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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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 8話  一期一会

路上検定が合格した次の日、遠藤 遥と高野 絵里が試験場で免許証を取得する為、学科試験を受けに来ていた。


「遥、試験どうだった?」


絵里の問い掛けに遥は素早くスマホに文字を打ち込み、それを彼女に見せた。


『多分、大丈夫だとは思うけど、発表が出るまでは何とも言えないかな』


「そうだよねー、遥は免許証よりも試験に合格しないと、片瀬さんにメール出来ないもんね~」


絵里が冗談混じりにそう言って、冷やかな眼差しで遥を見た。


遥は、はにかんだ笑顔を浮かべながら、「もう~」ってな感じで絵里の肩を軽く押した。

 

2人は試験の結果が出るまで、自動販売機で飲み物を買い、2階の試験会場のあるフロアーで、4人掛けの椅子に座って待つ事にした。


「それにしても、前から聞きたかったんだけど、何で片瀬さんなわけ?私は遥と、あの複数教習で一緒に車を運転した時以外は、担当してもらう事はなかったけど、でも、片瀬さんの学科を聞いた時なんかは、話しの節々で、あ〜、この人、結構厳しそう、って思ってたのよね、私は。

だから片瀬さんの学科の時なんかは、睡魔に負けずに頑張って聞いとかないとっていう記憶が有るんだけど」


遥は黙って、絵里の話しを聞いていた。


「まぁ、この前の居酒屋さんで、片瀬さんの過去の話しを聞いたら、あ〜、だから他の指導員の人と少し口調がきつくなるのかな~、って言うのも分からなくもないけど。

あっ、そう言えば遥。この前、2段階の終わりの頃、技能教習で当たったって言ってよね。もしかして教習以外の話しで波長が合ったわけ~、片瀬さんと~」


話しの最後で絵里は、ニヤニヤして意地悪そうな表情を浮かべて、かまを掛けてきた。

その後、遥の右腕に「この、この~」と言って、人差指でツンツンと押してきた。 


遥は、絵里の攻撃に身をよじりながらも、スマホに文字を打ち込んだ。


『教習中は、そんな雑談なんてないわよ。有るとすれば信号待ちの時に、どういうふうに運転をすれば良いか、絵に描いて説明してくれた時ぐらいだったなぁ』


「ふーん、じゃあ何で片瀬さんなの?」


遥は絵里に、ちょっと待ってと言う仕草をしてから、昔の出来事を手繰り寄せる様に、素早く文字を入力していった。


『うーんとね、ほら以前、私達が教習所に通い始める3日前に、映画館もある大きなショッピングセンターが郊外に出来たでしょ』


「あー、あそこね」


『そこでウィンドウショッピングに行ったって言う話し、確か前にも話したと思うんだけど』


「うん、確かに聞いたかな」


『それで、オープンした初日に行ったんだけど、その時、私が色々な店を見ながら歩いていると、突然、外国人の年配の夫婦が、ここの場所に行きたいんだけどって言う感じで、私にショッピングセンターの案内図の紙を見せて来たの。それで、その指差している案内図を見て見るとね、あっ、ここはさっき私が買い物に立ち寄った画材道具の専門店だって思ったの。それで私がそのまま一緒に着いて行ってあげれば良かったんだけど、でも、声に出して説明出来ないし、スマホに英語の文章を咄嗟に打ち込めないし、どう伝えたら良いのか分からなくなって、結局一人で焦るいっぽうで・・・』


「でしょうね~、遥、直ぐ焦るし」


『でもね、そんな時、ある人が急に間に入ってくれて、流暢な英語でその人達と話しをしてくれたの』


「ふーん、じゃあ、その時遥は何してたの?」

 

少し首をすくめて恥ずかしそうな顔をしながら、遥は絵里の質問に答えた。


『私はその時、3人のやり取りをただ見ていただけで・・・』


「何となく想像がつくわ~」そう言って絵里は、コーヒーを口に含んだ。


『それから暫くして、その間に入って助けてくれた人と話しが通じたのか、その外国の人達は、私達にTHANK YOUと言って笑顔を見せてその画材屋さんの方へ歩いて行ったの』


「へぇー、助かったじゃない」


『うん。それで私も、あ~良かったってホッとしていると、その間に入って助けてくれた人は、笑顔で私にご苦労さんと一言言ってから、その場から立ち去って人混みの中に消えて行ってしまって』


「じゃあ、声が出せるようになったら、英語を勉強しないとね」


『私は英語が出来ると言う事よりも、間に入って助けるのって結構勇気がいる事だと思うの。中々そんな事って簡単に出来るもんじゃないじゃない』


「確かにそうよね~。もし私がその近くにいたとしても遥がどう対応するか、多分遠くの方へ離れて、ニヤニヤしながら見ているわね、きっと。自信が有る」


絵里は、自信有りげに一人で頷いた。


「もう~」と、遥は声には出さず笑顔で答えた。


『それでね、わぁ、こんな人がまだ世の中にいるんだなぁ、って感激して』


「それで?」


絵里は、その話しが片瀬さんと一体どう言う関係があるのよ?と言う意味を含めて遥に少し焦れったさを感じながら聞いた。


『それで、私達が教習所に通い出した初日に、受付のある2階のフロアーで片瀬さんとすれ違った時に、ほんとの一瞬だったけど私気付いたの。

あっ、この前私が困っていた時に、間に入って助けてくれた人だって。さすがにもう2度と会う事もないだろうって思っていたし、それに3日も前の事だったから、殆んど忘れ掛けた頃だったしね。でも、運命の出会いって有るものなのねー』

 

遥は右斜め45度の方を、特に何かを見ている風でもなく、しみじみとした表情で見つめていた。


「へぇー、それは、それは、一目惚れですか~。日本には、一億数千万人の人達が存在して、毎日、毎日色んな人とすれ違っている中でだよ、何でまた遥だけが、会ってみたいなぁ~と思う人と巡り逢うかな?もう何で、何で~」

 

絵里は、出来る事なら私もそんな出会いがしてみたいもんだわ、と言いたげな顔をして深い溜息を吐いた。


『でもね、絵里。考えてみて』

 

遥は、余り浮かない顔をして、絵里に話しを続けた。


『確かに片瀬さんと劇的な出会いをした時は、あっ、あの時の人だって正直胸がドキッとしたわ。でも、片瀬さん言ってたわよね。居酒屋さんでご飯を食べに行った時に。3年前に交通事故で彼女が亡くなったって。まだ3年よ、3年。ましてや彼女の事が嫌いで別れたとか、反対に、片瀬さんの事が嫌いで2人が別れた訳じゃないじゃない。と言う事は、片瀬さんの心の中には、彼女の存在がまだ今でも生きているって事よね』


「うーん、確かにそうかもしんない」と、絵里は頷くと更に話しを続けた。


「だって、前の仕事を辞めた理由もあれでしょ。彼女が亡くなったからでしょ。それで、2度とそう言った事が起きないように、今の教習所の指導員をしている訳なんだから、きっとそうだよ、やっぱり」

 

遥の考えに、絵里の確信をついた話しを聞いて、やっぱりそうなのかなぁと思い、遥は目を瞑って俯いた。


「遥」


絵里の呼び掛けに、遥は顔を上げた。


「人を好きになるって言う事は、すっ~~ごく良い事だと思うよ~。でもね、ただ、片瀬さんの場合は、片瀬さんだけじゃなくって、亡くなった人の存在も一緒に好きになってあげられるくらい遥が大人にならないとね」


勇気づけるつもりが、遥はますます落ち込み、猫みたいに背中が丸くなっていった。


その姿を目にした絵里は、これはまずいと思い、すかさずフォローを入れた。


「そうそう、この前私ね、子供の頃やっていた再放送の学園ドラマ見てたの。でね、そのドラマの中でこんなセリフがあったのを覚えてるんだけど、『人と言う字は、人と人とが支え合って生きているんです。人は1人では、生きてはいられないんです』って。だって人間ってそんなに強い生き物じゃないじゃない。だから遥は遥なりのやり方で、片瀬さんと上手い事やっていけば良いんじゃないの」

 

それから絵里は上半身を後ろに引いた形で目を細め、遥の身体をジ~~と見つめて、冗談を交えながら話しを続けた。


「ましてや遥はナイスボディだし、普段の清楚な感じの服装じゃなくて、ちょっとは露出度のある服なんか着てさ、『片瀬さ~~ん!!』って呼びながら会いに行けば、もう片瀬さんなんていちころよ」


遥は頬を赤く染めて、照れながら絵里の腕に体当たりをくらわした。

 

奏効している内に、学科試験の合格発表を写す電光掲示板に受験番号が写し出された。それまで合格発表を待っていた人達が一斉にその電光掲示板に集まり、自分達の番号を探し出すと、オオッーと言う何とも言えないどよめきが2階のフロアー全体に響き渡った。


「結果が出たみたい。見に行こう」と、絵里が遥に呼び掛けた。


2人は飲み掛けていたコーヒーを一気に飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てに行ってから、小走りで電光掲示板の方へ向かって行った。

その電光掲示板に向かっている間に、遥は少し前を行く絵里の後姿をチラッと見て、心の中で話し掛けた。


ありがとう、絵里。


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