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ゆっくり異世界生活!(大嘘)  作者: 黒い鱸
第一章:転移編
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第一話《いきなり災難》



ここはどこだろう。



「いやどこだよ。草原…?うん、草原。夢でも無さそうだし…。」


 見渡す限り草しかない。

 この前やってた『ダーウ○ンが来た!』の草原風景まんまだ。

 どこを見ても草、草、草。いや別に笑ってるわけじゃない。


……てか教室から草原ってどういうことだよ。本気で分からん。


 見てみれば、俺を中心に半径1mくらいの円の形で綺麗に教室が刈り取られている。まるで、俺の周囲だけ飛ばされたみたいな………いや、まさかな。

 とりあえず俺がするべきことはなんだろうか。何だか下手に歩くと危ないと本能が告げている。


でもずっとここにいても何も変わらないしなぁ……マジでどうするか。



 ここからでは草原以外なにも見えず、人の気配も無い。


 幸い、机の横にカバンを掛けてあったため少しの水と食料(弁当)はある。

 だが、流石にこれだけではあまりにも心もとない。二日も経てば、飢餓感で苦しむことになるだろう。

 

……ちょっとだけ歩いてみるか。何かあるかもしれないし。


 そう思い数分適当に歩いてみたが、やはりというか何もなかった。

 少し喉も渇いてきたので、一旦机の所に戻り水筒を取りに行く。ついでにカバンの中に何が入っているか確認もする。


 カバンの中にあるのは 水筒、弁当、家の鍵、スマホ、文房具、ノート、イヤホン、財布、本、雨具くらいだ。


 

「ん?なにこれ。」


 一つ見慣れないものがあった。


 薄汚れた板みたいな形の…というか板だわ。

 こんなん学校に持ってきた覚えなどない。


 

これこそ誰かのイタズラとか…?


 ううむ………………分からないことだらけだな。取り敢えず水でも飲も。


「………………」


 誰もいない。周りに人がいないだけなら、家にいるときも大体そうだ。

 だが、それとは違う感情………寂しさ、だな。これは。人がいない、それも目に見える範囲どこにも。……心細くなってきた。弁当でも食べよ。


「お、今日は唐揚げか。レトルトでも、作ってくれるだけありがたいもんな……」


 中身はご飯に唐揚げ、卵焼きにカップゼリーなど。


 俺は知っている。毎朝、朝早い俺のために母がいつも弁当を作ってくれていることを。

 自分だって時間がないくせに、レトルトだけじゃつまらないからと手作りのものもいつも入れてくれる。



 …………もっと、親孝行すればよかったかもなぁ…。


 いやいや、帰れるだろ。『よかった』なんて考えるな。


「………ん?あれは……っ!」



 悪寒。

 

 遠くに、一つの影。


 人かとも思ったが、あれは違う。そうじゃない、動物だ。いや、本当に動物か?


「こっちに向かって…?…………!!!」


 目を疑うほどの超スピードで向かって来る動物は、牛だ。牛っぽい何かだ。少なくとも、俺の知っている牛ではない。



 逃げなければ。

 

 そう、感じた。


「速っ………!あれ?」


 突然、上を見上げて立ち止まり、そのまま向こうへ焦るように走り去って行く牛モドキ。ホッとしたような感情。


 そして、おもむろに空を見上げると……


「なっ、雲!?」


 もくもくと、瞬く間に巨大化していく積乱雲、これは…………スーパーセルだ!


「ぐうぉっ!?」


 叩きつけるような突風、ダウンバーストってやつだな。圧倒的な力で、俺は強制的に地面に這いつくばされる。


 直後、迫り来る豪雨。



 なんとか傘を取り出し、カバンを机の下にかくしておく。もっとも意味など為さないのだが………



 風がゴゥゥと吹き、雨が横から痛いくらいに叩きつけられた。草原の草が舞い踊るように激しく揺れている。



 閃光が迸る。雷鳴が轟いた。


 僅かにきこえた断末魔の叫び声。

 雨風の音で掻き消されてしまったが、『ブルモォォォォ!!』という感じだった。

……さっきの牛モドキに落ちたのか?確認する余地もない。


雷って高い所に落ちやすいんだっけ……


 周りには高い木などない。これは危ない。牛モドキの二の舞になる確率は、高い。


 身をかがめようにも、既に草原は水浸しになり、もはや湿地帯と化していた。


 カバンを濡れないように机の上に置き傘をたてた。使えるかどうかわからないが、スマホは守っておきたい。防水機能がついていないので濡らすとアウトだ。

 一瞬で傘は吹き飛んだ。まるで嘲笑うかのように、やけに優しい風が顔を横切る。

 

 雷は一向に鳴りやまず、雨風も激しい。


 よくみると遠くに竜巻が見えた。


 ってだんだん大きく…


 いや違う。俺の方向に近づいてるのか。

 どうすればいい。逃げるか?


 でもこの竜巻の速さじゃ俺は逃げられない。



 死ぬのか?こんなよくわからない場所で?


 目の前にあるのは絶望の塊。どうすることもできない。あがいても、無駄。

 

 脳裏に横切るのは、死の一文字。

 嘘だろ……ほんの二時間くらい前には死とは無縁な場所にいたんだぞ?

 

「あ、あああ………い、異世界転移な、んだったら、せめて教会とかに、しとけよ、な……」


 ふと兄の顔を思い出す。そして、父の顔、母の顔、あのときの彼の顔………走馬灯ってやつだな。


 笑えてきた。意味がわからなすぎる。


 だめだ、意識が朦朧と……竜巻が目の前に、ああ……………死ぬな、こりゃ駄目だわ!


 そう、なんだか思考が吹っ切れた。





 しかし、本当の意味で思考が切れることはなかった。


 寸でのところで竜巻が空へ舞い上がっていく……


助かった…のか?


 わからない、わからないが、雨も忽然と止んだ。

 ただ嵐は過ぎたが、こんな湿地帯ではろくに歩けそうもない。



 やっぱ、詰んだ。



 そう思い精神も体も疲労が頂点に達した時、


 遠くに魔法使いのコスプレをしたゴリマッチョが手を振ってやってくる幻覚をみながら

 

 俺は倒れるようにして眠った。




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