俺の名は……俺も今知ったわ
バスティラノの顎にルルディのアッパーが突き刺さる。そこから花びらのような光が散った。英雄少女に標準装備されているカットエフェクトが働いたのだとすぐにわかる。
生で見るとめっちゃ綺麗だ。夜に見れたらもっと素敵だろうと思う。
ちなみにこのエフェクトにはアニメ上の派手さを演出するだけじゃないちゃんと意味がある。衝撃を光などに変換して緩和する効果だ。
よく人を殴ると自分の手も痛いって言うじゃん、そんな風にならないように自分の腕とかにかかる負荷を光とかに変えて外に排出してるって事だね。
しかも、英雄少女システムのサポートのおかげで、普通の女の子であるルルディでもしっかりと全身を使った効率的なパンチが繰り出せている。
一般人に剣だけを持たせるような真似はしない妖精さんたちの気遣いと、アニメスタッフのつっこみどころになるべく理屈をつけようとする努力がうかがえますよ。
バスティラノの噛みつきや尻尾凪払い攻撃を、まるで風に舞う花びらの様にかわし、カウンターをしっかりと繰り出すルルディ。
アスファルトを砕き戦う姿。凛々しい、凛々しすぎるぞルルディ!画面映えがすごい!!
キャー!テキダゾーの身体がほんのわずかとはいえ浮いたぞ、今!
いいね、いいねぇ!
とはいえそんな至福の時間にも終わりの時はくる。
所詮は最初のテキダゾー、はっきりいって雑魚だ。
ルルディにまともなダメージを与えることができぬまま、物の数分で大きくたたらを踏みふらつく。
「ルルディ!今がチャンスンプ!必殺技を使うンプ!」
「わかった!」
彼女が左腕についている無骨な四角い手甲、再現機アンプラファニーの表面にあるトランプのスートがモチーフのボタンを押すと、カシャンという小気味のいい音を立てて中に入っていたトレイが3つ扇状に展開する。
プレイアースは、ここに最大3枚までカードを入れることで多彩な技が放てるのだ!なんて男の子心をくすぐるアイテムなんだ!DX版は全カードセットでお値段2万円!!予約してたけど届く前に俺死んじゃったよ馬鹿野郎!!!
落ち着け、俺。前世なんて今はどうでもいい。実況に戻ろう。
今のルルディに使えるカードは変身に使ったスペードのエース1枚だけ。
しかし、変身用のカードと侮るなかれ、それは少女を英雄少女へ変えるだけにとどまらず、通常攻撃を必殺技に変える力がある。
どこからともなくカードを取り出したルルディはそのままトレイにカードを差し込み、手甲をスライドさせ展開していたトレイをしまう。
_スペードエース・チェンジ_
読み込み音の後、再現機から音声が響く。
テキダゾーにとっての死刑宣告、プレイアースにとっての勝利宣言。
ルルディの右腕に力が集まり肘から下が眩く光る。
ダンッ
力強く地面を蹴ったルルディが地を這うように飛翔する。いやこれは錯覚だ。そう見間違える程に速い。
一気にバスティラノと距離を縮め、その巨体、股下を通り抜ける。
刹那、光芒がバスティラノの身体を奔り、そのあとを風が吹き抜けた。
_スペードエンド・プリミティブ_
再びの再現機から音声、必殺技の名前だ。
そして、テキダゾーは爆発。
駆け抜けたルルディは、爆炎を上げるバスティラノを背に、蒸気を放つ右腕をまるで血を払うかのような動作で散らす。
直後、俺のフェイスガードにリザルト画面が映し出され始め、バスティラノは崩れ落ち、動かなくなる。
あぁ一般人じゃなくてよかった。
もしそうでなければ俺は、彼女が駆け抜けざま大きく腕を振っていた事を見逃していただろう。もちろんただ振っただけじゃない、その瞬間だけ、彼女の腕からは光の剣が伸びていた。それが俺のテキダゾーを真っ二つにしたのだ。
くぅううううかっこいい!
右腕に力を溜め、駆け抜けて一閃、それからの血払いのような残心。これぞ必殺技って感じ、この緩急がイケてるんだよなぁ~。
それから、ルルディはバスティラノの方に向き直り、カードを投げつける。
カードが刺さったバスティラノはその中に吸い込まれる様に消え、ロータリーから怪物は文字通り消え去った。残ったのは憑りつかれていたバスだけだ。
プレイアースはこうやって強くなる。倒したテキダゾーをカードに封印し、手札を増やす。さっき言った再現機アンプラファニーで使うカードはこうやって作るのだ。
「やったンプ!すごいンプ!」
「あはは、ありがとうトリンプ」
初めてテキダゾーを倒したことをトリンプに褒められて照れ笑いをするのかわいい!
もう、どうしてこんなにも期待通りなのだろうか。アニメで見たときと寸分違わずの変身、エフェクト、必殺技、戦闘シーン。幸せすぎて死にそう。
この戦いで、これからも華々しく活躍してくれると俺は確信したぜ。
間違いない。
録画をここで止める。エラーはない、きっちり撮れたようだ。
それにしてもこの身体超便利!後で見返そっと。記念すべきアーカイブ1号だ、大切にしないとなぁ。
1人満足していると、突如背後からガラスの割れる様な音がして、背中に冷たい空気が当たった。
帰還用のゲートだ。アニメで見覚えがある。
すごいびっくりして振り返っちゃったじゃん。少し変な声あげそうになったわ。
アーフェに次からは事前に連絡するように提案してみよう。
はぁ、少し名残惜しいが、振り返った手前、またルルディの方を向くのはきまりが悪い。大人しく帰ることにしよう。
「ねぇ」
ゲートに足を入れる直前、ルルディが話しかけてきた。いったいなんだろうか?
もし、俺と戦おうと言うなら即座にゲートに飛び込もう。いうなれば今のルルディはレベル1の勇者だ。四天王に挑むにはレベルが足りない。うっかりカウンターで致命傷を与えちゃったら俺、首をつっちゃうぞ。
「あなたのお名前、教えてほしいな」
そんな心配は無用だった。
……俺の名前?そういえば名乗ってなかったな。といっても俺もついさっき知ったんだけど。
アーフェはアンタとしか呼ばなかったからな。リザルト画面が出るまでわからなかったわ。
おほん、では僭越ながら名乗らせていただきましょう。
ユノララ
ピーシーズ4幹部のユノララ。
これが今生の俺の名前だ。