これが完全武装
くっそ痛かった。
テーブルに小指をぶつけたときの痛みを延々と味わうとか、俺史上2番目の激痛だったわ。ちな1番は寝起きの奴。あれはほんと想像を絶する痛みだった、もう2度とごめんだぜ。
ピクピクと痙攣しながらうつ伏せになった状態でアーフェを睨む。
いつか絶対復讐してやる。
「あ、終わった?」
静かになったことで、ゲルがくっついた事に気づいた彼女がこちらを見た。
終わった?じゃあないんですよ。こっちがどんな思いをしていたかも知らない癖にこの女ァ。パワハラで訴えるぞ。
まぁ、大人しく裁判まで行くなら悪の組織の管理職とかやってるわけないので、無理なんですけどね。
アーフェが俺を持ち上げ、腕先や足先を見てうなずく。
とりあえず問題ないらしい。
よかった、もう一度とか言われなくて。
「アンタが転げまわっている間に、戦闘用義肢の試験用調整は終えておいたから早速つけるわよ」
キターーーー!
彼女は俺を小脇に抱え移動し始める。
どうやら別の部屋に行くらしい。培養室と工作室は別ってことかな。
しっかしワクワクしてきたぜ、いったいどんな物だろうか?
冠婚葬祭の婚と電光石火の光だからウェディングドレス風なのは確定かな?もしかして後光的なものを背負ったりするのだろうか?
いろいろ想像を膨らませているとプシュウという音がして研究室に隣接している部屋の扉が開く。
それと同時にアーフェの足元をドライアイスの煙の様なものが流れていく。
特撮の敵組織基地の床で見る謎煙だこれ、まじでやってるんだこれ。
テンション上がるなー。
そのまま視線を上げて培養室より明るい部屋を見渡すが、義肢は見当たらない。
中央から人をつかめそうなくらい大きなマシンアームが伸びているだけで、あとはサーバー的な何かいくつかあるだけだ。
あのー、どこに俺の手足があるのでしょうか?
「もうちょっとだけ待ちなさい」
そういって彼女は魔法でマシンアームを動かし、俺を挟む。
そのままアームに運ばれ、俺は部屋の中央に浮かされた。
なるほど、空を飛ぶ状態で飾られるフィギュアの気分はこういう感じか。
なんて益体もない事を考えているとアーフェが俺にチョーカーをつける。
なんぞ、これ。
「瞬間武装収納装着装置、パーツ単位で収納可能よ。テキダゾーボールも中に入ってるから」
ほーん、おしゃれでええやん。
でもそんなのいいからマイアーム&マイレッグカモン!
「はいはい、すぐつけてあげるから手足を広げて静かにしてなさい」
せかす俺に投げやりに答え空間投影ディスプレイを操作をするアーフェ。
言われるがまま大の字に腕と足を広げる。
すると、サーバーだと思っていたものが動き出し、俺の両サイドで止まる。
あ、これウェポンラックか。挟み込んで装甲とかつけるタイプのやつだな。
アーユレディ?俺の脳内でそんな音が再生される。
いいですとも!
大きな音をたたて勢い良く俺が挟まれた。痛くは無い。
ガチャン、ガコン、キュイン。
ジョイントに差し込まれる音、義肢に装甲が取り付けられる音、ねじが閉まる音。
真っ暗で何も見えないが、何となく感覚的にわかる。神経接続がされているからだろうか。手足が伸びる感覚というか目覚める感覚がある。
それも10秒ほどの短い時間。
空気の抜ける音がして視界が明るくなる。
視線の先には鏡。
そこには完全武装の俺の姿、悪の幹部としての姿が映っていた。
ざっくりというならメカ少女っといったビジュアルをしている。
ベールをモチーフにしたであろう顔を隠す四角い仮面。頭の動きの邪魔にならないようにするためか前面にしかない。黒くて空けていないのに前が見えるのは内側がモニターになっているからだろう。
身体はボディースーツやパイロットスーツのような体のラインが出るタイプ。なのだが、へそは見えてるし、肩も露出している。
ウェディングドレス風にしたつもりだろうが、見た目だけならお色気担当にしか見えないぞ。まぁ幸いこの身体は幼女だからセーフ。これで興奮すやつはロリコン間違いなし。
腕は装甲をまとったしなやかな女性の腕といったシルエットであり、手首から鎖が垂れている以外はまぁ普通に見えるだろう。
で、足。ふとももを覆う太い機械足。前後側面とバーニアがついているせいですごいデカイ。その反面、ひざから下はまるで、というか金属板そのもので、なんなら足首もない。こういうガン〇ムいた気がするわ。
まぁ、これでも曲線状の装甲の裏側にバーニアがついているおかげで、シルエットだけ見ればスカートに見えなくもない。うん。
ここまではいい。だがこいつは違う。俺の身体くらい大きいバインダー。
背中から伸びるアームに保持されて、さも肩鎧みたいなふりしているこいつだよ。
あからさまにデザインがコンセプトから外れていて、とってつけた感がすごい。
なんでこうなったのさ。
「アタシだってすっごい不満よ!でもね、手足ってすごいコストがかかるのよ……」
うえぇ、長話が始まるぞ、これ。
酔っぱらいが愚痴をこぼす時にそっくりの語りだし、藪蛇だったな。
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………………
…………
……
聞き続けること1時間。
アーフェがいかに不本意かを長々と説明されたことを要約すると、
・1体あたりに費やせるコストは決まっている
・ここでいうコストとは予算ではなく、ステータスの振り分け値の事。
・手足は精密さが必要なので、足もしっかり作ると足が出る。(ここ笑いどころ)
・使う予定だったものは使えなくなったので、趣味で作っていたもので継ぎ接ぎした。
・それだけだと戦闘できなかったのでジャンク品を仕方なく装備できるようにした。
・あえてコンセプトに合わない減点箇所を造ることで何とかコスト以内に収めた。
・用途やサイズ、その他諸々を含め違うため合わせるためいろいろ大変だった。
・せっかくデザインしたものがパーになってつらい。
・つまり廃棄寸前で目覚めた俺が悪い。
ということらしい。
後半はただの愚痴だった。