第1部 ①エピローグ
第1部 ① エピローグの始まり ~過去~
『この国の植物や動物に、まだ神が宿っていた頃、外の世界から悪魔が攻めてきた。この国の人々や動物、木々は手を組んで立ち向かった。その戦いに力尽きた植物や動物は精神体となり、国中に散らばった。銀色のオオカミ、赤い猪、青いカラス、白い犬、黒い蛇
・・・・・・・。』
これは、この国の神話である。
第2次世界対戦前、対戦中、終戦後、同時期に生きた対象的な男が二人いた。一人は川場奈良太郎。トレーニング機器もプロテインも無いにも関わらず逞しく発達した筋肉、大きな骨格を持っていた。電信柱を一人で担いだ。一つ60キロの米俵を二つ持ち生駒山を登って降りた。など、本当か嘘か分からないような逸話が数々あった。そんな彼は、
「軍隊1番の力持ち」
と評されていた。精鋭揃いの日本軍隊においても、力という一点においては彼と肩を並べる人材はいなかった。
川場家に嫁いだ加山夏子は後に自分の娘、春子に語っている。
「ゴリラみたいな身体やったわ。でも、声が優しすぎてビックリしたわ。そういえば使っていた枕の高さで思わず笑ったわ。殿様枕を二つ三つ重ねてるみたいな高い枕やった。」
奈良太郎は、あまりに首や背中の筋肉が発達していた為、普通の枕では安楽な位置に頭部をのせることができなかったのである。
もう一人の男の名は村山さとし。細身の体型だがバネのある身体をしていた。顔は男前だが瞳の奥には狂気があった。一度、自制心を失うと手がつけられなかった。狂気を秘めた瞳には輝きが無くなり、墨のように真っ黒となった。黒い何かが村山さとしの心を支配した。大声で喚きちらし、外に出たかと思うとトラックでドアをぶち破り、勢いよく家の中に侵入した。その後は包丁を畳に刺し、暴れ回ることが何度もあった。あまりに何度もあった為、近所では、「アパッチの襲撃」と呼ばれていた。子供達同士の会話でさえ
「今週は、アパッチの襲撃がなかったな!」「何とかの家でアパッチの襲撃があったみたいやで!(笑)」「畳が包丁で切り刻まれたわ(涙)」
等々、話しのネタにされていた。普段は、ひょうきんで面白く好人物であった為、警察に補導されたのは2~3回程度であった。
力の男・川場奈良太郎と狂気を秘めた男・村山さとし。この二人には縁がなかった。すれ違うこともなく人生に幕を降ろしたが・・・・・。時間が流れ、二人の子孫に縁があった。二人の男女が出会い、二つの特性が交わり、誕生する時がきた。