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執着少女~幼年期編~  作者: 天使の中ちゃん
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第2部 カエデ、空手を始める前の物語        ③ひろし、春子、カエデのそれぞれ!!

 ちょうど生後一年が経った頃、カエデは歩けるようになった。よたよたと春子のもとに向かって歩くカエデを、ひろしは何度も写真、動画を撮った。春子のもとに行き着いたカエデの笑顔がたまらなかった。


 

 その頃、ひろしは筋膜剥がしのインストラクターになるための目通しがたっていた。筋膜剥がし通称、メルシーリラクゼーション。創始者(フランス人)が、クライアントの身体を触りながら、常に


「メルシー、メルシー、メルシー。」


と呟きながら施実をしていたことから、そう呼ばれるようになった。クライアントの中には気持ち悪がった人もいたが効果は確かだった。ひろしは、来年の6月に2ヶ月にも及ぶ講習会を受講し、講師の面談と手技のテストが通れば資格を頂けるということだった。筋膜剥がしとは、手技やムーブメントを使い筋膜に働きかけ、痛みの軽減を狙うテクニックである。具体的に言えば、腰が痛いという訴えがある場合、腰だけにアプローチするのではなく。頭・胸郭・骨盤・大腿部・下腿部・足部を垂直な関係性に近づけ痛みの除去を狙うテクニックのことである。ひろしは、この手技を4年近く勉強していたのである。



 ひろしが丸岡さんという患者さんのリハビリをしていた。丸岡さんも、かなり激しい気性の方であった。診断中にドクターの言葉遣いが横柄だったらしく、机に置いてあった時計でドクターの頭を殴りつけたという経歴を持っていた。ひろしは、その丸岡さんの立ち上がり練習をしていた。


「オッケーですよ!今の立ち上がりナイスですよ!」


「ナイス立ち上がり!!いいですよ!いいですよ!」


ひろしはとにかく褒め称えた。休憩中に、ひろしの新婚旅行の話になった。新婚旅行はパラオに行き、春子が現地の犬に噛まれたという話をしていた。その瞬間、丸岡さんの表情

が変わった。


「お前、ここで何しとんねん?」


「はい!?丸岡さんのリハビリしてますけど。」


「はっ!?ワシのリハビリなんて、どっちでもいいいんじゃ!!お前、今すぐパラオに行って、その犬殺して来~い!!!」


いきなり怒鳴りつけられ、ひろしはひっくり返りそうになった。そんなやり取りをしている最中に、にこやかに技士長が話しかけてきた。


「丸岡さん、なんや楽しそうやないですか。」


「お前とこの若い衆は腰抜けばっかりじゃ。早く、犬を殺して来いと言ってるんじゃ!」


「まぁまぁ犬も生き物ですから。村山君、筋膜剥がしの講習会の話を聞いたよ。あとで話があるから来なさい。」




 その日の業務が終わり、ひろしは技士長室に行った。ひろしの2ヶ月にも及ぶ講習会の話であった。


「人事に相談したけど、講習会を理由に2ヶ月も休まれる前例を作られたら困るとのことやわ。講習会を止めるか退職して欲しいとのことやわ。」


ひろしにとっては予想通りであり、鼻っから退職する気でいた。


「分かりました。退職させて頂きます。」


ひろしは、素直に答えた。すでに他のスタッフで講習会のために何ヵ月も休んでいる人がいること。最初の面接で筋膜剥がしの講習会の件は話していること。言いたいことはあったが、こんな職場だと諦めた。


「残念やわ。村山君の接待ゴルフのようなリハビリ面白かったんやけど。あと講習会は6月からやけど、人事の方からは3月末に退職して欲しいと言われているわ。」


さすがに、ひろしは驚き腹が立った。四月から収入がないということだ。反対に、この職場に対する未練も完全に切れた。ただ、カエデと春子のことを思った。了解だという回答をいう為には間を置かざるおえなかった。


「分かりました。」


ひろしは震えそうな声を抑え答えた。ひろしは、受け入れた。



 カエデは春子の膝上で薄く切り、てんこ盛りになったリンゴを一生懸命に食べていた。カエデも一才を過ぎていた。他の子と比べて少し小柄であった。一重にしては大きな目だった。一番、印象的なのは黒目の大きさだった。黒目が大きく黒真珠のようにキラキラとしていた。可愛らしい男の子のような顔をしていた。夜寝る時など部屋を暗くした時には黒目が大きい為に目が真っ黒になった。春子は少し不気味だと思った。



 そんなカエデを膝にのせた春子とひろしは神妙な顔を合わせていた。ひろしは技士長との話を伝えた。春子は、一切の嫌ごとは言わなかった。ひろしが何年もかけ筋膜剥がしの勉強をしていたこと。2ヶ月の講習会のお金を結婚する前から貯めていたことを知っていたからである。ただ1つだけ質問した。


「何で3月末なん?5月末に辞めるいうてたやん?」


「3月末で退職してくれな人事の手続きがややこしくなるんやろ。あと有休が発生するとかやろ。社員の都合は後回しやで!」


収入は、どうするのか?春子は聞かなかった。春子は分かりやすい優しさを見せる女ではなかった。ただ、


「早く新しいとこ探してね。」


とだけ伝えた。ひろしは、もちろん春子の心遣いに気づかない。カエデが1人でリンゴを全部、食べたことには気づいた。


「早っ!!」


カエデはニ~っと笑った。その笑顔が、ひろしにはたまらなく可愛かった。


「好きなものだけは、食べるの早いで。それと私も、そろそろ働き始めるわ。」


春子がポツリと言った。


「えっ!?カエデは?」


「保育所に預けるわ!」


「え~!」


ひろしは不安にかられた。この超人見知り娘、大丈夫なのだろうか!?苛められないだろうか!?

春子は看護師だった。近くの病院に勤めようと考えていた。

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