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お仕事の時間はつまらない

 くぐった瞬間にパリンというガラスが割れたような音を聞いた。

 視界は一瞬だけ暗くなり、世界が切り替わる。


 魔法陣を出るとそこは駅前でした。


 視線が俺に集まる。やだ恥ずかしい。

 老若男女が歩いている道のど真ん中に俺がいきなり現れたのだから当然といえば当然だが。まぁ服装も良くてコスプレ、悪けりゃ変質者にしか見えないもんな……おいそこの青年、携帯で撮るんじゃない、肖像権の侵害やぞ。

 さすがにじろじろ見られるのも嫌だしさっさと始めよう。

 アーフェ曰く俺が最初のプレイヤーって言ってたし、時間は物語開始前で確定。

 1話のモノローグ曰くプレイアースが現れるまでに何度かピーシーズの起こした事件があったらしいし。

 がっかり。

 強めに地面を蹴って飛び上がり、街頭の上に立つ。

 俺の顔を覆うベールを模したモニター、その端で、プレイ時間のカウントダウンが始まる。1時間……長いな。

 

 さて


 チョーカーからボールを取り出す。

 幼女の手には少し大きいそれは一見ただのガラス玉。しかし、中でうごめく黒い煙のようなものが入っており、それがあまり良くないものである事を視覚的に教えてくれる。

 ほーん、これがやられやくのテキダゾーか。

 本来なら形を持たないテキダゾーは、近くの無機物に憑りつく事で実体を得る。

 つまり、俺はこのボールを何かにぶつけて中のこいつを出す必要があるわけだが……

 

 ……適当でいっか。

 プレイアースもまだいないし。

 気が進まないが、やらないと俺が死ぬ。

 だからこの世界のモブたち、許してちょーだい。

 俺だって善良な元市民、心苦しいんだぜ。ほんとだよ。

 

 テキダゾーの憑りつき先は、今ロータリーに入ってきたバスにしよう。


 我が意に沿えテキダゾー!なんつって


 投げたボールはちょうど人が降りきった瞬間のバスのフロントガラスに当たり、パリンと砕ける。

 中に封じられていた靄ことテキダゾーは意思を持って動き、車体に染み込む。

 変化はすぐにきた。

 後輪の車軸が肥大化し丸太の様な足になる。

 車体は割れて伸びて体となる。隙間はまるで黒いゴムの様。

 車体後部からは太く、長い尻尾が生える。

 ヘッドライトは三角にデフォルメされた釣り目に変わり、車底が裂けて口になる。

 その姿を俺の知識にあてはめて言えば、恐竜。

 もっと詳しく言えば、バスとティラノサウルスを混ぜて、子供向けにデザインした感じだろうか?

 すっごいな。

 物理法則完全無視ですやん。アニメで何度も見ていたけどほんとわけわかんないわ。

 

 「テッキダァゾオオォーゥッ!!!」

 

 ティラノサウルスとバスのテキダゾー、長いからバスティラノでいいか。が吠える。

 空気が震え、ビリビリする。うっさいわ、急に叫ぶんじゃあないよ、びびってちびるかとおもったわ。

 バスティラノが吠え終わると静けさが訪れる。

 周りが静かになったのは、耳が可笑しくなったからじゃないだろう。

 だって周りのモブはみんな呆然として突然現れた怪物に目を向けている。たぶん混乱しているんだと思う。怪物が自分から敵だぞーって言ってくれてるんだから、さっさと逃げればいいのに……

 このまま夢だと思われてもBE(バッドエモーション)エナジー集まらないしとりあえず我に帰ってもらおう。

 ええと、バスティラノ君。とりあえずそこの時計塔、壊してみようか。


 「テキダゾォー!!!」

 

 返事をするなんていい子いい子。さすが俺の作ったテキダゾー、作り主にいて賢い。

 大きく、長くバスティラノが息を吸い込み始める。

 気合十分、いいぞぉ~。

 じゃあ、やっちゃえ!テキダゾー!


 「テッキィ」


 ボオゥ。バスティラノの口内に火が灯る。

 ドラゴンみたいでかっこええやん。


 「ダゾォオオオオオオ!!!」 


 眼下が炎1色に変わった。

 時計塔を包んでその先、バスの入ってきたロータリーの入口からさらにその先の道路まで、たまたま通った車まで飲み込んで、ブレスはアスファルトを焼き尽くす。

 ……やりすぎ?

 でも、車爆発してないし多分死人はいない……よね?

 答えてくれる人を求めて周りを見るが、当然答えてくれる人は居ない。

 けれど、炎は効果はてきめんだったようで、周囲は蜂の巣をつついたようなパニックに包まれた。

 まさに狂瀾怒濤(きょうらんどとう )銷鑠縮栗しょうしゃくしゅくりつ

 逃げ惑うモブを見る俺の顔を覆うベールを模したモニターに、BE(バッドエモーション)エナジーが貯まっていると表すゲージが現れる。

 けど、基準が分からんから、集まり具合がどんなもんか分かんないな。グッドとかグレイトとか一緒に表示してくれればいいのに。

 まぁ適当でいっか。好きに暴れてくれ、テキダゾー。あ、人死には出さないようにな。別に殺しが目的じゃないからさ。

 俺はここにいるから。いってらっしゃい

 テキダゾーは俺の命令にしたがって、駅構内に入ろうと入口に体当たりを行う。ロータリーに人が居なくなったからだろう。

 しっかしこうなるとすることないな。俺。

 あと1時間ってめっちゃ長いよなぁ……本屋にでも入って立ち読みでもしようか……

 なんて、不真面目なことを考えていると、俺の後頭部になにかやわらかいものがぶつかった。

 なんだ?

 ッ!

 この道化師みたいな2頭身、プレイアースの妖精じゃないか!! 

 

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