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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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44話  亜季のもう1つの言葉

 ここに連れて来た昔の思い出を、亜季ちゃんに全てを話した。


「ふ~ん、そうだったんだ。確かにその話しをしてくれた時のお姉ちゃんの喜びようは、今でも忘れないわ。だって、普段は落ち着いてるのにその時は違ったもの」


「へぇ~、どんな感じだったのか見て見たかったなぁ」

 いつ飛んで来るのか分からない遠くの空を僕は見ながら、麻衣との思い出にひたっていた。


 それから暫くして僕は、彼女に聞こうか聞くまいか、考えていた事を我慢できずに素直に聞いてみた。

「ねぇ、亜季ちゃん」


「何?」

 風でなびく髪を手で押さえながら、彼女は答えた。


「本当は、昨日、何か聞いて欲しい事あって来たんじゃないの?」

 

 彼女は少し考えてから顔を上げ、微笑んで顔を僕に見せて口を開いた。


「さすが!!私の未来のお兄さんになるはずだっただけの事はあるわね」


 僕は彼女の挑発にはのらず、黙って次の言葉を待っていた。


「実は、おとつい交通事故で救急患者が運ばれて来たんだけど、私にもっと力があればあの人は死なずに済んだのにって・・・。先輩達からは、次から次へと患者が運ばれてくるんだから、あなたが悲しんでいてどうするの、って怒られて」


僕は、「うん」と黙って頷いた。


「仕事しだしてから、初めて目の前で亡くなった人を目の当たりにしたもんだから、つい・・・」


 僕は彼女をそっと抱き締めて、「良く頑張った、怖かったな」


 すると彼女は僕の胸の中で顔を埋めて、声を出して思わず泣きだした。

 そんな彼女の声をかき消すように、僕等の上空を旅客機が通過して行く。

 僕は、彼女が自然と泣きやむまで、いつまでも待っていた。


 どのくらいの時間が経過しただろう。それから暫くして、気持ちが落ち着いて泣きやんだ彼女は、僕から離れ、背を向けてから話し掛けてきた。


「あぁ~、もう最悪~。せっかくの化粧が台無しだわ」


「大丈夫だよ」と近づこうとする僕に彼女は、「あぁ~、こっち見ないで~」と言ってハンカチで涙を拭いていた。


 亜季ちゃんが落ち着くまで、僕は飛行機が飛んで来る方向の空をただ呆然と眺めていた。


「お待たせしました。さっきは取りみだしてどうもすみませんでした~」

 彼女は敬礼する仕草をして、笑顔で答えた。


 うん、いつもの亜季ちゃんだ。


「ねぇ、片瀬さん。私が昨日、片瀬さんの家に行った本当の理由はね・・・もう1つ・・・」


「ほらほら、亜季ちゃん、あそこ、あそこ、見てみなよ」

 彼女の話しを遮ってから数秒後に、ジェット機が僕達の頭上を轟音と共に通過して滑走路に降りたって行った。


「う~ん、いつ見ても迫力あるよなぁ。なあ、そう思わない?」

 そう聞いてみても、彼女からの返事が直ぐに返ってこなかったので、訝しく思った僕は、ふと彼女の方に目を向けた。

 あれ?どうしたんだろう。


「あっ、ごめん。今何か、喋ってたよね。何だったの?」


「もういい。私帰る」


「えっ、もう帰るの?何で、何怒ってるんだよ」


「鈍感、帰るわよ」


「こら、誰が鈍感だって」


「鈍感だから鈍感って言ったのよ」


 何なんだよ、一体。と思いつつ、先を行く彼女の後を追いかけて行った。

 それから僕は、亜季が勤めている大学病院まで車で送り届けたんだけれど、それまでの間、さっき彼女の見せた不機嫌な雰囲気はまるでなかったかの様に、時折笑顔を見せながら何気ない話しで盛り上がった。でも、あの時なぜ彼女が不機嫌になったのかについては、話してはくれなかった。


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