JCをじっくり見つめる変態は俺です
トリンプを抱きとめた天花は、強い衝撃を受け止めきれず後転したが、その勢いを利用し素早く移動、路肩に乗り捨てられたタクシーの影に隠れた。
生で見るとますます一般女子中学生とは思えない動きだが、主人公補正ってやつだろうか?それともこの世界では平均的な身体能力がこれなのだろうか。それはさておき、ほんとかっこいいわ。アクション映画って感じの一瞬だった。
いや、ほんと1話始まったんじゃない、これはさ。
平和を脅かされた町中、敵に立ち向かう可愛らしい妖精、そのピンチを見捨てられないヒロイン。
アニメに比べて時期が早すぎるが、よい。とてもよい。
ちょいちょいと手を動かして、まだ駅内に入ろうと頭をぐりぐりさせているバスティラノを呼ぶ。
「テキダゾー?」
お前、その大きな図体でテコテコと近づいて来るのか(困惑)
首をかしげるのはやめろ。ちょっとかわいいじゃねーか。
まぁいいや、とりあえずお前はちょっと大げさに足音を立てつつ、ゆっくりとあのタクシーに近づけ。怖がらせる感じで。きっとあの車の陰でいい感じの話してるはずだからさ、それを邪魔しない程度に。小声でバスティラノに命令を伝える。
小声なのは万が一にでも向こうに聞こえたら台無しだからである。なんてできる敵役だろうかと自画自賛してみる。
「テキダゾ!」
よし、分かったならいけ。
俺は静かにバーニア吹かして浮いてるから。
やっぱこの目で見たいからね。初変身。
ズシンズシンと歩を進めるバスティラノよりも高い位置まで飛び上がり、天花達を俯瞰する。残念ながら話声はよく聞こえない。とはいえ近づくのも不審だろうから仕方なく、本当に仕方なくここは我慢する事にする。
きっとトリンプがこの状況を説明しているのだろう。必死に口を動かしているのが見えた。
せっかくのシーンだしなんか映像として保存できないかな。あとで見返したいんだが。
ええっと、この頭のやつに録画機能とかないかなー。
俺の装備しているベールを模したフェイスガードはモニターであり、視線で操作ができる。それで何をするかというと、前を向いたまま背後の映像を映して死角を減らしたり、熱感知によって隠れている人物を見つけたり、空気の状態を調べて毒物を視認できたりする。
もちろんズーム機能も搭載してるし、BEエナジーの貯まり具合を見るだけの物じゃないのだ。
とか考えながら操作を続けていると……あったあった、録画機能に写真機能。
解像度は、なんと驚愕の40960×21600。4Kテレビの10倍きっかりである。
やったぜ!
動きはスムーズだし、補正も入って手ブレ(この場合は頭ブレか?)も一切ない。さすが世界航行技術持ち。ぜんぜん重くないこのフェイスガードにそれだけの高性能カメラが仕込んであるのが信じられない。スマホより軽いぜコレ。足は片足それぞれ15キロくらいあるけどな。
馬鹿なことを考えていると、トリンプが頭の帽子の中からカードケースを取り出す。
キターーーーーー!!録画しなきゃ!、録画!!
あれはプレイアースになる資格があるかどうかを決めるためのトランプである。
ケースに入っているのは一般的なトランプと同じ4種各13枚の計52枚とジョーカー1枚。その中から4枚あるエースの内、どれかを引く事ができればプレイアースに変身して戦う事ができるといったシンプルなもの。
とはいえ、これはあくまで形式的なモノであることを俺は知っている。
ただ意思を確認するためだけの儀式なのだ。
だってカードに絵柄なんて描かれてなどいない。
絶対引くと考えていれば誰でもエースを手にすることができるようになっている。心に潜在的な拒否感があれば、引いたカードの絵は外れとなる。
ようは、トリンプの見出した素質持ちが戦いたいかの意思確認のための行動であるということだ。
キミには敵を退ける力があると言われて、それが万人にできないと言われれば、言葉で拒否できず、やむなくカードを引くものもいるだろう。そんな人に言い訳を与えるための行為なのだ、これは。
高くから見下ろした後ろ姿からでも分かる。緊張していると。
手先も震えている様にも見える。
当然だ方波見天花はごく普通の少女だから。特別大きな事件に巻き込まれたことも、命の危機も経験したことのないなんてことはない一般人だから。
しかし、カードに伸ばされる腕に躊躇いは無い。
当然だ方波見天花はこの世界の主人公だから。
エースを引けると知っているけどこっちまで緊張してきたわ。ドキドキ。
デッキの一番上に指が置かれた瞬間強く光が放たれた。
真っ昼間でも眼が眩むほどの強い輝き。
あまりの眩しさに目をつぶりそうになるが、俺のファン魂がそれを拒み、目をかっぴら
く。
ああこんな幸せでいいのだろうか?
天花がゆっくりと、力強く運命を引いた。
絵柄は、スペードのエース。
不条理を切り裂く花の剣だ。
倒される不条理ってのはまぁ俺の事だけど……。
トリンプが喜んでいる。当然だろう、こんなに早く英雄少女が見つかったのだから。俺もうれしいよ。初めての変身、初めての戦闘、全部俺のモノだ。1人のオタクとしてこれ以上はないだろう。
え、妖精とか本人に転生していればもっといいだろうって?馬鹿野郎!
自分が作品に加わったとして、己の性格を顧みてなおキャラと上手くいくと思うか?よく考えたら俺いらないなってなるだろう。俺はなった。
だから敵役くらいがちょうどいいんだよ。
おっと、そんなこと言ってる場合じゃないわ。
変身シーンが来るぞッ!!!