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執着少女~幼年期編~  作者: 天使の中ちゃん
2/11

第1部 ②空手少女誕生

       ② 空手少女誕生     ~現在へ~



 2011年、秋、大阪。村山ひろしは仕事に行くため電車の中にいた。ひろし、31才そろそろ若いという年齢ではなくなった。満員電車の中で、溜め息をついてしまう。結婚して半年以上経ち、妻は妊娠していた。その妻と昨晩、喧嘩をしたのである。まさか、妊娠した身体で後ろ回し蹴りをしてくるとは思わず、ひろしの腹部にクリーンヒットしたのである。妻の春子は身長170センチあり、ひろしとは同じような背丈である。しかも、ひろしよりも足が長く骨格もしっかりしていた。春子に川場奈良太郎の遺伝子が脈々と受け継がれていた。その春子の蹴りをお腹に受け倒れて込んでしまったのである。ひろしは、うずくまった自分を想像して思わず笑ってしまった。くよくよしても、仕方ない、いい笑い話のネタができたと思おうと自分に言い聞かせた。しかし、妻は些細なことで怒る。これからの結婚生活が不安になっていた。



 一方、妻の春子は妊娠し、つわりで気分が悪く、父親の自覚ができていないと思われる旦那に苛立っていた。まぁ、苛立っているが笑顔の一つでも見せ平和な家庭を保持しようと考えていた。その瞬間、春子の腹部に鋭い痛みが走った。お腹の子供がパンチかキックかと思わせるようにグッグッと突いてくるのである。自分の母に聞いたが、お腹の中の赤ちゃんが動くことがあっても、そんなに痛くなかったと聞いていた。


「何で痛いんだ!?自分のお腹の皮が薄いのか?」


とさえ考えていた。



 ひろしは、病院で理学療法士の仕事をしていた。ひろしは、ひょうきんで明るく、他者に対して高圧的ではないために後輩スタッフや患者さんから好かれていた。ただ、リアクションも大きく、騒がしい時があり、人としての重厚さを感じられなかった。また、ひろしには欠点があった。



 病棟の看護師から苦情がきたと年の近い上司に注意を受けていた。どうせ苦情と言っても、たいしたことないことを大きくして技士長に説明しているんだろうと考えると腹が立って仕方なかった。  若い上司に呼び止められた。


「村山さん、村山さん!!明日、一緒に謝りに行きますよ。」


えっ!?何で、一緒に謝りに行くんだ!?ひろしは疑問に思い、そんなに大げさにしなくても・・・。という思いにかられた。


「一人で謝りに行きます。」


そう答えた後、上司との押し問答が始まった。結局、一緒に謝罪しにいくことになり、上司は、その場を離れた。ひろしの我慢は限界に達していた。どす黒い蛇が鎌首を上げたように感じた。その瞬間、壁に3発、4発、5発とおもいっきり前ゲリを入れていた。その時のひろしの表情は、いつもの間延びした表情ではなかった。蹴りを入れた後、黒い蛇がすっといなくなったように感じた。ふと後ろを振り向くと上司が立っていた。すぐに、ひろしは、おどけた顔を見せた。村山さとしの黒い蛇は、ひろしに受け継がれていた。



 数時間後、ひろしは技士長の説教が終わり帰路についていた。昔からなのか最近なのか、自制心を失うと黒い蛇を心の内に感じることがあった。亡くなった、おじさんが


「ひろし、短期は損気やで。」


という言葉を思い出していた。これではダメだ、次こそ黒い蛇に勝ちたいと願うのだった。



 家に着いた、ひろしを春子は笑顔で迎えてくれた。話題はお腹の子供、カエデであった。突然、服を捲りお腹を見せてくる。春子が


「エイリアンみたいやわ!別の生き物がお腹におる。今、起きてるわ!声かけてあげて!」


お腹を見るとモグラ叩きのモグラが出てくるようにボコボコとお腹の内から手や足を付き出しているのが分かった。

春子が顔をしかめて


「激しい子やわ。痛い時があるわ。」


「元気な子やな。我慢やな。カエデちゃん、パバですよ!」


と言った後、ひろしは音程が外れた≪こんにちは赤ちゃん≫を歌い始めた。



 カエデは11月、早朝に生まれた。有難いことに安産であった。というか陣痛が始まって、すぐに産まれた。早過ぎて医師が駆けつけるのが遅れそうになったほどだ。出産に立ち会った看護師が


「パワー勝ちやね!」


と誇らしげに春子に声をかけてくれた。ひろしも、出産に立ち会えた。早朝、病院に入院していた春子から連絡があり文字通り走った。幸い病院が近かった為、ギリギリで間に合った。着いたと思ったら、すぐに手術室に連れられた。顔を真っ赤にしたと思ったら、青黒くなり、さっと血の気が引いていく春子。言葉にならない、うなり声だった。安産といえども命をかけた戦いだった。勢いよく頭部、身体を回転させて出てきたように見えた。その瞬間、


「オギャア~。」


と泣き声が響いた。



 ひろしは、職場の上司と自分の親に連絡し一度、帰宅した。小さいハイツだった。二人暮らしに丁度良かった。洗濯物を干しながら、産まれたたてのカエデを思った。小さい青白い身体、血まみで肛門からは便が出ていた。決して美しいものではなかった。生々しい生が、ただあった。この時からかもしれない、ひろしにも父親としての何かが産まれようとしていた。



 ひろしが病院に戻ると、どちらの両親も来ていた。カエデが可愛いというのである。髪が薄く春子に似て少し腫れぼったい瞼をしているようだった。ホッぺが真っ赤だった。ひろしは病室で初めて赤子をカエデを抱いた。その瞬間、ひろしの中で何かが変わった。


「可愛いいな。可愛いいな。」


二度ほど呟いた。ひろしの胸には熱い湯が涌き出るような感じを受けた。不思議な感覚だった。春子は、ひろしの表情を優しい眼差しで見ていた。これなら大丈夫だ。春子は安堵していた。


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