第三十一話《魔物の巣窟―前編》
時は少し遡る。
「おぉ、すごい成長具合だな!」
「フフン、わたしが魔力をいっぱい込めたおかげだぞ!褒めろ褒めろ!」
屋敷を手に入れてから三日目の朝。生活もある程度落ち着いてきたので、今日は屋敷でまったりするつもりだった。いや毎日そうみたいなもんだが。
「あぁすごいよ、この水。魔法で作ったとは思えないくらい純度が高い。俺だとホコリとかが入るからな……」
「ケンヤも練習すれば出来るようになるでしょ、技術高いんだし。」
「まあ俺は能力値もて余してる状態だからな。頑張って努力するわ。」
順調に育っているイモドキ達の前で、そんな他愛もない話をする俺とマイ。
「ああ、学校が無いだけでこんなに暇になるとはなぁ……せめてゲームしてえ……」
「え……もしや、わたしと話すのってつまんない…?」
「そんなわけないだろ。女の子と喋るなんてこと今まで無かったからな、新鮮だよ。」
そういうことじゃない、と視線で訴えてくるマイ。…すごいジト目だ。
「わかったわかった。そんな睨むなって…近い近い!」
「夜はもっと近いんだからいいでしょ………んん?」
「どうした?」
マイが突然、畑の向こう側を見つめだした。
「………騒ぎか?」
耳を澄ますと、僅かに喧騒が聞こえてきた。悲鳴も含まれている。こちらに向かっているのか、声が少しずつ大きくなってきた。
「探索魔法を……って、あれは…!!」
約百メートル先の家から出てきた人影……いや、あれは……
「……ゴブリン!」
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「ゴブリンが出たぞー!!」「きゃあああ!私の、私の子がぁ!だ、誰か!」「おい、誰でも良いから警備団か冒険者ギルドへ伝えろ!早く!くそっ、何でこんなとこに出るんだっ!」
マイと共に〈視認転移〉で駆けつけるも、住宅街ということもあり大混乱に陥っていた。どうやらゴブリンの集団が民家へ略奪を行っているみたいだ。
「…マイ、あれってゴブリンか?」
「うん……でも、こんなとこに出るなんて滅多にないよ。何かあったのかも……」
「それより、放置でいいのか?どったんばったん大騒ぎしてるぞ。」
「もちろん倒す……けど、殺しちゃうと後々面倒だから……半殺しでっ!」
『ギャギュ!』と鳴き声を上げこちらへ向かってきたゴブリンをマイが氷付けに。顔だけ出ていて、苦しみに大声を上げた。…てか半殺しじゃなく死にそうだ。
「おっと」
脇腹すれすれの所を槍が通る。どうやら俺のところにもゴブリンが集まってきたようだ。
色は濃緑といったところ。背丈は猿ほどで、皆粗く尖った石器を持っている。
「悪いな、正当防衛だ」
数体をまとめて"水円陣"で一掃する。
高位水魔法であるこの魔法は、周囲に水流の円を作り出し、巻き込んだ相手の体内器官に水を侵入させ溺死させる。魔術教本に載っていたので覚えた。
近づいてきたゴブリン九体が、皆平等に水に揉まれ、断末魔の叫びをあげて死んだ。
……そういえば、異世界に来て生物を殺したのは初めてだ。ましてやゴブリンの姿は人に似ているので、若干の引け目を感じる。
「王国騎士団が到着したぞ!」
「助かった!みんなもうちょっと耐えろ!剣や魔法を使える者が前へ!」
振り返り見ると、武装した騎士達が馬にのりこちらへ来ているのが見えた。一人だけ騎士っぽくないのもいるが………
「…って、ジョイじゃん!」
見間違えるはずがない。大柄で、筋トレして
ます!みたいな体のローブを羽織った魔術師がいたら……十中八九奴だ。
「…にい、あれって……」
「ああ、ジョイ(とその他)だな。」
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騎士団が到着し、あらかたゴブリンを始末し終わった。
何体かは逃げ出したそうだが、それらは騎士が数名追っていったので大丈夫だろう。
「サカタ様、ご助力感謝します。」
「おうジョイ。ゴブリンくらいなら大丈夫だよ。それより、なんでここに?」
基本、王国騎士団と魔術師団はタッグを組み相手を殲滅する。
よく見ると、後方に魔術師達がいるようなので、それは大丈夫だ。
だが、たかがゴブリンだけにこれだけ戦力を集めるだろうか?
「それはですね……おっと、丁度来たようです。」
寄ってきたのは、先程ゴブリンを追っていった騎士四名と、魔術師三名。騎士が一人スッ…と、ジョイの目の前へ出てきた。
「ご報告します。逃走したゴブリン五体は、予想通り例の洞窟へ向かいました。団長は先に戦闘準備を整え陽動へと打って出ました。」
「ありがとうございます。…一人で陽動とは、まったく……分かりました。至急作戦を開始します。案内は任せても?」
「ハッ、僭越ながら、先導いたします。」
人々の感謝の声に応えながら、テキパキと指示を出し始めたジョイ。
「なあジョイ、洞窟って……」
「ああ、すみません、説明がまだでしたね。今回略奪を行ったゴブリンのように、最近は魔物達が普段現れない場所に多くの魔物が目撃されているのです。原因を調査した所、怪しい場所が一つありまして。」
「怪しい場所……」
「はい。何でも、魔物達が集まっているとの情報が。しかも様々な種類の魔物でして…恐らく、大量発生の原因でしょう。対処へ向かう途中、ゴブリン出現の報を受けましたので、来た、というところですかね。」
「へぇ………俺も行こっかな、暇だし。マイもそれでいいか?」
「うん、暇だしね。」
それを聞いてジョイは一瞬戸惑ったようだが、「それは心強い、もちろんいいですとも。」と同行を許可してくれた。
行き先は魔物の巣食う洞窟。異世界って感じで良いね!と俺は軽く考えながら、目的地まで馬に揺られながら向かったのであった。
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「これより、作戦概要を説明します。まず、陽動中の騎士団長のもとには第三部隊が加勢へ向かって下さい。ヒューレ、ゾルデ、リルル!」
洞窟から数十メートル離れた場所にて、俺たちは魔物に見つからないようにしながら作戦を立てている。作戦自体は考えてあったが、騎士団長が独断行動をしたため予定が狂ったそうだ。
「ハッ!」
「命令とあらば、何なりと。」
「ジョイ様、今夜こそ夜這いを成功させてみせますからね!」
ヒューレ、ゾルデ、リルルと呼ばれた三人がスタッと前へ出る。……一人変なのがいるが、無視が吉だろう。
「三人は、我々が洞窟内へ入った後、入り口で待っていて欲しい。魔物が現れたら即刻排除しろ。」
「ハハッ!必ずや任務を達成致します!」
「承りました。」
「む、無視……ちょっとくらい構ってよお。」
無視で正解だったようだ。緑色の髪で美人なのに、もったいない…………いや、俺は銀髪の方が好きだから、マイ、睨むのはやめような?
「第二部隊は、洞窟付近の警戒に当たって下さい。第一部隊と[逆弄]は、洞窟内部へと攻め込みます。サカタ様とマイ様も、ご同行願いますね。」
[逆弄]とは、ジョイ直属の部下の中でも精鋭十二人に付けられた称号だ。何でも、王が勝手に付けたらしい。
ちなみに、ヒューレ、ゾルデ、リルルの三人も[逆弄]に名を連ねていたりする。
「洞窟内部へ進入後、探索魔法にて魔物と地形の把握を行い、分かれているならばそれぞれ別行動となります。ただ、火属性魔法はなるべく使用を控えて下さい。」
実は、先にゴブリンに襲われた人の中に、子を連れ去られたという人がいて、どうか助けるよう悲願されていた。偵察のためゴブリンを付けた騎士は確認しなかったようだが、連れ去られた可能性が高い。
ゴブリンは基本、男は見境なく殺し、女子供を巣に連れ去り『食べて』しまう。…二つの意味で。
ジョイの言う「控えて下さい」だが、確かに火属性魔法は洞窟などで絶大な効果を発揮する。相手の呼吸を奪い、内部を火の海と化すこともできる。
だが、そんなことをすると人命救助もままならない。というか皆一様に息絶えてしまう。
それを防ぐため、使わないように、ということだ。
「では、私の"爆水"を合図に殲滅作戦を開始します。準備はよろしいですか?では………゛荒れ果て狂う水の奔流、今収束し破壊を齎さん…"爆水"っ!」
ジョイの詠唱が終わると同時に、洞窟入り口の見張りの魔物が四散する。
"爆水"は、スキルにより爆発的な勢いを得た大量の水流を発生させ、対象に触れると爆発するという魔法だ。高位水魔法の中でも消費魔力は高いが、その分威力は申し分無し。勢いのまま流れた"爆水"は洞窟内部でも猛威を振るう。
それに続き第一部隊と[逆弄]が雄叫びを上げながら洞窟へ奇襲をかける。雄叫び上げたら魔物にばれそうだが……まあ、俺とマイも続いて洞窟内部へ進入。もちろんジョイもだ。
こうして、異世界初の洞窟攻略が始まった。




