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死座ノ黒星 〜彼女はきっと神になる〜  作者: 枝垂桜
第三章 磔が嗤う常闇の饗宴
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第三章始話 夢を結ぶ呪詛

 遥か太古、古き人の時代。


 阿鼻叫喚と化した地獄絵図、死屍累々が積み重なる大地に降り注ぐ静寂。鉄と肉が焼ける臭いと、臓物の悪臭が鼻を劈く。

 人はおろか、動くモノの気配が一切見当たらない筈の赤き空の下、人影が浮かび上がる。


「はぁ……はぁ……」


 屍山に突き立てた剣を杖代わりに傷付いた体を支えて、苦しげに息をする人影。


「……足りぬ」


 ポツリと溢した言葉は重く、どこまでもやるせなげだ。


「これしきの血では、到底足りぬ……!」


 力無く、無機質に言い放てば一度剣を引き抜き、ズチャッと音を立てて再び屍の山へとそれを突き立てた。

 焼けた鉄のような赤い瞳が無感情に屍を睨みつけ、そうしてゆるりと背筋を伸ばすと天を仰ぐ。


 ゆっくりとどこまでも届かぬ高みへ手を伸ばすように赤い空へ向けたそれを下ろして、無造作に剣を引き抜く。と、同時にして背後から吹いた風が乾いた血のような赤黒い髪を揺らす。


「…………何者だ? 姿を見せろ」


 ゆるりと振り返り、何もない空間へ語りかける。戦いに明け暮れ、気でも狂ったのか……そう思われるような時間が過ぎて、しかし男は何もない一点を睨み続けた。


「二度は言わぬぞ」

「……悉くを滅ぼして、なおも敵を求め、血を求めて──死に損ないが死に場所を求めて血で血を洗う」


 どこまでも、場違いなほど透き通った声が木霊する。凛とした声にはしかし、隠しきれない哀愁が滲んでいた。


「それじゃまるで、戦場を彷徨い続ける亡霊だ。成仏することも出来ない」


 深い憂いを帯びた白光色の瞳。発光しているかのような純白の髪を血生臭い風に靡かせて、その少女は姿を現した。その身に纏うのは花嫁衣装ウェディングドレスにも見える純白のワンピースドレス、あるいはフィッシュテールとも言うべきか。

 年の頃は十代半ばと言ったところだろう。未だあどけなさの残る顔には、あまりに不相応な哀しみを秘めている。


「俺を知るか? ならば話しは早い」


 言うや否や、男がその切っ先を少女へと向ける。まるで闇十字を象ったような刀を向けられて、なおも彼女の顔に怯えはない。──ただあるのは、底知れない哀しみだけだ。


 あかかがやく邪眼。──その奥に刻み込まれた影色の【円環十字】が浮かび上がれば、冷たい熱を帯びた瞳が少女を力強く射抜く。鍛え抜かれた精神を持ってしても押し潰さかねない鋭い眼光を、年端もいかぬその娘は真っ向から見つめ返していた。


「去ね」


 刹那、雷鳴が轟いた。不協和音の混ざる雷鳴が遥か彼方まで響き渡り、赤き血の空を闇色へと染める。屍の山が重なった大地を赤く照らし、滅びが少女へと落雷した。

 しかし、滅びのいかづちに撃たれたまま、白い少女は悠然と歩を刻む。その光景にさしもの男とて訝しげに眉を顰めた。


「業が深い……」

「何を言っている?」

「君のことだよ。何度生まれ変わろうとも、決して消えることのない悠久の呪詛。必滅と不滅を宿命付けられ、背負った業に従い血を求めてる」

「貴様にはそう見えるのか?」


 そう聞き返せば、やはり少女は悲しげな目をするだけだ。何故、そんな目をするのか疑問に思う間も無く彼女は口を開く。


「僕じゃなくても、そう見えるよ」

「その通りだ」


 次の瞬間、少女の体を業火が包み込む。多重螺旋を描いた炎が天へと伸びる火柱と化し、二人を飲み込んだ。

 周囲に散らばる屍の山を黒き灰塵と化して、業火の黒き炎が赫々と燃え盛る。


「故に何も変わらない」

「そのままじゃ、同じことの繰り返しだよ?」

「構わぬ。貴様等が俺に付けた仇名がその証だ」


 ──『潰滅の狂王』──


 ありとあらゆる全てを踏み躙り、捻り潰す。

 存在している。それだけの理由があれば、悉くを滅ぼし尽くす。


 まさしく冒涜の象徴。

 紛うことなき狂い王。


「俺が何者か、よく分かっている」

「うん……。良く、知っているよ」


 儚く微笑む少女。何故彼女にそんな表情かおが出来るのか理解出来ない。


「全ては救えない、大を生かすために小を殺し、悪に徹する。生き馬の目を射抜くように、虎視眈々と他者の尽くを奪い合うこんな世界では、一瞬の弱味も見せられない。守るために非情を貫き、多くの者を手にかけてきた」


 まるで核心をつくように彼女は語り出す。


 なのために戦うのか……それは強みであり、そして同時に弱味でもあるのだ。──そう、誰かを守っていると知られればそれが狙われる。何かのために戦かっていると知られれば、それが狙われるのは道理ではないか。

 故に彼等はひたすらに隠し、ただ戦う為に戦ってきた。──少なくとも彼女以外はそう思うことだろう。


「悪を喰らう悪として、君は次代のために剣を振り続けた。誰もが、どんな狂人ですらも恐るほどの……誰も彼もが理解出来ない化け物であろうとした。

 理由もなくひたすらに血に飢えた化け物だと思わせていれば、君のために君以外が狙われることもない。何の罪もない誰かが余計に犠牲になることもない」


 そう言う少女の顔は悲しみに歪んでいて、涙は枯れているのか、流すことはない。


「誰かを守ろうとすればそれが弱味になる。誰かが狙われる、たちまち喰い物にされる。

 大切な者をそばにおけば、敵に狙われる。情があることが知られれば、必ずつけ込まれる。


 それが分かっていたから君は取り憑かれたように血を求めた。──自らの大切な者でさえも、必要とあれば血に染まった腕の中に抱くことも厭わなかった」


 苦しげな表情で、しかしその眼差しは慈愛に満ちていた。まりに年不相応なその姿は、普通であれば不気味にも映るだろう。──そんな彼女の姿が、そんな表情をさせているのが、この残酷な世界が生み出した罪だ。


「君の姿形が、その行動が、その言外に込められた言葉の意味が……全て語っていたんじゃないのかな?」


 どこまでも、全てを見通すような眼差しで彼女は言う。


「何でその剣は十字架を模しているの? それもまるで、騎士剣のように……。それは君自身が重ねた罪を忘れないためでしょう。生まれ変わり記憶を失っても、それでも消えぬ想いと共に自らが積み上げてきた罪を決して忘れないため……その戒め。そして騎士剣を模すのは、いつまでも正しき剣を振ろうと言う強い意志の表れ。


 何で君は礼服にも似た格好をしているの? それは死者へ対する葬送なんだよね。十字架を模した刀と同じく、君はその手にかけてきた者達へ……これから手にかける者達へ対するせめてもの敬意、葬送の意。次、彼等が生まれ変わる時はきっと幸せであるように願って。

 刀を握るのも同じで、きっとそれは君なりの介錯なんだ。


 どうして眼帯で瞳を覆うの? それは一片の弱味を見せないため。瞳の奥に映る弱味も、人らしい感情の一切もが外に映らないように、君は心情の写し鏡である眼に蓋をしてきた。


 君の扱う魔法もまた同じ。黒雷に不協和音が混ざるのは何で? それは悲痛の叫びにも近いんでしょう。炎も雷も結晶も闇も黒いのは何者にも染まらぬ意志の表れ、尽くを塗り潰す強い想いの具現」


 その全てを知るように少女がひたすらに問いかけ、答える。そんな彼女の言葉を男は黙ったまま耳を傾けていた。


「悪を滅ぼし、罪を滅ぼし、ひたすらに突き進んだ。何度も何度も、幾度生まれ変わろうとも君は同じことを繰り返してきたんでしょう。

 ただ血を求める狂鬼のように戦った。それで守れなかったものも沢山あったはずだけど、その方がより多くを守れると信じていた。必ず世界は変わると信じて……手を染めた分だけ、滅ぼした分だけ平和に近づけると信じて」


 男へ両手を伸ばして、彼女は言う。まるで彼の全てを肯定するように深い慈愛の眼差しで、


「だから、ね……君は狂王なんかじゃない。だって君は、『滅びの王』なんだから」

「随分と皮肉の効いた名だ」


 相も変わらず無表情のまま、男がそう言い放つ。そんな彼へ少女は健気に、そして幼気な笑みを浮かべた。


「何故それを貴様が知る?」

「僕はずっと、君を見てきたから」

「言い得て妙だ」


 スッと男が目を細めた。それだけで周囲の気温がひと回り下がったような錯覚すらも覚える。


「貴様、何者だ?」

「名乗れば、いいのかな?」


 男は無言だ。ただ鋭い眼光で少女を睨むだけ。


「名前は無いよ。君と同じ──」

「俺と貴様は違う」


 少女の言葉を遮って男が言い放つ。冷水の如く冷たい声を浴びて、しかし彼女の顔に浮かぶのは底知れない憂いだけで──


「うん、僕と君は違う……まるで、正反対なぐらいね」

「それを分かってるのなら即刻立ち去るが良い」

「…………斃ぼさないの?」

「滅ぼされたいか?」

「その方が君のためだよ?」

「貴様の言う通り、俺達は相容れぬ存在だ。終ぞ交わることはない」


 刀を納め、男が踵を返す。そうして少女から距離を取るように歩き出した彼の前に、光と共に少女が姿を現した。


「何のつもりだ」


 赫い瞳に黒電を走らせて男が少女を睨め付けた。そんな彼の瞳を真っ向から見つめ返して、彼女はゆっくり瞬きをする。


「そんなに急いで何をするつもり?」

「知ったことを」

「また、血を求めて新たな戦地へ向かうの?」

「他に何がある?」


 にべもなく言う男を静かに見つめ返して、少女は一歩前に出る。そんな彼女の身体に再び黒き雷が落ちた。


「邪魔だてするか、愚かな娘よ」

「…………僕では君を止められない。そう、決まっているんだ」

「…………ならば、疾く去ね。さすれば命までは取るまい」


 刹那、瞬きの間もなく抜き放たれた刀が少女の薄い胸を貫く。滅びの雷も炎を通じなかった彼女を、それは易々と貫いて見せたのだ。

 溢れ出した血が黒い刃を伝い、白い少女を穢していく。そんなことすら意に介さず、彼女はただ男を見つめるだけだった。


「他でも無い君に斃されるなら、本望だよ?」


 両手を広げて、どこまでも達観した表情の少女を男は怪訝そうに睨め付ける。鋭い眼光が白い少女の心境を差し測ろうと研ぎ澄まされるも、彼女の心を理解することが出来る筈もない。


「気が狂ったか?」

「そう、かもね。でも──」


 口から流れ出る血を拭いもせず、少女が自身の胸を貫く刀に触れる。まるで愛おしむように自らの命を奪わんとする凶刃を撫でて、ゆっくりと顔を上げた。


 白光色の瞳、その奥に底知れない闇を宿して男の邪眼を真っ向から見つめる。幾度となく目にしてきた光景に、さしもの男とて思わず顔を強張らせた。──どこまでも達観し、悟りすらも開いたように見えた彼女ですらも、心の内に澱んだ闇が巣食うっていた。


「貴様は……!!」


 辛うじてそれだけ呟いた男に、少女が目を見開き……そうして、嗤う。


 艶やかに。心底、嬉しそうに。

 否――恍惚の表情とでも言うべきか。


「そうだよ、その表情……君はもう僕を忘れない。その手で僕を滅ぼしたいと思って、僕だけの事を考え続ければいい……。そうすれば必ず──」


 透き通るような白い肌を紅く染め、高らかに宣する。それは呪いの言葉の如く、常に無機質であった筈の心に深く突き刺さる。

 魔女の如く、どこまでも人の心を弄ぶような言動。それとは裏腹に、その想いはあまりに一途で──それがまた呪詛のようだった。


 彼女の言う通り、男はもうこの少女を忘れることなんて出来ないだろう。狂気の沙汰だと思われ続けた彼の全てを知り、その上で少女は──


「気は確か、か……?」


 刀を握る男の腕を逃すまいと掴み、少女がまった一歩彼に近づく。


「何を今更……僕は、君と初めて出会ったその時から……もう、神眼が曇ってしまって視えていないんだ」


 くすくすと狂気的に嗤う少女の背後、男が目を見開くそれは忘れようのない光景。音も無く開くのは五対十枚の巨翼……純白の光を放つそれから発せられる力は尋常ではなく、大量の羽毛を周囲へ舞い散らせて咲き誇っていた。


「何の真似だ……?」


 そう問いかけてもやはり彼女は薄寒く嗤うだけで──不意に腕が強く引かれ僅かに前のめりになる。足を踏ん張り得体の知れない少女へ近づくことを拒むも、それよりも速く彼女が前に出ていた。

 理想的にまで整った美しい顔がすぐそばにある。互いにまつ毛が触れそうな距離で彼女が目細め、そうして男は自身の唇に生暖かい感触を感じた。


「──っ!?」


 目を細める少女とは対照的に目を見開く男。口の中に広がる血の味すらもどこか遠くに感じて……本来であればすぐにでも突き放していた筈なのに、何故だか身体が動かない。

 冷たく細められたその瞳に射抜かれ、金縛りにあったように動けないまま数秒が過ぎた。


 動いたのはやはり少女からだ。無造作に重ねられた唇を離すと、ペロッと舌を出して口端から流れ出る血を舐め取る。ピンクの舌が鮮血によって赤く染まる光景がまた妖麗で、釘付けになったように目を離すことが出来ない。


「ごめんね。でも、これは僕からの祝福なんだ」


 少女の身体から光の羽毛か立ち上り、その姿が薄れ始める。そんな彼女から刀を抜き取ると、傷口を癒そうと力を流し込み、しかし一向に傷が言える気配がない。男が今までに目にした誰よりも力を持っている者が、存外呆気なく死への片道を辿っていた。


「最期だ……」


 力を無くしていく少女を抱き止めて、彼女の瞳を見下ろす。どこか狂気じみた色を宿しながら、その瞳には隠しきれない闇が広がっていた。


「今一度問おう。貴様は何者だ?」


 どこまでも得体の知れない者へ、その正体を問う。しかし彼女はどこか小気味よさそうに嗤うと、弱々しく首を振った。


「僕は何者にもなれなかった……だから、名前もないんだよ」


 ふふっ、と笑えば彼女は自身を抱き止める男へ手を伸ばす。


「君の言う通り、僕と君は違う。君は何者にも染まらぬ覚悟故に、名を捨てたんだから……」


 何者にもなれなかった少女。

 何者にも染まらぬ男。


 一見すれば同じ『名無し』にも見える。しかし全てを黒く塗り潰す程の覚悟を持った彼とでは、天と地の差がある。


「くだらぬ」


 だが、そんな彼女の憂いを男は切り捨てた。その赫い瞳が真っ直ぐと少女を見据え、その奥に巣食う闇すらも塗り潰さんと眼光鋭く彼女を睥睨した。


「何を憂う必要がある?」


 少女が訝しげに見つめ返す。真っ直ぐと、それは彼女のよく知る眼だった。

 今も昔も、彼女の心を掴んで離さないあの瞳。彼女の知るそれとは違う色である筈の瞳は、何も変わらず遠い未来だけを見つめていた。


「…………貴様は何者になるか、それだけだ」


 驚いたように目を見開き男を見つめ返す。喜怒哀楽の一切を感じさせない顔にはあるのは、隠しきれない激情だ。彼女の中で何かが堰を切ったように溢れ出しているのだろう。


「…………変なこと言っても、笑わない?」


 男は無言だ。それは彼の優しさであり、また誰に情を見せることも出来ない彼の姿だった。


「…………多分、一目惚れだったんだよね」


 吐き出された言葉に男は何も言わない。しかしそんな中でも、まるで独告のように少女は言葉を紡ぐ。


「今でも鮮明に覚えているよ。怖ったけど、それ以上に胸が高鳴ったんだ」


 何のことか男は知らない。しかし、それも当然のことだ。──それでも少女は言葉を切ろうとはしなかった。


「ふふっ、君のことだよ」


 真っ直ぐと潤んだ瞳が男を見据えている。その視線を真っ向から受けて彼はやはり無言のまま──


「ずぅっと、待ってたのに……君はいつも先に行っちゃって、僕がいくら手を伸ばしても届かないところにいるんだもん」

「…………」


「ふふっ。分からない、って顔をしてるね。僕も分からないんだ。でも、ね……理由が必要なのかな、って思っちゃったんだよ」


 ただ、好いている。それだけの理由があれば十分なのではないのか……そう問う熱を帯びた視線にも男は何も言わずに、ただ彼女を見つめ返す。


「いつも冷たく遇らわれてるのに、何も答えてくれないのに、眼光鋭く睨み付けられるだけなのに……どうしてか、胸の高鳴りは増す一方なんだ」


 正気を疑うような発言をする少女が浮かべる笑みは、そんな言葉とは裏腹に思わず目を奪われるほど美しかった。純粋なほど健気に誰かを想い続ける者のそれだ。


「何で、だろうね? やっぱり僕も例に漏れず、どこかおかしいのかな?」


 自嘲気味な言葉とは違う。今の彼女が浮かべる笑みは先程までの狂気に満ちた表情とは打って変わって、憑き物が落ちようだ。


「でも、もう無理みたい」


 白い少女の身体は薄くなり始める。身体か半透明になっていく中で、鮮やかな瞳はただ男を見つめていて、


「……願わくば君の──。うぅん、それは僕の我儘かな……折角、看取ってくれているのにこれ以上困らせたらだめだよね?」


 自らの死よりも、理想の未来を手に入れられなかった嘆きを口にする少女。


「ふふっ。皮肉、だよね……君のことを誰よりも知っているような口振りで話しておいて、何一つ助けてあげることも出来ないなんて」


 殺された恨みを口にするでもなく、胸を貫かれた痛みを訴えるでもなく、ただ男を案じるようにそう告げると、その姿を純白の羽毛へと変えていく。


「あっ、それとも先約があったかな?」


 くすくすと朗らかに笑い、茶化すように言う。


「そう言えば、そんなことすらも聞いてなかったなぁ。本当に、何も知らないんだから」


 自嘲気味に笑う少女を男が見下ろす。そうして彼が漸く、口を開いた。


「…………それが遺言でいいのだな?」


 一瞬、驚いたような表情を浮かべたものの、すぐに理解したのかその笑みを深めた。そうしてもう触れることも出来ない手を伸ばして、いくばも言葉を紡げない少女へ告げる。


「…………いいだろう。全てが終わった時、必ず迎えに逝く」


 死後の世界は分からないが、死んでまで狂人を演じる必要もない。それだけは確かで──


「あはっ。じゃあ無理だぁ……さっき僕が施した祝福で、君は死ねないんだもん」


 その言葉に目を見開いたのは男の方だ。そんな彼の表情など見えていないかのように、少女がその顔を綻ばせる。


「ふふっ。でも、嬉しいなぁ……だから、生まれ変わっても忘れないでね? 嬉しいの、無かったことにしないでね?」


 ふんわりと笑う少女がそう告げる。


「約束だよ、神様……」

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