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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第102話 王子殿下、王女殿下(悪役令嬢)の正体に気付き、惚れ直す

(第一王子視点)

第一王子は、襲撃の後始末をする中、王女殿下(悪役令嬢)の正体に気付き、惚れ直してしまいます。


[『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 メリユ嬢の引き起こした奇跡に懐疑的であったというアディグラト枢機卿が、キャンベーク川の奇跡を目の当たりにして態度を一変させたのは仕方のないことだと、わたしは軽く考えてしまっていた。

 まさか、アディグラト枢機卿がオドウェイン帝国と通じていて、メグウィンとわたしを害そうとしていたなんて、本当に想定外だったと言っていい。


『ょ、ょ、よし、ゃ、やれ!』


 アディグラト枢機卿が配下の修道騎士を嗾けて、メグウィンの命を奪おうとしたあのとき、わたしは……いや、アメラやハームス、フィタル、シエファたちも、動くことができなかった。

 王妃陛下専属の近傍警護だったルジアや、メグウィンの近傍警護であるアリッサ、セメラたちが自らの身体を張ってメグウィンを守ろうとしているのはすぐ分かったのだが、アメラたちもそれに加勢すべきか、わたしの警護を優先すべきか、一瞬迷ってしまったのだろう。

 そもそも、メグウィンとわたしが生まれてからこの方、近傍警護の近衛騎士、女騎士が身体を張ってまでして、王族を守る必要に駆られることが一度たりともなかったのだから、無理もないだろう。


 そんな中でも、自分の身体を盾にしようとしたルジア、アリッサ、セメラはよく動いてくれたと言える。


「はあ」


 本当に、あのとき……状況が把握できたときには、もうルジア、アリッサ、セメラが三人の修道騎士相手に時間を稼ぐも、残りの二人がメグウィンの命を刈り取るという最悪の結末しか見えていなかったのだ。

 それがまさか、斬られるはずのルジア、アリッサ、セメラの三人の姿が掻き消え、胸を貫かれるはずだったメグウィンが(何もしないまま)自分の身体で修道騎士の剣を弾き返すだなんて誰が想像できただろう。


 いくら(王女でありながら)影の女たちと同じような鍛錬を重ねてきたとはいえ、本来のメグウィンなら、大の男の体重の乗った剣撃を跳ね返すなど不可能であったに決まっているのだ。


 それなのに、メグウィンは、デビュタント前の幼い身体でありながら、微動だにしなかった。

 メグウィンに倒された修道騎士が言っていたように、床に填め込まれた石柱のごとく、剣撃どころか、修道騎士の衝突すら、片手で弾いてしまう始末。


「あれは、メグウィンではなかった……」


 そう、たとえ(メリユ嬢のように)神より聖なる力を賜ったのだとしても、一日、二日でそれを使いこなせるようになるとは思えない。

 あのような圧倒的な力を突然備えたとしても、自分に向かってくる剣撃を目を逸らさず、タダ平然と眺めていることなんて普通できるだろうか?


 できる訳がない!


 わたしですら、剣を抜かず、タダ『自分に向かってくる剣を見詰めていろ』なんて命令されても、あのように落ち着いて眺めていることなんてできる自信はないし、そもそも一朝一夕でできることとは到底思えないのだ。


「はあ」


 加えて、あの人の身であるとは思えない速さでの攻撃。

 わたしの目には残像しか見ることが叶わなかったが、確かに手刀らしき攻撃で、修道騎士たちを吹き飛ばしてしまうほどの攻撃力。


 本当に(メグウィンはどうなってしまったのだ)と、わたしは自分の見ているものを信じられなかった。


『くははははっ、お分かりいただけまぬか、カーレ第一王子殿下?

 そなたの妹君には、神の眷属である神兵が受肉され、あの使徒様を守護する任に就いておられたのだ。

 くくく、そなたの目も、儂と同じく節穴だのぉ』


 アディグラト枢機卿は、メグウィンが神兵に受肉されているのだと言った。

 そして、ハードリー嬢と二人で、メリユ嬢を守護する役に就いていると言ったのだ。


 まあ、数日ぶりに顔を合わせたときの、メグウィンとハードリー嬢は、確かに以前とはまるで違っていたのは確かだ。


 まるでメリユ嬢から片時も離れまいとするかのように寄り添うあの二人の様子を、そう説明されてしまうと、納得してしまいそうになる自分が怖ろしい。

 傍目にはメグウィンのように見えていても、中身は『神兵』というよく分からないものに摩り替わってしまっていたとしたら?

 わたしにどうメグウィンと向き合えというのだ。


「……メグウィンはどうなってしまっているんだ?」


 本当に今思い返してみても、サラマ聖女と会話を交わしているときのメグウィンは、更におかしかったと思える。


 それこそ(ずっと昔から神と通じていた)『特別な存在』であるかのように振る舞い続けていたメグウィン。


 アディグラト枢機卿のことにしても、事前に全てを知っていて、その上で此度の襲撃すら予知していたかのような口ぶりだったのだ。

 メグウィンが神兵であると信じ切っているらしいサラマ聖女とアディグラト枢機卿は、それが当然であるかのように受け入れていたようだが、わたしは違う。


 メグウィンが神兵だなんて、そんなことがあってたまるものか!


「いや、そもそも、ファウレーナという使徒が、メリユ嬢に受肉しているだと?」


 わたしの婚約者が、使徒に受肉されているなど、聖国の連中はどうかしている……と思いたい。


 いや、しかし……可能性としては、考えなければならないのだろうか?


 メリユ嬢が使徒であり、メグウィンとハードリー嬢に神兵を受肉させ、自らの眷属に仕立て上げたという可能性。

 確かにこれまでの状況を考えれば、それを否定できるだけの情報がまるでない。

 逆に、今のメグウィンの姿を見ていると、既にメグウィンは神、いや、ファウレーナとかいう使徒の眷属に成り代わられてしまっているのではないかとすら思えてきてしまう。


 そんな……わたしは妹どころか自分の婚約者すら疑わなければならないというのか?


「メリユ嬢、君は……」


 メリユ嬢が『聖国セレンジェイ伯爵領で泉を生み出した』という伝承に出てくる使徒だと?


 もしそれが本当なのだとしたら、メリユ嬢の中身は神の眷属であり、人あらざる存在だということになるのか?

 しかし、メリユ嬢は使徒であることを否定していたはず。

 まさか、受肉してメリユ嬢の身体を得ているから、今は純粋な使徒ではないと言い張る訳ではあるまいな?


 わたしは嫌な汗が滲んでくるのを感じながら、今も聖水で(自ら制圧した)修道騎士たちを癒していくメグウィンを見る。


 メグウィンは、メリユ嬢に受肉したファウレーナの眷属となり、聖水を生み出せるまでの存在になってしまったというのか?


「いや……待て、おかしくはないか?」


 サラマ聖女やアディグラト枢機卿の話が正しいのならば、メグウィンはタダファウレーナとかいう使徒を守護するだけの存在であるはずだ。

 それなのに守護対象である使徒と同じことができるというのなら、神兵であるメグウィンだけで救済を齎すことだって可能なのではないか?


 ならば、メグウィンがファウレーナという使徒を守護する神兵であるという説はおかしい。


 むしろ、今の(メグウィンでない)メグウィンは、聖女のようで……あの微笑みにしても、メリユ嬢のそれと重なるように思えるのだ。

 そう、今あのように微笑みながら、聖水を振る舞っているメグウィンは、(伝聞でしかないが)結界の中で近衛騎士たちを癒したというメリユ嬢そのものなのではないか?


『詳しくは後ほど、別室でお願いいたしたく存じます。

 さすがにここでは何ですので……』


 先ほど困ったように笑ったメグウィンの顔に、メリユ嬢の困った顔が浮かび重なっていく。


「ま、まさか……」


 まさか、本当に、そういうことなのか?

 神より事前に『メグウィンの暗殺』を神託で受けたメリユ嬢は、メグウィンに成り代わり、修道騎士たちを制圧し、人質になりかけたわたしたちすらも結界、いや、バリアによって救ったというのか?


「っ!」


 わたしは思わず自分の左手で、自分の口を押さえてしまっていた。


 今そこにいるメグウィンが、メリユ嬢が変身した姿なのか、それともメリユ嬢の宿ったメグウィンなのかは分からない。

 タダ、その中身は、メリユ嬢……彼女なのに違いないと、わたしは思うのだ。


「ああ、何ということだ……」


 今なら手刀だけで修道騎士たちを制圧したあの動きも、武闘派であるビアド辺境伯家の血を継いでいる彼女らしいものと思えてしまう。


 そう、中身にメグウィンの要素が少しでもあるように見せかけるつもりなら、あそこは短剣で対抗すべきところだっただろうに。


「くくっ」


 いや、メリユ嬢も剣で対抗することはできるのだろうが、手刀というところが、いかにも先代のビアド卿の教え子らしい。

 ふふふ、まるで正体を隠せていないではないか、我が婚約者様は。


 メリユ・マルグラフォ・ビアド辺境伯令嬢。


 今になって、メグウィンとわたし、ミスラク王国の王位継承権を持つ、たった二人の兄妹=王子と王女が彼女によって救われたという現実に気付いてしまう。


「ああ」


 もしメグウィンが殺され、わたしが人質としてオドウェイン帝国側に囚われてしまったなら、ミスラク王国に未来はない。

 そもそも、オドウェイン帝国もわたしを長く生かしておくつもりはないだろう。

 まだ、側妃殿下のお子が生まれていない今、王位継承権を持つ者がいなくなったという現実に、ミスラク王国は国内の動揺を抑えられないに決まっているからだ。

 そうなってしまえば、足並みが乱れた王国は、オドウェイン帝国に抵抗する力を失い、あっという間に征服されてしまうことになったに違いないのだ。


「はあ」


 本当に、メグウィンとわたしは、メリユ嬢の存在なしに、ここでこうして命の危機を乗り越えることはできなかったのだろう。


 たとえ、メリユ嬢がビアド辺境伯家に閉じこもっていたとして、メグウィンとわたしがハラウェイン伯爵領に移動することがなかったとしても、王都での滞在中にアディグラト枢機卿は必ず事を起こしたであろうから、此度の襲撃はどこにいても起こり得たことだったのだ。


 王子であるはずのわたしが、婚約者であるメリユ嬢にこうして救われるだなんて。

 それでなくとも、王国の存続には、メリユ嬢が欠かせないとなっているこの状況で、彼女に身体を張らせて守ってもらうことになるとは。

 メグウィンからの報告で、メリユ嬢がかなり無理をして消耗していることは知っていたというのに、また無理をさせてしまった訳か。


「……」


 全く、ミスラク王国の第一王子として、わたしはどう彼女に恩返しをしたらいいのだろう?

 わたしは目に滲みそうになる涙を必死に堪えながら、メリユ嬢のことを考えるのだった。






 その後、カブダルたちが駆け付け、アディグラト枢機卿と(聖水によって大きな傷は癒えた)修道騎士たちは捉えられた。

 そして、わたしたちの安全確保を確かめたメリユ嬢は、今までわたしたちを守っていたバリアを解いたのだ。

 アメラはもちろん、廊下に転移させられていたルジアたちに、初めから廊下にいたらしいエルたちも、全員の無事に涙を零していた。


 ちなみに、どうやらルジアたちは、メグウィンの正体=メリユ嬢を知っていたようだ。


 本当に戦い方を除けば、メリユ嬢はメグウィンの真似がうまかったと言えるだろう。


「……やれやれ」


 念のため、ルジアたちには休養を言い付け、別の近衛騎士たちに警護を任せる。


 そして、わたしは、未だ自らは休もうとする気配を見せないメグウィンに近付くのだ。


 今ならば、アメラにも聞かれることはない。


「メグウィン、いや、神兵様と呼んだ方がいいのだろうか?」


 わたしは鎌をかけるというつもりでもなかったのだが、ついそう口走ってしまっていた。


「いいえ、お兄様、いつも通り、メグウィンとお呼びくださいませ」


「ふむ、メリユ嬢はメグウィンの真似が本当に上手いのだな」


「っ!」


 メグウィンの身体がビクリと震えるのが分かる。

 それでは、自分がメリユ嬢であると告白しているようなものではないか?


「ぃ、いつからお気付きでいらっしゃったのでしょうか?」


 珍しく言葉を乱すメリユ嬢が、何とも愛おしい。

 本当に隙をめったに見せない彼女だからこそ、そんな隙をほんの一瞬見せてしまう彼女が余計にかわらしく見えるのだ。


「まあ、戦い方に違和感があったのもあったが、ああも聖水の大盤振る舞いをされてはな、守護の神兵と言い張るには無理があったのではないか?」


「確かに……うかつでございましたね」


 メグウィンの顔で苦笑いするメリユ嬢。

 やはり、その苦笑いの作り方は、メリユ嬢だけのものだと思える。


 わたしは目の前のメグウィンがメリユ嬢であったという事実にホッとしながら、


「メリユ嬢、本当にすまない!

 アディグラト枢機卿に対してまるで注意を払っていなかった。

 不用心にも言われるがままの近傍警護で枢機卿の貴賓室に入り、メグウィン、いや、メリユ嬢までも危険に晒してしまった」


 と謝罪するのだ。


「いいえ、殿下に謝罪いただくようなことなんて何もございません。

 わたしの方こそ、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした」


 なぜメリユ嬢が謝るのだ!?


 わたしたちのために、無茶をした彼女の言う言葉ではないだろう?

 まさか、修道騎士との戦いを恥じているとでも言うのか!?

 メグウィンや女騎士たちの鍛錬も見ているわたしが、メリユ嬢の戦いを見て、嫌うとでも思っているのか?


 わたしに媚ばかり売ってくる貴族令嬢なんかよりもずっと(あの戦いに身を置いていた)メリユ嬢の方が美しく見えるというのに。


「何を言う、メグウィンの姿だったのは残念だが、むしろ惚れ直したくらいだというのに」


「で、殿下っ!?」


 ああ、メグウィンの顔なのが本当に惜しいが、こういう顔もできるのだな。


「今は二人きりなのだから、殿下は止して欲しい。

 これでも、メグウィンとわたしの運命を変えてくれたメリユ嬢に、どのように謝意を示したらいいのか分からないくらいなんだ」


「まあ、カーレ様、お気持ちだけで十分でございますわ」


 もし国王陛下がメリユ嬢の働きを知れば、『気持ちだけ十分』と言われようともどれほどの褒賞を与えようとすることだろう。

 本当にメリユ嬢は自分がなしたことの重大さを理解していないようだ。


 もっともキャンベーク川の奇跡をなした後では、これでもささやかな奇跡の部類に入るのかもしれないが、メグウィンとわたしにとって自分の人生を大きく変えたものと言っていいのだから、もう少し誇ってもいいくらいだというのに。


「カーレ様?」


「いや、必ずやメグウィンとわたしでメリユ嬢に恩返しにしなければならないと思ってな」


 そう伝えても、メリユ嬢がメグウィンの顔で、『本当に気にせずともよいのに』と思っているらしいのが分かってしまう。

 そんな彼女だからこそ、わたしは彼女を笑顔にしたいと思うし、必ず幸せにしたいと思ってしまうのだ。


 そう……彼女ほどの令嬢なんて、王国中、いや、世界中を探しても見つからないに決まっているのだから。

『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきました皆様方、心からの感謝を申し上げます!


銀髪聖女サラマちゃんの話を受け入れているように見えたカーレ殿下ですが、 疑り深い殿下ですので、それを鵜呑みにすることなく、メグウィン殿下(悪役令嬢メリユ)の正体に(ようやく)気付くことができようでございますね!


たまには、カーレ殿下=王子殿下視点も、悪役令嬢もの(?)っぽくていいですね!

カーレ殿下に惚れ直されてしまったようですが、大丈夫でしょうか?、、、

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