2. 今回は、ご縁が有ったということで
それから2週間ほどして、俺は高校の2-B教室の前に立っていた。いや、人生やり直した過ぎて乗り込んだとかじゃないよ?
5月初旬、俺はここ『私立 青興学園高校』の臨時講師として赴任したのだ。
大学に入る時、両親が何か資格をというので、教員免許を取得していたのが良かった。一般企業に勤め始め、一生使わないと思っていた資格だが、こうして役立てることができた。俺が再就職を決意したのが3月という中途半端な時期だったため、常勤講師としての枠は埋まっており、たまたま4月に不祥事を起こした教諭の後釜として、残りの11ヶ月を任されることになった。非常勤で教科担任という形なので、週に3日ほどで、それ故、バイトの掛け持ちも許されているし、逆に単体では生活できない給料なのだ。
ふう、と大きく息を吐き、落ち着かせてから扉を開ける。
かつん―――
と、黒板消しが降ってきた。
古風な。しかも「黒板消し」といったものの、この学校は黒板ではなくホワイトボードを採用しているため、白板消し?である。黒板消しより硬くて痛い。どうでも良いが、後にネットで調べたところホワイトボードの黒板消しは、「ホワイトボードイレーザー」というらしい。長いね。ただ、チョークの粉が付かないというのは利点である。いや、そもそも、人に降らせちゃだめだけど。
「ひっかかったー!」
「うわ、だっさ」
「ねえ、いきなり可哀想だよー」
教室がわずかに盛り上がる。そして俺はというと、
「はじめまして。すっかりひっかかりました。」
と、へらっと笑うのだった。
前職の経験で学んだことだが、こういう「意地悪してやるぞ」という行為に対して、下手に激昂したり、必要以上のリアクションを取るのは逆効果なのである。それに、出社したら椅子が水浸しだったり、休憩で喫煙所から戻ったら頭からファブ○ーズをぶっかけられたりするのに比べたら、こんなのは………あれ、今思えば結構ブラックだったな、前職。
「誰よ、こんな子どもみたいな…」
女生徒がそれを非難するようにクラスを見渡した。どうやら、クラス全員で新任をはめてやろうというより、一部の生徒の悪ふざけのようだ。不良学級だったらどうしようかと思っていたので、少し肩の荷が降りた。
「初日から、すみませんでした!せんせ―――!?」
女生徒が、改めてこちらに向き直り、驚きの表情を浮かべる。目を見開き、口をパクパクさせて………あれ?
その少女は、俺のバイトの先輩、鈴木彩音さんだった。
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