第100話 王女殿下(悪役令嬢)、神兵と誤解されてしまう(!?)
(王女殿下(悪役令嬢)・プレイヤー視点)
第一王女に変身した悪役令嬢は、修道騎士相手に無双してしまったことで、神兵と誤解されてしまいます(!?)
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「“Decelerate”」
超加速解除の音声コマンドを実行して、世界が元の時間の流れを取り戻したとき、部屋の中はまさに死屍累々といった有様になってしまっていた。
いや……全員生きてはいると思うけれど、大丈夫だよね?
ま、まあ、それはともかく、アディグラト枢機卿の傍の五人の護衛だと思われる修道騎士さんたちもぶっ飛ばしてしまったんだが、一人残されたアディグラト枢機卿は、腰が抜けてしまったようで、その場で尻もち付いたまま、震え上がっちゃってるみたい。
「ひっ、ひぃっ!?
な、何なのだっ、この化け物は……」
あーあ、鼻水まで垂らしてだらしない。
ホント『化け物』だなんて、十一歳のメグウィン殿下に対して失礼過ぎよねー!
「こ、小娘の姿のクセして、ま、まさに神兵のごとき強さだと……こんな馬鹿なことが」
そこまで呟いたアディグラト枢機卿は、ハッとしたように目を見開いて、わたしを見詰める。
しんぺい?
もしかして、神兵ね?
「……いや、ビアド辺境伯令嬢に受肉された使徒様のお傍にメグウィン第一王女とハラウェイン伯爵令嬢が寄り添っていたとの報告を受けてはおったが……まさか、まさかっ、使徒様を守護する神兵がその二人の小娘に受肉しておったのか!?」
は……?
何だって!?
小娘に受肉とか、それってどういう意味!?
「ははっ、はははははっ、そ、そうか、神は全てを見通されておられたのか!
神兵を差し向けられるとは、くははははっ、悪いことはできぬものよなあ」
「アディグラト枢機卿、一体何を言っている!?」
もはや『猊下』を付ける気もなくなったらしいカーレ殿下が、アディグラト枢機卿に問いかける。
「くははははっ、お分かりいただけまぬか、カーレ第一王子殿下?
そなたの妹君には、神の眷属である神兵が受肉され、あの使徒様を守護する任に就いておられたのだ。
くくく、そなたの目も、儂と同じく節穴だのぉ」
「な、何だと!?
いや、そもそも使徒様とは?」
「使徒様が受肉された、そなたの国の聖女猊下のことに決まっておろう。
儂は最後の最後まで認めることができなんだが、既に教皇猊下も使徒様のご降臨と受肉をお認めになられておるのだ」
「な、何だと、まさかメリユ嬢が!?」
……おいおい、マジ訳分からんこと言い出したぞ、コイツ!?
使徒様ご降臨とか、頭大丈夫かよ?
「メ、メグウィン、ぃ、今の話は、本当なのか?」
いやいや、カーレ殿下も何そのとんでも話を信じてんのよ!?
信じられる要素なんてまるでないっしょ?
って、わたしが否定の言葉を告げようとすると、またタイミング悪く、扉が開く。
「げ、猊下っ、今の音は一体!?」
あー、ダロ何とかいうムカつく修道騎士のおっさんじゃん。
マジで邪魔だな。
コイツはグーパンでぶっ飛ばしていいよね?
「なっ……これは一体……まさか、メグウィン第一王女殿下が、これを」
ふーん、目だけはそこそこいいのかな。
いや、わたしがアディグラト枢機卿に迫っていたら、そんな風に見えなくもないか?
「ははは、まさか、そんなことはあり得ませんでしょうな。
さて、殿下、お覚悟を」
ダロ何とかもメグウィン殿下を殺るのは分かっていた訳ね。
『突き』の構えで、コイツも同じことする気か。
「やぁぁっ!」
「ダ、ダロル、やめんか、馬鹿もんがっ!
相手は神兵様であらせられるぞ」
ふーん、今更止めるんだ、アディグラト枢機卿。
まあ、間に合っていないけれどねー。
わたしは右手を前に突き出して、(何の恐怖心も抱かずに)剣を受け止めるようにする。
ガキンッ!
おそらく修道騎士さんたちの中では、特に強かったんだろう、ダロ何とかも、物理無効のわたしの前には手も足も出ない訳よ。
剣はわたしの掌で跳ね除けられ、ダロ何とかは剣を取り落としながらもそのままの勢いで突っ込んでくるだけ。
馬鹿ね。
コンクリートの柱に自らぶつかりに行っているようなものなのに。
「うげぁっ!?」
ゴンという音と共に、わたしの右手に肩をぶつけてしまったダロ何とかは弾かれたように横に転がっていく。
あー、あれは肩外れたんじゃない? マジ痛そ。
まあ、敵NPCにかける情けなんてないけれどねー。
「なっ、何っ、つぅっ!
まるで石柱に、ぐっ、ぶつかったかのような……」
はあ、外れなかった方の肩で立ち上がるダロ何とか、さすがに優秀ね。
でも、グーパンだけはさせてもらうわ!
「“Acceralate”」
二十倍超加速状態に入って、ダロ何とかに近付くと、一応ゆっくりめにグーにした手をヤツの腹にぶつけに行ってやる。
いや、やっぱり加減が難しいな。
こうゆっくりと振りぬく感じで、うん、押し込んでやると?
んん……腹の肉に波みたいのが現れていって?
「“Decelerate”」
「ぶほぉぁっ!?」
あー………飛んでいって、
ドカン、バキッ
扉突き破って廊下にまで吹っ飛んだ。
マジかよ……これでも手加減になってないのかー?
「「「………」」」
アディグラト枢機卿どころか、カーレ殿下、アメラさんも口を開ききって、呆然となさっておられる!?
「メ、メグウィン……本当に、神兵に受肉されて、っ!?」
そこで、カーレ殿下は自分の周囲に張られたバリアにぶつかって、その存在に気が付いたらしい。
「こ、これは結界……いや、あのバリアか?
まさか、メグウィンが、これを張ったのか?」
カーレ殿下は顔を青褪めさせながら、妹のメグウィン殿下になっているわたしを見る。
「そうでございますわ、お兄様。
ですが、ご安心くださいませ、メグウィンはメグウィンのままですので」
「ど、どういう意味だ!?
まさか、メリユ嬢、いや、使徒の力を拝借しているとか言うつもりなのか?
もしくはメグウィンも神より聖なる力を授かったというのではないだろうな!?」
うわー、混乱してるっぽい。
まあ、さすがに妹が明らかに異常な無双状態を見せちゃったら、そりゃ怯えても無理はないか。
いやー、メグウィン殿下ごめん!
後でちゃんと謝罪しないとこりゃまずいわよねー。
「詳しくは後ほど、別室でお願いいたしたく存じます。
さすがにここでは何ですので……」
わたしは苦笑いしながら、セラム聖国の修道騎士さんたちがそこら中でぶっ倒れている部屋を見まわしながらに言う。
で、どうやってこの場の収拾を付けようかなあと思っていると、
「ア、アディグラト枢機卿猊下、この騒ぎは一体……!?」
ああああ、銀髪聖女サラマちゃん、なんでこのタイミングで来ちゃうかなあ!?
またややこしくなってきたあ。
マルカちゃんのときは面倒事避けられたのにぃ、今回は無理ってこと!?
わたしは頭を抱え込みたくなりながら『本当にどうしよう』って思ってしまうのだった。
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悪役令嬢メリユ=ファウレーナさん、メグウィン殿下とハードリーちゃんたちにまで神兵疑惑をかけるようなことをやらかしてしまってどうするのでしょうか?
いや、まあ酷い誤解ではあるのですが……本当にとんでもないことになりつつあるようでございます、、、




