っただけで何でもない』なんてお顔をされていらっしゃったメリユ様に、文句の一つも言いたくなってしまう。


 何せわたしたちとのお約束を破って、また聖なるお力を振るわれてしまったのだもの!


 とはいえ、今はそんな文句よりも……わたし自身の本来の運命が『今日この日に命尽きる』というものだったということ、そして、その運命をメリユ様が強引に捻じ曲げられたということに対する衝撃が大き過ぎて、身体の震えが止まらなかった。


「本来なら、きっと避けられようもない運命だったのでしょうね」


 そう……相手は大国セラム聖国の中央教会の重鎮。

 アディグラト枢機卿様が会談したいということであれば、お兄様もわたしも素直に応じたことだろう。

 メリユ様が大きく動かれたことで場所はハラウェイン伯爵領城となってしまったけれど、たとえメリユ様がビアド辺境伯領に閉じこもっていらっしゃったとしても、アディグラト枢機卿様は王都で同じように事を起こされたに違いない。


 つまり、メリユ様なくして、わたしが今生きていることはあり得なかったということになる!


 ハラウェイン伯爵領に来て、オドウェイン帝国の離間工作が行われていたことを知り、またゴーテ辺境伯領でもマルカ様の暗殺が行われる寸前であったことも知り、帝国の魔の手が身近に迫りつつあるのは分かっていたはずだった。

 それでも、まさか……わたし自身がその魔の手にかかり、命を落とす運命にあっただなんて。


 わたしが命を落とすのは、オドウェイン帝国が王都まで攻め上がり、王城を焼き落としたとき……だなんて、考えていたわたしがどれほど甘かったか思い知らされる。


 相手は大国なのだ。

 王国内貴族の離間工作、暗殺ときて、『王族の暗殺は考えていない』なんてことあり得るはずがない。

 大軍を送り込む前に、王国を内部から崩していくなんてこと、オドウェイン帝国にとっては当然の一手だったのだろう。

 本当にどうして、まだ半月近くあるだなんて、能天気に構えていられたのかと思ってしまう。


 メリユ様がその魔の手をご神託、ご神命で察知されて、一つ一つ潰されていかれていたおかげで、ハードリー様も、マルカ様も、そして、わたしもここでこうして心も身体も壊されずに生きていられるのだから。


「メリユ様」


「メグウィン?」


 わたしの言葉に、今までわたしを抱きしめてくださっていたお兄様はそっとその抱擁を解いてくださる。

 今まで黙って、お兄様とわたしを微笑みながら見守ってくださっていたメリユ様。


 お兄様から一度お礼はされていたと言うけれど、わたしもちゃんとお礼を尽くさなければならないだろう。


「メリユ様、その……」


 それでも、いざお礼をお伝えしようとすると、目に涙が込み上げてきて、唇が震え始めてきてしまう。

 漠然と、王国の危機が……そして、わたしの命の危機が徐々に迫ってきているのだと分かってはいても、こんな早くにわたしの命が尽きることになっていただなんてと思い直すと、それだけで震えが止まらない。


「お兄様を、アリッサ、セメラを、ルジアたちを、そして、わたしをお救いくださいまして、どれほどのお礼を捧げれば良いのか、わたしは……」


 本当にそう。

 アリッサもセメラも、ルジアたちだって、今日この日、命を落とすはずだった。

 メリユ様がわたしの身代わりとして、その襲撃の場に赴かれなければ、皆の運命はつい先ほど決してしまっていたのだ。

 もう皆で笑い合うことなんて、二度とできないはずだったのだ。


「メグウィン様、わたしは当然のことをしたまでございます。

 どうかお気になさらないでくださいませ」


 わたしの顔で、わたしの声で、そう告げられるメリユ様は、お姿こそ違えど、やはり本物の聖女様で……わたしは泣き出さずにはいられなかった。


「それにお約束したでしょう?

 決して、メグウィン様を離すことはないと」


 そちらのお約束を守ってくださったことはとてもうれしい。

 それでも、もう一つのお約束を破られて、無茶をされたことだけは、簡単に許すことはできない。


 熟練した女性の影ですら、身動ぎせず目も瞑らずに『敵の剣撃をその身に受けろ』と言われて、その通りにすることは困難だろう。

 多少の鍛錬をしてきたわたしでも、いえ、わたしなら、決してできないと言い切ることができる。


 いくらバリアが張ってあるからとはいえ、絶対はないのだ。

 あの日、お力を使い果たされて、バリアも変身も解かれてしまったことがあるように、何かの間違いがあったなら、メリユ様はわたしの代わりに命を落とされていた。


 そう思うと、胸を締め付けられるような感覚を覚えてしまう。


 それでも、メリユ様は表情一つ変えずにその剣撃を受けられただなんて……メリユ様はまた一歩、使徒様側へと、神の眷属側へと歩まれてしまったのではないだろうか?

 そもそも、そんなことができる貴族令嬢なんて、この世界に(メリユ様の他に)いる訳がないのだから、メリユ様のお心が普通ではなくなってきていることだけは間違いない。


「メリユ様、また無茶をなさって!」


 わたしはもはや衝動を止めようもなくて、わたしのお姿のままのメリユ様に抱き付いてしまう。

 だって、わたしが抱き締めて、抱き留めておかなければ、メリユ様はどんどん人の心を失われていくように思えてしまうのだから。


 そして、ハードリー様とわたしに、神よりのご啓示がくだされたように、もしメリユ様がお身体もお心も人のものでなくなってしまわれたとき、メリユ様は天に召喚されてしまうかもしれない。


 そう思うと、わたしは自分の命を賭してでも、メリユ様をこの世に繋ぎ留めたいと思ってしまうのだ。


「メリユ様、ぐすっ」


 普段とは異なるメリユ様のご感触、お香り、体温。

 わたしのお姿になられているのだから、当然ではあるのだけれど、双子の姉がいれば、こんな感じなのだと改めて思ってしまう。


 わたしの大事なお姉様。


 もしわたしのお姿、お身体のままでいて下さり、わたしがこうして妹として接することで、メリユ様に人のお心を少しでも取り戻せていただけるのならば、わたしはずっとこうしていたいと思ってしまう。


「メリユ様、もう一つのお約束を破られた罰を申しつけさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「はい?」


「ご相談なく、勝手にお力を使われましたでしょう?

 ぐすっ、それに対する罰ですわ」


「そうでございましたね、申し訳ございませんでした」


「もう、メリユ様っ!

 わたしは本気で怒っているのです。

 よろしいですか? メリユ様には罰として、わたしが良いと言うまで、そのままのお姿でいていただきますから!」


「承知……いえ、分かりましたわ、メグウィン様」


 わたしと同じ声で、そんな風におっしゃられても、どうにもしっくりと来ない。


「それと、メリユ様、そのお姿でいていただく間、せっかくですから、わたしの姉として振舞っていただいてもよろしいでしょうか?」


「姉と言いますと、カーレ様のようにということでしょうか?」


「はい、本当にわたしのことは『メグウィン』と敬称抜きでお呼びくださいませ」


 わたしの願望がたっぷりと籠ったことを口走ってしまって、今になって恥ずかしくなってくる。


「メグウィン……本当に良いのでしょうか?」


 あああ、メリユ様が本当にお姉様のようで、わたしの頬が熱い!

 けれど、後もう少しお姉様らしくしていただきたいとも思ってしまう。


「もう少しお兄様らしく、と言いましょうか、お姉様らしくなりませんか?」


「メグウィン、本当に良いの?」


「は、は、はい! メリユ姉様っ」


 もうこれ以上ないくらいのお姉様のお声に、わたしはこのお方のためならば、命を張れると思ってしまうのだ。

 今日この日、本当ならばなくしてしまうはずだった、わたしの命。

 お姉様、メリユ姉様のために、使い潰すことになったとしても、悔いはないと思える。


「メグウィン……」


「メグウィン様……」


 そんなわたしたちの傍で、お兄様とハードリー様の生温かな視線に、わたしはようやく我に返ったのだった。

お待たせしてしまい申し訳ございません、、、

皆様は、寒波・雪の方は大丈夫でしたでしょうか?

まだ雪の続いている地域の方はどうぞお気を付けくださいませ!


前話から少し時間があいてしまいましたが、『いいね』をいただきました皆様に感謝申し上げます。


さて、カーレ殿下から全てを伝え聞いたメグウィン殿下ですが、自分が悪役令嬢メリユによって救われたことを知ってしまいます。

まさか、このタイミングで襲撃を受けるとは思ってもみなかったことでしょうから、本当にメリユはメグウィン殿下の命の恩人になったと言えるでしょうね!

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