第二十話《今後のこと》
どういうことだ。
俺の思考は、目の前で起こったことに理解が追い付いていない。
目を擦っても、斜めに見てもどうみても、見慣れた“世界地図”がそこにある。
ほんの少し違う点はあるが、ユーラシア大陸からオーストラリア大陸、そして日本にあたる所まで描かれた地図。
ご丁寧に『~帝国』など、国名や地名までのっている。これは知らない名前だらけだ。
「………にい?」
「サ、サカタ様?」
ジョイと、先ほどまで寝ていたマイが心配そうに声を掛けてくる。
だが、その声は俺の脳内には伝わらずすり抜けてしまう。
ここは異世界だ。それは間違いない。確実に地球とは違う場所。
だが、この地図はなんだ。
なんで地球上の世界地図と合致するんだ。
しかもかなり正確に描かれたもの。
…………分からない。
分からないものを考えても仕方ない。
大丈夫。少し、少し落ち着いてきた。
「ごめん、ちょっと驚いただけだ、大丈夫だよ。ありがとう。」
心配してくれている二人に礼を言う。
王は不思議そうに見てくるだけだ。
「そうですか。…何か思い出しましたか?」
「残念ながら。」
首を横にふり、分からないアピールをする。
「それより、この国って結構北にあるんだな。なのに寒くないのって何でなんだ?」
地図にはちゃんとポラリス王国の場所も載っていた。言えば、ロシアの北の位置になる。
流石、北極星の名を冠するだけはあるな。
ちなみに、北アメリカ大陸には、ドンと大きく『アートール帝国』とあり、南アメリカ大陸には共和国と王国がいくつか。
ヨーロッパの方には亜人族と書かれ、アフリカ大陸には地名以外ほぼ何もない。
アジアには、『龍山』と連邦国。オーストラリア大陸含めオセアニアも、アフリカと同じくあまり表記がない。
そして日本はというと……
大きく、バツが書かれていた。隣には『災厄』の文字。
これが何を示しているのかは分からないが、良いようには思えない。気になる所である。
まあそれは置いておこう。
「それはだな。この地域には昔から神族による加護か掛けられておるのだ。そこの神族の少女は知っておるのではないか?」
王が俺の疑問に答えてくれた。
神族か。そういえばマイも神族だからな。
流れでマイを見ると、少し不機嫌そうな顔をしていた。
……もしや触れちゃいけないやつか?
「……少女は少女でも、あなたより何倍も長く生きてる。」
むすっと、心外だというように少し頬を膨らませた。
なんだ、そんなことか。だってロリb………………だ、もん、な。
…思考の途中で何故かマイが超睨んできたので言い切るのは止めた。女の勘ってやつか。怖っ
「ふむ、それは申し訳なかった。無礼を詫びよう。どうか許してほしい。」
「分かればよろしい。」
王が頭を下げ、マイが満足げに頷く。
……てか王に頭を下げさせるって、やっぱり神族て立場高いのか。
「にい、説明する。この辺りには、ヒャルっていう暖を司る子が地上に降りて住んでる。
その子は寒いのが苦手だけど、気に入った場所があるらしくて、仕方なく気温を操作して過ごしやすくしてる。そのせい。」
「加護じゃなくて仕方なくかよ!!」
思わず突っ込んだ。
加護だと思ってありがたっていた人にとっては衝撃の事実だな。
「その…マイラ様はヒャル様とお知り合いで?」
ジョイが若干動揺しながら質問する。
「ん、友達。天界ではよく遊びに来てくれた。」
ごっどフレンズってことか。
「じゃあマイは何を司ってるんだ?」
疑問に思ったことを言ってみる。
対し、マイは「言ってなかったっけ?」という表情を浮かべた。
「……わたしは『変化を司る』神族。かなり強い部類の力。」
「変化…?具体的にはどういう」
「具体的…には答えづらい。いろいろ。」
いろいろ、か。
まあ抽象的だし、仕方ないか。
「……あ!もしかして、マイの毎日性格が変わるっての、それのせい?」
そういえばと、脳裏に浮かんだ。
マイはこくりと首を縦に振る。
「…ん。副作用みたいなもの。制御しようと思えば出来なくないけど、体力使う。」
「難儀な力なんだな……。大変そうだ。」
思わず同情する。強い力には副作用があるもんなんだな……と考えていたところで、王から声がかかった。
「サカタよ、少し論点がずれてきてしまったな。そろそろ結論に入ってくれ。」
「分かった。じゃあ、結論を言う。
まず、俺は報酬を受け取り家を買う。場所は店で相談することにした。結局はポラリス国内だけどな。
報酬を受け取り次第、家を探す。
家は一応農地付きで、主に農民としてマイと暮らすことにする。お金に困ったり、必要になったら冒険者もやってみるつもりだ。
あ、あと、ジョイや王が呼んでくれることがあったら王城にちゃんと出向くから。
以上。今はこれくらいかな。」
王とジョイは少し寂しげな顔だ。
「そうか……分かった。正直、国としてもサカタと彼女の戦力は魅力的だからな、欲しいところだが……ここは自由の国だ。強要など絶対にせぬよ。」
「サカタ様には命も救われましたし…本当に感謝の念が絶えません。」
「ああ、こちらこそいろいろ助けてくれてありがとう。」
二人と固く握手を交わす。
「まだ別れるわけではないがな!ヌハハハ!!」と王が笑い、「そうでしたね。」とジョイが返す。
二人とも屈強な手だが、実に温かみのある握手だった。
そんな様子をマイは見てにっこりと微笑み、「んっ大丈夫、にいは任せて」と二人に告げる。
……その笑顔は今まで見たこともないような可愛らしさと美しさを伴っていて、思わず見惚れてしまったのは二人も同じだったのかもしれない。
だが、神族とはいえ、少女に任せられるというのはいかがなものだろうか、と思ったが、ジョイと王は俺を記憶喪失だと思っているのを思い出し、『そういうことか』と納得した。
「それでは、サカタ様。報酬はすぐお渡しすることもできますが、如何なさいますか?」
「あぁ、じゃあ貰おうかな。一旦部屋に戻ってからでもいいか?」
「構いませんよ。それでは、そう伝えておきます。西殿の三階にて受け渡しいたしますので、後でお越しになられて下さい。では。」
「じゃあ俺も部屋に戻る。二人とも、付き合ってくれてありがとう。」
「うむ、中々面白かったぞ。またいつか誘うがいい。地図は余がしまっておこう。」
そうして、ジョイと自分から来たくせ誘われたことにしている王と別れ、部屋へ戻るのだった。




