第三十話《ケンヤの朝》
「むぐ……いやマジでうまいなこれ!店出せるレベルだろ!」
「フッ……その程度ならば、いくらでも作ってあげる……ってケンヤ、毎日食べてるじゃん」
「まあ、バリエーションは四種だけど、それでも飽きないよ。」
イモドキ達を畑に埋めてから大体早一週間。
こうやって毎朝マイが作った朝ごはんを一緒に食べ、畑の様子を見て、暇潰しに散歩して、暇潰しの道具を作って、暇潰しに寝て…………
けっこう暇である。だってスローライフだし。仕方ないし。
かといって、完全ニートという訳でもない。仕事…ではないが、やることは色々あった。
『オレだけパン……生パン……』
「……生パン言うな。ちゃんとわたしが魔力込めたパン。」
『うおおおおおオレもフレンチトースト食いたいムゴォ!?』
「黙って魔力パン食べてて!『魔力込めたパンとかくれよ』って言ったのデヌンでしょっ!仕方なく作ったんだから。」
マイのパンパンチを食らってデヌンが轟沈した。一応食べているようだ。
「ごちそうさま、片付けしとこうか?」
「あっ…ううん、大丈夫。わたしがする。」
「そっか。じゃあ、俺はイモの世話してくるわ。」
そう伝えてから、〈視認転移〉で畑へ出る。一階のリビングからは畑がちょびっと見えるので、視認転移が使えるのだ。
「しっかし、すげえよな………」
水は、畑の真ん中にある魔法陣が、一定間隔で雨のように降らせてくれる。
その水には魔力がこもっているのだが、そのせいかイモの成長が著しい。種芋を埋めてまだ六日なのだが、既に収穫出来そうなほど育っているらしい。しかも大豊作。試しに畑を〈神鑑定〉すると、気持ち悪いくらいイモの表記が見える。集合体恐怖症。
代償に、虫の数もえげつなかったのだが、それは四日前に片付けた。
畑が、一気に新緑が生い茂る(イモだが)場所となったので、簡単なパラソル付きテーブルと椅子を置いてある。今はイモの葉しか見えないので、今度花でも植えて見るのもいいかもしれない。
とまあ、こんな具合に畑がちょいお洒落空間になったように、自宅警備だけしている訳じゃ無いのだ。………畑は敷地内だって?それ以外だよ、それ以外。日々新しい発見があるのさ。
例えば!俺のスキル〖真·主人公補正〗に加わった新能力について!
この前は見逃したが、嫌な予感しかしない能力があったのだ。
それは………〈任務〉と〈履歴〉である。
〈履歴〉はまだ良かった。使用した途端、ゲームのように今まで行ってきたことが表示されるだけ。『茶頭を撃破した。敵状態:気絶』『魔術教本を購入した。値段:大金貨三十枚』ってな感じだ。ちょっと面白い。
そして、〈任務〉。
使用した途端、ゲームのようにミッションが頭に流れてきた。達成済みとかもある。『メインクエスト:異変の調査──最近活発化した(略)』『サブクエスト:宮廷魔術師との邂逅(達成済み)──ポラリス王国の(略)』って感じだ。
俺は全力で無視した。
いやだって、達成済みのやつは何か貰えるらしいけど、こんなん絶対めんどいじゃん。災いの種だわ。こんなとこで主人公っぽい要素だすん止めてくれよ……
ということで、これは使わないことにした。火種には触れないが吉。
次に、前々から疑問に思っていた魔法とスキルの違い。
俺が思うに、魔法が「頑張って習得するモノ」に対し、スキルは多分「頑張ったら勝手に得られるモノ」だと思う。
魔術教本なんてもんが高価であっても世の中に出回っているのに、スキル教本は無い。魔法……というか陣付きの魔術は、各自が頑張って魔法のイメージを練り、陣の書き方を覚え、魔力を注ぐ。
対しスキルは、感覚的に使い方が分かる。才能みたいなものと似ているかもしれない。
……とまあ、俺が推測したのはそんな事だ。あんま気にしなくても良いだろう。
次、能力値について。
まず、今の俺の能力値はこんなところだ。
・レベル:201
・能力値:体力 32000/32000
筋力 29000
俊敏 57000
物理防御 37000
魔法防御 36000
魔力量 11000000
技術 550000
最初、俺は必然的に「防御が高ければ、どんな攻撃も寄せ付けない」と思っていた。
確かにその通り。物理防御が高ければ剣も肌を貫けない。魔法防御が高ければ、魔力の使用による体への影響の耐性ができ、魔法を寄せ付けない。
しかし、それは間違いでもある。
よくよく考えれば、常に剣を通さない体なんて、金属で出来てんのかという話であり、魔法を寄せ付けないなんて、バフかけらんねえじゃん、ということになる。
つまるところ、能力値とは、「己の最大スペック」なのだ。ちょっっとだけ、意識すれば剣は恐くなくなるし、炎の矢とかも効かない。
筋力と俊敏も同じで、本気だせば超パワーが出る、猛ダッシュすれば新幹線と化す……技術はよく分からない。
体力は、0は肉体の死を表す。疲れ具合と見てもいい。
これらは、どれも屋敷で分かった事だ。それだけだと、はっきり言ってニートだ。屋敷に閉じこもってる最中に考えたことだし。
なので俺はここ数日、毎日外へ出向きあることを日課として行っている。
「……ケンヤ、そろそろ?」
「あぁ、今日もちゃんと行くよ。」
「ん、行ってら。」
ちょうどマイが知らせに来てくれた。朝九時半を目安に毎日行くことにしたので、頃合いだろう。
さぁ、仕事の時間だぁ!
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目的地は、キノスラの街西部にある鍛冶屋。
街の西部は特にモノ作りが盛んであり、様々な職人達が日々切磋琢磨して腕を磨いている。
「おお?サカタ、今日も来たのか?」
「オゥッス!今日もよろしくお願いしやす!!」
「ハハハ!いい返事だ。その心構えを忘れるんゃねえぞ?…おい!お前らもだ!」
「「「オゥッッス!!!」」」
この熊と虎を合わせたような巨漢は、この工房の当代棟梁であるベアガー·ヴァプラ。
ベアガー工房は、街でも一、二を争う有名所であり、あの王城…いや、王宮御用達の武具や食器等を扱っている。職人達の熱気もすごい。
そんな場所になぜ来たかというと………
「棟梁、早速今日も盗ませてもらいやすっ!!」
「ハハハハハ!正直な奴め!よかろう、盗めるものならとことん盗んでみやがれ!」
盗むと言っても、モノを盗む訳じゃない。技を盗むのだ。
理由は二つ。
一つは、生活水準の向上の為だ。
この工房には、多くの錬成師や鍛冶師、修繕師といった者がいる。
ステータスにある❲クラス❳は、その者の職業を表しているのだが、職業ごとに固有スキルがあることに気づいた。
例えばジョイ。彼はクラス:上級魔術師であり、固有スキルは〈魔術師の鏡〉。これは、魔法をイメージし放つまでの時間短縮補正や威力上昇補正、効率上昇補正などが得られる。
それと同様に、錬成師は〈錬成〉、鍛冶師は〈鍛造〉といった固有スキルがあるのだ。
そして、ここベアガー工房は、工房だけでなく隣接してレストランや何でも屋なんかも商っているため、その分多種多様なクラスの人がいる。
そして俺は閃いた。………俺の〈能力超獲得補正〉があれば、スキル取り放題じゃね?…と!
善は急げというので、すぐにこの工房へ突撃、棟梁に頼み込んで見学という名のスキル狩りを開始。
ただ上級職の人のスキルは無理だったが、見習いや並みの職人の方々のスキルはパクることができた。俺の生活を豊かにするために、使わせていただきます。
ちなみに、得(獲)たスキルは全部〖異世界人〗に突っ込んだ。もはや異世界人って単語の意味を為していない気がする。
理由二つ目。
確かに、多種多様なスキルを俺は得ることが出来た。
だが、それだけだ。得ただけでは意味がない。
切れ味の抜群な刀を持っても、使いこなせなければなまくらに劣るように、固有スキルも使えるようにしなければならない。
確かにスキルは感覚的なものであるし、そもそも俺は技術の能力値が非常に高い。
技術の値が高ければ高いほど、ざっくり言ってスキルや魔法がすごくなる。
なので、スキルもすぐ使えるようになると思ったのだが………そう上手くもいかなかった。恐らく、己の技術値と経験が釣り合っていないからだろう。魔法がバカ威力を発揮したのは〈思考反映〉による影響だったし。
なので、俺はこの工房で足りない経験を補うことにした。棟梁にはなんか気に入られたので、職人技を自由に見学させてもらっている。
「へいサカタ。どうよ俺のベッドは。最高の出来だろ?」
気軽に話しかけてきたのは、ルバーベルト·ドラルリン。木工師である。歳は同い年くらいだ。工房はみんなおっさん臭いので、同年代とあって気があうのだ。
「ん~、……前作よりはいいんじゃないか?」
ルバーが見せてきたのは、シンプルなシングルベッド。俺には細かい知識とかないので、分かるのは『ニ○リのベッドと同じくらい』ということくらいである。
ただ、この世界でニト○のベッドレベルのものが作れることから、若くして名工房に入ったルバーの優秀さが読み取れる。
「だろ!?特に今回は、使用者のことも考えて作ったんだ。前のは角が尖ってたから、今回は丸くしたし、軽量化のため材木も変えたんだぜ!ベアガーさんにも褒められたからな!」
木工師の固有スキルは〈木読〉というもので、錬成で金属を変形させるように、木を変形……は出来ないが、どこを切ってどこを削れば良いか、などが感覚的に分かるようになるスキルである。
ルバーはこのスキルを熟知しており、パクった俺とは比べものにならない程器用にスキルを使う。経験の差だ。
「すごいなルバーは。俺もちょっと練習してくる。」
「おう!あ、あと〈木読〉のコツは、木と会話するイメージでやると良いぞ~!」
「サンキュー、参考にするわ。」
そうして、〈木読〉含め色んなスキルの練習をすること三時間、太陽が真上に昇った。時刻は約十三時。昼である。
「うっし、今日はこのへんで!棟梁!あざっしたぁ!」
「おう!気いつけて帰れよ!」
一通り練習を終え、ケンヤは帰路に立つのであった。




