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痛みで目覚めるって意外と貴重な経験

 脳が焼けるような夢を見る。

 そこに俺はいた。妙に視点が低い。まるで俺の体じゃないみたいだ。

 見渡す限りの燃える街、悲鳴は無い。だってみんな死んでいる。

 周囲では、空が赤くなるほど炎が立ち昇り、むせ返るほどの何かが焼ける匂いが鼻をつく。

 戦争でもあったのか?

 わからないが、なんとも気味の悪い夢だ。

 しゃがみこんでうずくまりたい意思に反して歩が進む。

 歩く、歩く。

 地獄を見聞するようにゆっくりと。

 わざわざ見せつけるように視線を動かしながら。

 歩く、歩く。

 動くものなんて、時々崩れる建物と炎のゆらぎぐらい。

 長々と歩かされた結果、これは俺の夢じゃないと結論付ける。

 だってそうだろ?

 立ち止まり視線が下がる。

 クレーターができたビルの外壁、その少し下にピンクの可愛らしい服を着た少女がビルを背に倒れている。

 衣装には血が滲み、肌は血の気の感じさせない白。素人の目でも、もう手遅れだと触らずともワカル。分かってしまう。

 俺は、彼女の、名前を知っている。

 方波見(かたばみ)天花(てんか)

 俺が眠りにつく前まで見ていたアニメの主人公の少女だ。

 だから、これは夢だ。夢に違いない。作品のファンである俺が、彼女たちの勝利を願っている俺が、こんな夢を見るはずが無い。

 可笑しい。

 冗談じゃあないぞ。

 頬をつねる。


 痛い。


 意識が浮上する感覚を味わう。


 おお、いいぞいいぞ。早くこの地獄から目覚めてくれ。

 うんうん、痛い。痛い。


 ……少し痛すぎないか?

 いや、少しじゃない!めっちゃ痛い。頬じゃないところが痛い。

 痛い、痛いィ!、痛いッ!!

 足をつったか?尋常じゃないくらい痛い。具体的に言うなら自転車で電柱に突っ込んだ時ぐらい痛い。

 って言うか痛いの足だけじゃない。

 手もめっちゃ痛い。どうなってるんだ!?

 瞼を開けば視界はクリアグリーン。ホワイ?

 ゴボリと音を立てて目の前を気泡が昇っているのが見える。

 水中?俺はいつの間に風呂に入って溺れているんだ!?

 慌てて飛び出そうとした頭が透明な何かにぶつかった。

 ガラス?閉じ込められているのか?我が家の風呂のふたは透明じゃない。なら誘拐か!?

 俺には一銭の価値もないが!?だから出してくれ!!

 そう叫ぶが、出るのはごぼごぼという吐いた息が泡に変わる音だけ。

 何はともあれ溺れて死ぬなんて御免だ。

 脱出しようと暴れると、腕も足も上下左右奥手前すべてが、壁か何かにぶつかる。感覚からして斜めに置かれた十字架型の水槽にでも入れられているのだろうか?

 呼吸も不味いが、手足の痛みの方も不味い。徐々に痛む範囲が広がってるし、指先の感覚が無くなっているとか普通じゃない。

 何度もガラスに頭をぶつけているうちに、少し離れたところで女が背を向けて座っていることに気づいた。ヘッドホンをつけメカニカルな机を横にマグカップで何かを飲んでいるようだ。

 十中八九女が俺をこんな風にしている人物に関係しているのは間違いないが、それでも助けを求めざるを得ない。

 誘拐犯に開放してくれと言うような無謀だが、死を前にするとやらずにはいられない。

 命乞いする悪役キャラの気持ちがわかった気がする。

 いやいや、今はそんなことどうでもいい。

 気付け、気付け!気付いてくれ!!

 のんきに飲んでいる場合じゃないんだよォ!

 ヘルプッ!!ミーッ!!!

 暴れながら必死に訴えかけると、思いが伝わったのか女が振り返って、慌てだす。

 その慌てようはすさまじく、びっくりしてカップの飲み物をこぼし熱がり、置いたカップがぶつかり書類の塔を崩す。最後に卓上のコンソールを操作しようとして落ちた紙で滑って転んだ。最後に肘を打ったらしい。ウケル。

 ほどなく、音を立てて水が抜けていくのを感じる。口が空気に触れ、助かった事を実感した。

 死ぬかと思った。

 続けて空気の抜ける音が聞こえ、眼前のガラスが開きひんやりとした外気が肌を撫でる。

 俺裸だわ。めっちゃ寒い、鳥肌すごい。

 そんな俺にさっき転んだ女がヒールを鳴らしながら近づいてきた。

 紫色という奇抜な長い髪色をツインテールにし、スーツの上に白衣を着た長身の女性である。

 彼女は、水槽と思しき場所で仰向けのままの俺を、つり目で見下ろしたまま一瞥し一言。


 「意識ははっきりしてる?」


 質問の前にとりあえず何か着るものをください。

 あと、妙齢の女性で、いくら美人でもツインテールはキツイと思います。


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