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執着少女~幼年期編~  作者: 天使の中ちゃん
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第2部 カエデ、空手を始める前の物語          ⑤ひろし、再スタート!!

 ひろしの職場での最終日、ひろし以外にも何人か退職するスタッフがいた。一緒に送別会をしてくれた。技師長など上司一人一人に挨拶を回った。副技師長だけが自ら、ひろしのところに来てくれた。副技師長は筋膜剥がしの講習会の件を知っていた。ひろしが本当は5月末まで働きたがっていることも知っていた。


「次の職場は決まっているのか?」


副技師長はストレートに聞いた。


「いいえ。まだ決まっていません。」


ひろしは職場にて、初めて受けた質問が嬉しかった。強がっていても他者から気にされ、声をかけられることは嬉しいことのようだ。副技師長はおもむろに名刺を渡した。


「もし、どうしても見つからなかったら連絡してこい。紹介できるかもしれん。」


ひろしは驚いた。有り難かった。この人が職場で一番、男気があるのだろうと感じた。ただ、連絡する気は全くなかった。この職場とは完全に縁を切りたかったのである。ひろしは意地っ張りだ。



 送別会が終了し、帰りの電車に乗っていた。9時半には帰れそうであった。もしかしたらカエデと会えるかもしれないと考えていた。明日からは自分がカエデを保育園に連れていきハローワークに行く日が続くのかと思った。退職した職場のことも考えた。ひろしとは違う価値観。だからこそ勉強になったことがあることに、ひろしが気づくのには時間がいった。とにかく、再スタートだ!丸岡さんの言葉が思い出された。


「何があっても子供は守れよ。」


カエデを育てなければいけない。自分の一番の目的である。心に言い聞かせた。



 ハイツに着いた時には部屋が暗くなっていた。隣りで春子とカエデが寝ている。ひろしは保安灯だけ点けた。荷物を下ろし椅子に座った。


「疲れた~。」


静かに呟いた。その時、ドアがソッと開いた。羊のメイたん人形を抱えたカエデだった。カエデは、ひろしを見てニ~と笑い


「パパ~。」


とひろしに呼びかけた。ひろしは驚いた。まるで、おとぎ話の世界にいるように感じた。可愛い妖精と暗い洞窟の中で出会ったような、そんな一場面だった。こんな、何でもないことがロマンチックに感じられた。ひろしは優しい声で言った。


「起きてたの?パパと一緒に寝よか?」


カエデは笑い首を横に振った。部屋の奥から春子の声がした。


「カエデ~。」


カエデはひろしにバイバイをして春子の元に戻った。ひろしは、今の何気ない短い時間が、何故かかけがえのないものだと感じずにはいられなかった。



 その頃、技師長とリハビリスタッフが帰りの電車に乗っていた。


「村山さん、大丈夫ですかね?」


1人のリハビリスタッフが興味本意に技師長に聞いた。


「村山君は・・・大丈夫だよ。」


リハビリスタッフにとって予想外の答えだった。


「村山君は精神的に強いからね。変わり者だけど。」


質問したリハビリスタッフは驚いた表情をしていた。


(自分がいくら言っても筋膜はがしを止めなかった。最後まで、やり通すのだろう。価値観は合わなかった、いいスタッフだとも思っていない。ただ、意地を張り通す力はある。どちらにしても、村山君も、退職する他のスタッフも、1週間したら名前も出てこなくなるだろう。組織とは、そんなもんだ。)


技師長は考えていた。技師長及びリハビリスタッフを乗せた電車は、まだまだガダゴトと走り続けた。

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