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死座ノ黒星 〜彼女はきっと神になる〜  作者: 枝垂桜
第三章 磔が嗤う常闇の饗宴
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第四話 残る爪痕を追って

 混乱の最中、逃げ場を求めて行き交う人々の間を二人は進んでいく。


「事を済ませたら、この国には暫く戻らない」

「また急に……」

「魔女の爪痕が残っている。間もなく大きな内戦が起こるだろう。

 魔女に魅入られた王……それが引き摺り落とされるのも時間の問題だ」


 魔女は男が深手を追わせているためにすぐに動くことはできないだろうが、それでも爪痕は深く残ってしまった。──いや、それ以前にあの魔女のことだ。興味が失せれば最後まで事を済ませずに消えていただろう。


「…………確かにアレを見れば人間側も過敏なまでに魔女や異教徒への警戒を強めます」


 最初こそは自分達に都合のよい大義名分を並べて他者を蹂躙する獣にも映った。現に彼等は人の命を奪うことに何も思わないどころか、愉しんですらいたのだから。

 しかしその根本がアレであれば、一部納得せざるを得ないところがあった。かつてサティナの村を襲い、家族を皆殺しにした人間も魔女達の被害にあい……そして恐れ、嫌悪したのかも知れない、と──


「ああ。それも多少あるだろうが、そんなのは都合のいい妄言を並べたに過ぎぬ。今回この国は大打撃を負ったが、それはアレが特例イレギュラーだっだけだ。

 国の規模で災害を引き起こす魔女はそうそういない。彼奴とて姿を見せたのは数百年ぶりだ」


 一度止まり、男の視線が王都の真ん中に立つ城へと向けられた。


「人間共が他者を侵略するのはそんな大した理由でも、恐怖心でも無い。

 ただ見えるところにあった都合の良い理由を並べているが、その根本には奴等の狂った宗教概念と、己以外を下等と決めつける傲慢さだ。

 故にその濁った我欲が魔女を呼び寄せる結果になった。そうして再び魔女狩りや異教徒の淘汰を始めるだろう」


 眼帯越しに男が目を細める。それだけで周囲の空間が冷たく感じられた。


「最初は恐怖心や復讐心、嫌悪と言ったモノから始まるだろうな。しかし、次第にそんなモノは薄れて、気がつけば他者侵略の大義名分となり、もう一度負の連鎖が始まる。その結果が破滅への一途を辿っていると言うことを何も学びはしない」


 そうして、再び奴等の底知れぬ我欲を面白がった魔女共が国を滅ぼす。その負の連鎖が永遠と続いてきた、と男は語った。


 何も学んでいない、と吐き捨てると再び男が歩き出す。


「まるで魔女が全面的に悪いように見えていただろうが、魔が差す隙を作ったのは奴等自身なのだ」


 ──その通りだ……


 彼等が歴史の過ちを学び、他者を差別させず、ただ自分達の国をよくしようと、世のため人のために動いていれば少しは違かったかも知れない。魔女の誘惑にも抗える強い心があれば、こんな結果にはならなかった。


 しかし現実はどうだ。己が欲に負け、魔女を受け入れ、彼女を抱き、そして魅入られた結果がこれだ。実に──


「馬鹿馬鹿しい……」


 前を歩く男のようにその胸を貫いてやるくらいしていれば、また結果は変わっていた。単純な力自体はそこまで無い彼女達が、力尽くで国を滅ぼすことは出来ない。


 いざ戦えば確かに犠牲が出ることは免れないが、国が滅びるなどと言う結果にはならなかった。


「急ぐぞ。エルフ共の姫はここにいなかったのだろう」

「ええ。その他にも数名別ルートで連れて行かれたそうです」

「高く売れる者は皆そうだ」


 胸糞悪い話だ、と内心悪態を吐きながら駆け出した男の後を追う。











 その道中、サティナが徐に口を開いた。


「『血銀ちしろがねの魔女』とは何ですか?」

「…………奴は魔女の分類カテゴリーてとしては異質だ」


 暫く間を置いてから、彼は語り出した。


「『血銀の魔女』と呼ばれているのは姉由来で、殆どは『水銀の魔女』の方が主流だ」

「彼女の姉が、どうかしたのですか?」

「奴の姉は血を媒介とした魔法を主体としていた。基本、奴等は二人で行動を共にしており、血と水銀が舞うような姿から『血銀の魔女』と呼ばれた」


「それでは、『血銀の魔女』と言うのはどちらか片方ではなく二人揃っての呼び名、と言うことでしょうか?」

「そうだ。片方ずつである場合、妹の方……今回俺が探している方が『水銀の魔女』。そして奴の姉が『吸血姫』と呼ばれている」


 ふと聞き覚えのある単語にサティナが首を傾げた。様々な伝承で聞く単語だが、その存在自体は相当希少だと言う。

 下界にも魔界にも存在しており、共通の目撃情報としては夜にのみ姿を現すようだ。


「吸血鬼、ですか?」

「鬼では無く、姫だがな。それに奴等は正式名称は血族ヴァンパイアだ。話を戻すが、吸血姫はある実験の果てに作り出された欠陥品だ」


「…………」

「魔法と化学の融合ハイブリッド。そのまま魔法化学と呼ばれている品物だ。

 ある科学者、あるいは医師か、が……その二つを融合した上で、とある存在を作り出そうとした」


「それで選ばれたのが血族ヴァンパイア、ですか?」

「そうだ。厳密には血族ヴァンパイアの強みをそのままに、欠点デメリットを取り除いた存在だ」


 生き血を定期的に必要とすることや、日光に弱いことを取り除けば魔人に匹敵する力と彼等以上の不死性を持つ存在。欠点デメリットを取り除けば、歴史上最強の種族となるだろう。


「最初こそはゼロより強い個体を作り出す予定だったが、何せその者がいるのは前人未到の領域。当時、あるいはそれ以前よりも昔から魔法化学と言う存在はあまり主流ではなく……何よりも、当時は既に失われた技術だった。故に奴はもといる個体をより強化する方針へと変えた」


 考えるような仕草をするサティナ。そんな彼女を余所に男は言葉を続ける。


「魔法を使用せずとも瞬く間に傷は癒え、強力な個体ならば首を刎ねられも暫くは生き、すぐに繋がればそのまま再生する。素の身体能力と地力は魔人にも匹敵し、始祖クラスにもなれば霧化を始めとした出鱈目な能力を持つ」


 唯一の攻撃方法と言えば聖属性による治癒阻害程度、と言う。聖属性や特殊の効果が無い攻撃では瞬く間に傷は治るのだろう。


「その血族ヴァンパイア共の真祖を奴は捕らえた」

「そんなことが、可能なのですか?」

「現に出来た。元々血族ヴァンパイア共は仲間意識が薄かったが、それでも真祖を慕う者はそれなりおり、そこから奴を生きたまま攫うなど普通であれば不可能だ」


 故に、と男が続けた。


「『初代勇者』エル=フレイドが送られた」


 最早、悪夢だ……何なら血族ヴァンパイア達に同情するレベルの厄災だ。血族ヴァンパイアの弱点とも言える聖属性を纏う大聖剣を振るい、魔王にも匹敵する力を持つ化け物だ。


 大国でも裸足で逃げ出すに違いない。


「加えて、血族ヴァンパイアはある事件よりその数を大きく減らしていた。元々数が少なかった奴等は瞬く間に淘汰され、生き残ったのは真祖の寵愛、あるは庇護を受けた極々一部の者のみ。──真祖が魔王にも勇者にも匹敵する力を持つ故に、身の回りの者達だけは守り通せていた」


 そして、と男が言う。そんな彼等の所へ送られたのは真祖と同格の化け物、『初代勇者』エル=フレイドである、と──


「結果は貴様の予想通りだ。真祖が自ら進んで捕まったために、皆殺しは避けられたものの仲間は人質に囚われているために、実験にも協力的な姿勢を貫いた」

「何故、勇者がそんな事を?」


「当時、奴の理性は相当に削れていた。力だけなら全盛期を保っていたが、技も失われ、一部の聖剣も扱えなかったと聞く」


 まぁ、それでも血族ヴァンパイアの真祖が戦いを避けるほどの強さはあったのだろうが、と男は興味なさげにそう答えた。


「貴様も知っているだろうが。奴が理性を取り戻したのはつい数十年前のあの時だ」

「ええ。よく覚えています」


「……話しを戻す。結果からすれば、実験の経過は順調だった。陽の光にも強い、それに何故奴が吸血属ではなく、血族と呼ばれているか分かるか?」


サティナが黙って首を振れば男が再び話し出す。


「奴は殆ど吸血はしなかった。相当消耗した時の応急処置としての吸血は行っていたが、日常的に吸血はしていない。食事としての吸血もまた滅多にしない奴だった」


恐らくは、それが彼女の拘りだっのだろう。きっと心優しい少女で、誰かを傷つけてたくなかったのだ。


「実験は順調に進み、奴はより強大な存在へと昇華した。だが、過ぎる力は身を滅ぼすものだ。力に溺れ、理性を失った真祖は誰彼構わず攻撃し始めた。当然、エル=フレイドを止めに入れたようだが、両者の力自体は五分……聖剣がある分、幾分が有利にも見えたが、特殊な血を纏った攻撃が奴に癒えぬ傷を追わせた」


 何よりも、男が続ける。


「人質があったために大人しくしていたが、奴は血族ヴァンパイアの真祖だ。エル=フレイド相手とは言えど、劣る筈がない。

 結果、奴の研究室は崩壊し、真祖は自身を犠牲にしてまで助けた仲間の殆どをその手にかけ、逃げ出せた者は幾ばもいまい」


 あまりにも報われない、そう俯くサティナ。しかし彼の話しなは続きがあった。──否、ここからが本題だ。


「エル=フレイドを生かすため、主犯者は研究室の残った物を使い奴を延命した。結果、エル=フレイドはつい最近になるまで起きることはなかったのだがな。対して、『吸血姫』と昇華した真祖は破壊の限りを尽くしたと言う」


生きとし生けるものモノを無差別に殺し、そしてその生血を飲み干して……ただ永遠と砂漠を彷徨い続けるように、渇きと飢えに身悶えていた。


「……その彼女が何故……?」


「単純な話しだ。その後理性の戻った奴は森に捨てられていた赤子を広い、朽ちた教会でその娘を育てた。恐らく、仲間殺しをした罪滅ぼしのつもりだったのだろうな」


 黙ったままのサティナ。そんな彼女の様子を知ってから、一度言葉を切るもすぐに口を開く。


「その後、拾った娘が成長するが、何分奴には才能があった。自身の身を守るには余りある力を付けた奴だが、見にかかる火の粉を払う以外にその力を振るうことはなかった。そんな中で、奴等を目にした者達が何故だか奴等を魔女と比喩するようになった。


 外見だけを見ればとても母娘には見えず、何よりも娘の方が真祖を姉と呼んでいたために、奴等が姉妹だと認知された。その後、人気の少ないところに住み、何百年も姿形を変えず、高度な魔法を使える奴等には自然と魔女と言う異名がついたのだ」


「それで貴方はエル=フレイドの復活を受けて、彼女達を探した、と?」

「……あながち間違いではないな。しかし、奴の姉はもう生きてはおらぬ」


 絶句するサティナを見やり、男が答えた。


「俺が滅ぼした。──皮肉にも奴を攫った主犯者の計画はここに来て完成した。姉は妹に生きる術と与えるべく、その力の全てを妹へと継承し……そうして姉の死とともに不死となり、血族の真祖となった奴は完成した一個体となった」


 不死故に食事となる吸血は必要なく、そして陽の光も無意味。弱点となり得る全てを克服し……全種族間で最高峰の力を持ち、完全なる不死性と高い再生能力による破格の耐久力を得た。


 ──皮肉にも彼女は完成してしまったのだ。亡き姉が辿り着けなかった、そして成るべきだった理想の姿へと……


「…………だから、嫌われているのですね」


 どこか納得したように、それでいてやはり腑に落ちないと言った表情を浮かべる。


「何故、彼女を手をかけたのですか?」

「それを知ってどうなる?」


「いいから答えてください」

「ただ、仲間殺しの罰が下った。そう思っておけ……現に奴自身がそう思ったのだからな」


 怒気を込めて答えるよう言い放てば、男がそう返す。その言い草にサティナが強く男を睥睨する。


「それで私が納得するとでも?」

「納得しろ」


 話しは終わりだ、と言わんばかりに無言になる男にサティナもまたこれ以上は食い下がる意味もない、と口を結んだ。











 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー










 その後、男の指示でアルカナを連れて宿の一室へと戻る。


 聞けば森へ転移させた亜人達は既に仲間の元まで送り届けた後のようで、ずっと彼女はサティナが現れるのを空っぽになった鉄格子の隣りひ立っていたのだ。


 そんな彼女の前に現れれたサティナへ、すぐにアルカナが飛びつく。


「鉄格子の中に姫がいなかったわ!!」

「ええ。私も彼も知っています」


「それじゃ──!」

「落ち着いてください、そのために私がここに来たんですよ。まずは彼の元へ戻りましょう。既に彼女達が連れられた所に心当たりがあるようです」


「そ、そうだったのね。既に手を打ってくれていたなんて……」


 漸く落ち着きを取り戻した様子だが、こんな焦る気持ちでよくここで待ち続けられたものだ。素直にそう関心すると、彼女を連れて宿へと戻る。


 そうして宿の一室、その扉を開け放ち、サティナは思わず息を呑んだ。そんな彼女の横で同じように部屋へ入ってきたアルカナは、サティナの反応に首を傾げるだけだ。


「どうしたんですか、その格好?」


 そう、サティナが驚いているのは男の姿だ。付き合いの短いアルカナからすれば男の格好が変わったぐらい何だと言うんだ、と言う反応で済んでいるが彼との付き合いが数十年以上のサティナには天変地異に等しい出来事だった。


 そんな彼女の反応を見て男もほとほと呆れた様子だ。


「そんなに俺の変化がおかしいか?」

「いえ、そう言うわけでは……よく似合ってます」


 自分でも思っているよりも動揺しているのか、訳のわからないことを言い出すサティナ。そんな彼女の前で、片側オールバックにした男がその眼帯越しに目を細める。

 いつもは邪魔な分だけの髪を無造作に切り落としたような男が、こうも身だしなみを整えるとは──いや、元々の髪型も決して悪いわけではなかった。


 独特なロングコートを羽織っているものの、その姿格好は正装にも近く、今や整えた髪も相まって本物の貴族のにも……いや、どちらかと言うと纏う雰囲気は魔王に近いだろうか。


 白いワイシャツに黒いネクタイ、黒いスーツベスト。上に羽織るのは襟が低い振袖付きのロングコートだ。

 くるぶしまであるロングコートの肩部分は前半分以上が切り開かれており、背中には白い十字剣が刻まれているのだろう。


 無造作に垂らした左前髪が眼帯にまで届いており、しかし透いた髪で目が隠れるようなことはなさそうだ。眼帯を外せば、の話だが……


「まぁ、良い。貴様等もさっと準備しろ」


 日暮れまでに、だ。と言う男に二人が首を傾げた。


「これから奴隷市場に行く。とは言え、行くの奴隷市場は普通のモノとは勝手が大きく変わるからな」


 それだけ言われるとすぐに察したサティナが服を脱ぎ出した。迷いのない彼女の動きにアルカナがギョッとしたように目を見開く。


「ちょ、ちょっと!!」

「貴様もだ。さっさと着替えろ」


 慌てふためくアルカナへ男が収納魔法からドレスを取り出し、投げつけた。それを受け取り、しかし未だに目を回すアルカナへサティナが耳打ちした。


「何を恥ずかしがっているのですか? そんな暇はありませんよ。何よりも彼は眼帯を付けているじゃないですか」


 男の前で服を着替えることに抵抗があるのか、サティナがそう諭せば、確かに、と頷きアルカナも恐る恐るといった様子で服を脱ぎ出す。


「時間が無い故、着替えながら聞け。これから行くのは奴隷市場とは言ったが、厳密にオークション式の会場だ」


 つまるところ、会場内の誰よりも大金を叩いて望みの商品を落札する必要がある。そこで問題になるのは──


「そんな大金あるんですか?」

「用意してある」

「もし、足りなかったら?」

「力尽くで奪う」


 どちらによ欲しいモノは手に入れる、と言う男に二人が静かに頷いた。最早、それしかないのだ。

 穏便に済ませるなら形式ルールに従って落札するべきだが、いざとなればそんなことはどうでもいい。


「それと、コレを付けておけ」

「……? コレは?」


 二人へ投げ渡したそれを見て彼女達が首を傾げた。


「原則として素顔は出さない決まりだ。少なくとも顔の半分以上は隠さなくてはならない」


 二人は手元にある奇術師の仮面を見下ろすと、それを顔に付けた。──直後、サティナふと首を傾げた。アルカナの方は両目とも空いているのに対して、サティナは左片方しか空いていないのだ。


「刻限だ。行くぞ」


 と、そんな疑問を口にする前に男が部屋を出る。そんな彼の後を追ってアルカナとサティナも部屋を後にし、未だそれなりに人通りのある道を進み、三人は夜の闇へ溶け込んでいった。

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