第二十四話《屋敷の違和感》
時刻は夕方五時。すでにキノスラの街には夕日が差し、人々が夜に向けて準備をする時間。
そんな中俺達は、三つの候補のうち一つ目の物件に訪れている。ちなみにネルも同伴だ。
「ここか。聞いてはいたけど、でかいな。」
王城から歩いて三十分、不動産屋からは十五分に位置するこの家は、屋敷といっていいほど大きい。
もちろん条件は満たしている。ちゃんと小さいが農地があり、治安もここ数年犯罪が指で数えられるほどしか発生していない。異世界基準なので、それでもかなり治安が良いと分類されるのだ。
しかもお値段、この規模にしては超徳安!どこかのネット販売も驚愕のお値段!物件情報漁っていたら、すぐに目に入った。
……ただ、その安さの理由が問題であった。
「…引っ越してきた人が次々と焦ったようにことごとく引っ越す、か。絶対なにかあるよな…」
「そうそう、その噂が最近では広まっちゃってさ、めっきり移住希望者も減って……そろそろ取り壊そうかな~って思ってたのさ。だからナイスタイミングだね!」
絶対何かあるだろ!という怪しい物件なのだ。
過去、総勢三十人もの人々が移り住んだこの建物。しかし、その全員が二日以内にまた何処かへ引っ越していくのだ。
「まあ、俺にはうってつけかな。条件も良いし、理由も解ればいいわけだし。」
「とりあえず入ってもらおうかな。後の二つも見に行くんだろう?」
ネルに促され、マイと門をくぐる。
直後、不気味な門が、ギギギィ……と勝手に閉じて行ったことなど、誰も知るよしもなかった……
►►►
「やっぱり広いな……二人暮らしだと広すぎるか?」
屋敷の中は、玄関から入るとすぐ広間、そこから三つと階段に分かれている。
三階建てで、敷地面積も広いので俺とマイだけだとちょっと寂しいかな?とは思うが、やはり魅力的な家だ。
「時間も時間だから、パパパっと案内して次行くよ。まずは一階からね。」
ネルに付いて、一階をみてまわる。部屋四つにトイレ、風呂場に台所といった配置だ。不審な点などはなかった。
不審な点……はなかったものの、俺の心は狂喜乱舞している。
理由は明白、風呂だ。日本人、ジャパニーズにとって欠かせない風呂!この世界には風呂が少ない!風呂無しの家も多いのだ!
しかも、なんと大がつくほど大きな浴場、それも温泉という特典付き!
それを見て、思わず心がヒャッハーになった俺は湯に向かってダイブ、マイが風魔法でそれを防ぐということになった。面目ない。
「さて、次は二階な。はぁ…広いからめんど……じゃなくて、住み心地良さそうだナァ~」
そんな怠惰なことを言いかけたネルが階段を先導する。
外もだんだん暗くなっていて、おまけに階段の、ズシッ……という音がえもしれない雰囲気を作り出す。
「なあ、照明とかってないのか?」
「あ……ああ、あるある。ほら、横にちゃんと付いてるじゃないか。」
……絶対言い忘れてたな。マイもネルにジト目を向けている。
横に付いてる照明は、王城の部屋にあるような〈永光〉の魔法陣が描かれたランプだ。
魔力を流すようにすると勝手につく。
「二階は寝室にトイレ、ちっちゃい倉庫くらいかな。あまり一階と変わらないから、すっ飛ばしていっていい?」
「いや、一応見ておきたい。」
「ん、特に寝室は、特に大事なところ!ダブルで夜の営みにも差しつか…『おーい、ちょっとマイストップ!一旦落ち着こうか、ハイワンツー』スーハー、………んぅ、落ち着いた。」
急にスイッチが入ったマイをなだめながら二階を探索する。
寝室もトイレも部屋も問題はなく、倉庫も空っぽで特に特徴はない。
「それじゃ、もう三階上がっていい?」
「ああ、見るもの見たし十分。行こう。」
そう、またもネル先導で三階への階段を上がっていく。
「…………ん?」
そこで違和感に気づいた。
一応探索魔法は使っているのだが、これといったものは今だ見つからない。
だが、今探索魔法で俺の脳内に映るこの建物の内部構造、部屋などがこの目で見ているものと若干異なるのだ。本当に意識しなければ気付かないほどだが。
「…マイ」
俺の呼び掛けに、『分かっている』と頷くマイ。探索魔法で気づいたのか、どこか警戒している。
「ネル、今探索魔法って使ってる?」
「え?今は地図あるし、使ってないけど……何かあったり?」
その通りだ。よくわからないものの、警戒しておいて損はない。
用心深く階段をのぼり、三階に到達した時、それは聞こえた。
『………タ チ サ レ 』
脳内に直接話しかけてくる感覚。どうやらネルもマイにも聞こえたようだ。
「ん………見つけた。あっち!倉庫の方!」
来た方を逆戻りしていくマイ。何かを見つけたようだ。
『……キ ヅ イ テ イ ル ノ カ?』
さらに謎の声が響く。ネルも焦ったような顔なので、今までこんなことなかったのだろう。
やがて二階の小さな倉庫の扉の前に立ち、確認するように手を伸ばすマイ。
「ケンヤ、やっぱり。探索魔法と鑑定使って。」
言われた通り、探索魔法と同じに神鑑定も発動する。
そして、見えた情報に「そういうこと……」と納得した。
探索魔法には、一見この倉庫は何の変哲もなく映る。
しかし、屋敷全体で本当に注意してみれば、僅かに、それはもうちょっぴりとだけ、何かを隠すように大きさや角度などが違って見えるのだ。
おそらく魔力操作系の魔法かスキルで干渉をうけたのだ。現に頭の中に直接入ってくる声もしかり。
そして、見事被って消え去る部屋が一つ完成する。
間近で〈神鑑定〉なんてしたら、一発でばれるような仕組みだ。
「ん…ケンヤ、開いた。何かいるみたい。」
マイが手を伸ばしていたのは、扉の照明の一つ。
しかし、それに描かれた魔法陣は〈永光〉だけでなく、空魔法も描かれていた。
それを入り口に、二重で隠れていた部屋が姿を現す。
中は光一つない暗闇。
何も見えないはずなのに、中には先ほどから話しかけてくる何者かがいる、ということは直感で分かる。
「……どうする?これ開けたけど、入る必要あるか?他の物件も見ときたいし…」
「えー………じゃあ、これ解決したらさらに半額するから、頼まれてよー、放置したら結局取り壊しになるよー…」
さらに半額……それはいいな。
だが、やはり他の二軒も見てからのほうが……
と、その時、ひょいと俺の真ん前に出てきたマイが好奇心いっぱいの目で俺を見上げ……
「ケンヤ………ダメ?」
「一番、坂谷賢刃、行って参ります!!!」
俺は暗闇にダイブした。




