第二十七話《街散策》
活気あふれる、キノスラの街。
多くの職人や冒険者、商人たちが集まり、特に昼は人が多い。
剣を何本も袋に入れて運ぶ大柄な男、酔って喧嘩でもしたのか罵声を発しながら殴りあう冒険者二人、それをフライパンで制す店のオバチャン、護衛を引き連れて道を通る馬車……
まさに異世界っ!という風景に、思わず顔がにやけてしまう。
「ケンヤ、なにニヤニヤしてるの?」
「あぁ、ちょっとばかし感動してな。」
「ふぅん」
マイは、大きな袋を魔法で浮かせて運んでいる。
王城からの帰り、折角だから寄り道していこうと思い、食料や衣服、家具に農具に雑貨など様々なものを買い揃えた。
大きいものでもアイテムボックスがあるので余裕で持ち帰れるし、金もあるので少々高めでも問題ない。
「うっし、ある程度必要なものは買ったからな。欲しい物あったら買っていいぞ?」
「やった!じゃあちょっと行ってくる!」
にぱぁ!とマイが顔隠しのフードから表情を覗かせ、すぐに向こうへ駆け出していった。浮かせていた荷物を置いていったので、やれやれとアイテムボックスに入れておく。
「さて……俺も店見て回ろうかな…結構広いからまだまだ見てない店たくさんあるし。」
ここ一週間で、王城近くの武具屋や商店は大体回ったものの、屋敷近くの店は行ったことのない場所ばかりだ。魔法やスキルなんてものがある分、地球とは違った物が多くてどこへ行っても楽しめる。
「へい兄ちゃん!ちょっと見ていかねえか?良いモン仕入れたからいつもよりうめえぜ?」
と、唐突に声をかけられた。どうやら焼き鳥(?)を売っている店のようである。もちろん、俺には、主人公補正があるので以前のようにビビったりなどはしない。
ちなみに、限界突破をして強化され〈英雄威風改〉となったことで、さらに精密な威圧と精神保護、効果範囲の拡大が可能となった。まぁ、威圧は今さらいつ使うんだという話だが。
「お、旨そうだな。なに肉?」
「爆突鳥の肉だ。魔物だが結構いけるぜ?」
魔物か……まだ実際に見たことはないな。普通の動物が魔力を持ちすぎて突然変異したり、魔力が満ちた場所などで産まれたりしたのが魔物らしい。前食べた大白百足も、魔物だ。
「知らない魔物だな。どこら辺に住んでるんだ?」
「おう、ハーシェル草原ってあるだろ?こいつらはそのさらに奥の方にいるんだが、なんでも最近、凶兆の森に突然わんさか出てきやがったらしいんだわ。まあ魔物だから当然討伐対象になって、冒険者らがこぞってギルドに売ったのが流れて来たって訳だ。この辺りにもちらほら見かけられてるらしいから、兄ちゃんも気を付けろよ。」
吉兆の森………なんて名前だ。RPGだったら絶対バッドイベントが起こるだろうな。
「なるほど……分かった、ありがとう。じゃあ爆突鳥焼き、四本くれ。」
「まいど!値段は四本で銅貨八枚…をサービスで六枚!焼きたてだから火傷に注意しろよ!」
銅貨六枚を財布から出し払い、焼き鳥を受け取る……って結構でかい。
見た目はまんま地球の鶏肉。テカッ!と輝く油と、所々焦げて黒くなった肉が食欲をそそる。
「では、早速……」
串に刺さった肉を一切れムシュッと食べる。……うむ、予想通りYAKITORIの味。普通に、旨い。
四本のうち二本はマイに買ったので、食べ歩きの要領で自分の分を貪っていく。
そうしてブラブラと、クレープモドキやら果実ジュースやらを食べ歩くこと数十分。
ふと、一つの本が目に留まった。
「……これは!魔術教本!!」
雑貨屋の軒先にポツンと売られている本。ひっそりと目立たない場所に置いてあるが、ブッ○オフで鍛えた俺の真眼からは逃れられなかったようだ。
「低位から高位までの魔法陣の描き方と効果か……」
手に取り見ると、どうやら低位、中位、高位魔法の魔法陣の描き方と効果、ほんの少しだけ難位魔法も載っているようだ。
基本的に攻性魔法と治癒魔法、そして生活魔法が中心で、それ以外はほぼ載っていない。そう目次に書いてある。
だが、それでも十分。この間気づいたのだが、さりげなく追加された〈魔法超取得補正〉が結構トンデモな補正だったからだ。それは、『視認した或いは受けた大抵の魔法を使用可能にする』というもの。〈能力超獲得補正〉の魔法版だ。〈超思考反映〉と組み合わせると……ハハッ、笑っちゃうね。
つまり、この本に載っているのはあくまで魔法陣だが、名称と効果が載っているならば再現は容易い。スピーディーに魔法のお勉強が出来る。この世界の受験生涙目!
ちなみに、試しにとマイに魔法を撃ってもらい、コピーを試みたが、超位以上のものは再現出来なかった。自分で創ろうとすれば出来なくもないのだが……とりあえず、
「すいませーん、これ下さい。」
レジっぽい所で店員を呼ぶ。ドタドタと店の奥から出てきたのは、たわわなお姉さんだ。
「ごめんなさいね、少し席を外していて……て、あら?その教本を見つけるなんて……やるじゃない。」
見た目二十代前半の彼女が持つものは、暴力的なまでの膨らみ。その大きさはまるで……カボチャ。そう、カボチャのようだ!
だが、俺は動じない。そんなものに動揺するほど、主人公は甘くないのだ。断じて、いくら扇情的な格好をしていたとしても俺の表情は変わらない!
「気になったのでつい、ね。いくらですか?」
「うぅん、君、なりが良いからもしかして貴族の子かしら?少なくとも一般人がホイホイと出せる金額じゃあないわよ?」
そう困ったように唸るお姉さん。あ、動くたびに揺れ──じゃない、金額だ。金はある。
「多分大丈夫ですよ。それで?」
「大金貨三十枚といった所ね。どう?」
無理でしょう?といった目でこちらを見てくる。大金貨三十枚は、三百万円に相当するため、こんな若造が持ち歩いているとは思うまい。
だが、俺はイレギュラー。常に懐へ三億円を忍ばせる男なのだ!
「フッ、大丈夫ですよ、ほら。きっちり三十枚、確かめたらどうです?」
どこからともなく、大金貨を取り出す俺。
「へえ、確かに三十枚あるわね……いいわ、持っていきなさい。フフフ………」
感心したように彼女が言う。何だか色気のあるポーズをとっているように見えなくもない……も、とたんに何やら目を見開き、驚いたように口をパクパクし始めた。
急激に変化した彼女に、何事!?と思い視線の先を追うと……
「………………………」
いつの間にか無言のマイが突っ立っていた。なんだか目にハイライトが無いように見える。
手には大量の袋を抱え、フランクフルトモドキを咥えたまま。
「どうしたマイ?買い物は終わったのか?」
極めて普通に接しようと心見る。恐らく店員のお姉さんがワナワナしているのは、空間転移をしてきたからだろう。
「………ケンヤ」
「……ん?」
「浮気は良くないよ?裏切りとかも駄目だよ?寝返りも駄目だよ?大きさなんて関係ないよね?むしろ大きいと邪魔なだけだよね?いっそ削ぎ落とした方が」
「誤解だ!浮気してないし、そもそも変な目で見てもないし!」
「嘘だね!そこの女のオムネを見てちょっと魂が揺れたの見逃さなかったよ!」
「おまっ、魂が揺れるって何だよ!ってちょ、おい!や、ヤメ……アッ────!!!」
その後、TPOもわきまえず迫ってきたマイを何とかなだめ、落ち着かせるまでに三十分もの時間を費やしたのだった……
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場所はしがない雑貨店。その端っこにて、二人の男女が向かい合っていた。
一見兄弟にも見える二人は、言わずもがなケンヤ&マイである。
「ったく、俺がそんなことするわけないだろ?男として。」
「うぅ……ごめんなさい。てっきりケンヤが何かしたのかと…」
「だからしねえって。むしろそれはお前だろ。出会って数日で俺にあんなことするとは……」
「そ、それは……ケンヤがかっちょいいのが悪い!」
「理由になってないぞ……いやなってる、のか?」
カッコいいとかいう評価を受けたことがないので、思わずクエスチョンマークが頭に浮かぶ。
「具体的にはなんだ?俺ただの高校生だぜ?」
ブサイクではないが、某アイドル事務所に入れるほど俺はかっちょよくない、と思う。そういや、こっち来てから鏡みてないな……
そう考えていると、何やらもじもじしているマイが、口を開いた。
「…普通に顔タイプだし、間接的にも助けて貰ったし、前にいとは違う雰囲気がこれまた良いし、強いしたまに鬼畜だけど優しいし、後未来に……これはいいか。」
「お、おう……」
何だか気になるワードが飛び出したが、とにかくマイが俺のことを想っているのは伝わった。
正直、突然バァン!と現れて、『私が神だ』と言って俺に付いてきて、ちょこちょこと隣にくっついてくる妹みたいな相棒……という認識だったので、何だかむず痒い。既に相棒と思っている時点で好感度はかなり高いのだが……
マイの言う『助けて貰った』は、天界にて封印がどうたらを、俺の主人公補正が作用したのか封印が解かれた……とかいうやつだ。意識してやったことではないので、何か微妙な感覚である。
「……とりあえず、帰るか!」
「うんっ!」
そうして、いまだ唖然としているお姉さんを尻目に、屋敷へ戻ることにした。空間転移で。
……その後、客のいなくなった店内にて、「はわぁ、天使や……天使を見たぁ……」という声が繰り返し発せられたそうな……




