97話 相原の策略(2)
餌を欲しさに入ってしまったネズミ取りの道具の様に、まんまと相原の策略にはまった僕は、「またしても・・・」と心の中で呟いた。
「片瀬さ~ん、こちらで~す」
いつも僕を驚かす声と違って、明らかよそ行きの声で呼ばれて相原に着いて行くと、4人掛けの木製の丸テーブルの場所に腰を下ろす事になった。
「メニューは、今日のおすすめで良いですよね?」
「うん、任せるよ」
「お父さ~ん、おすすめのね~」
何だ、その猫なで声は・・・。
「はいよ」と、厨房からお父さんの元気な声が聞こえてきた。
「どうですか、ここ」
「うん、何だか落ち着くね。オレンジ色の淡い照明と言い、壁に飾られている数枚の西洋の風景画と言い」
「でしょう。さすが片瀬さん」と、相原は笑顔で答えた。
教習所に居る時みたいに先輩、後輩の感じと違って、今の彼女の顔は女の子になっている。
「それにしてもなぁ、相原」
僕は周りに聞こえないよう、声のトーンを下げて話しを続けた。
「1度食べに行きたかったんです~、って言ってたから、てっきり初めて行く所なんだって思ってたのに、全然初めてじゃないじゃないか。ましてや、いきなり相原の両親が出て来たもんだから2度もビックリさせられたよ」
「だってビックリさせようと考えてたもので」
「あ~、相原の思惑通りだよ」
そんな会話をしている時に、相原のお母さんが、お絞りと温かいお茶をテーブルまで運んで来てくれた。
僕はなぜだか、条件反射的に背筋を伸ばした。
「あら、片瀬さん。そんな肩肘張らず、ゆっくりしていってね」
お母さんのほんわかする話し方に、僕は自然と笑顔がこぼれた。
「あっ、はい。有難うございます」
確かに言われて見れば、お母さんの顔立ちは、相原と良く似ている。
僕は、お母さんがまた厨房の方へ戻って行くの確かめてから、相原に小声で聞いてみた。
「さっきの話し、聞こえてなかったよな?」
僕の問い掛けに対して、相原は、ニヤッとしながら、「さぁねぇ〜」と言って、又してもそっぽを向かれてしまった。
こ、こいつは~・・・。




