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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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40話  一生のお願い


「一生のお願いってなぁ、もうこんな所で使うのかよ」


「私の一生のお願いなんて、口癖みたいなものなんだから気にしないで」


 そんなんで良いのかよ。


「お姉ちゃんと片瀬さんって、大学時分に良くあっちこっちと出掛けてたんでしょ?」


「良く知ってるね」


「だって、色々話しを聞かされたもん。でね、お姉ちゃんと一緒に出掛けた場所で1番ここが思い出に残っているなって所を、私にも連れて行って欲しいなぁ~と思って」


「別に良いけど、明日、仕事は?」


「明日は、午後から夜勤なの。出来れば昼から夕方にかけてだったら嬉しいんですけど」

 亜季は、にこやかな笑顔で答えた。


「うん、良いよ。分かった」


「やった~、交渉成立」と言って、彼女は軽くガッツポーズした。


「それじゃあ、ぼちぼち帰りますか。突然お邪魔して、どうもすみませんでした」


 そう言って彼女は、飲み掛けていたオレンジジュースを、ゴクゴクと一気に飲み干してしまった。


「だったら、駅まで送って行くよ」


「それじゃあ、お言葉に甘えて護衛してもらおうかな」


「あ~、任しとけ。危なくなったら一目散で逃げるから」


「またまた~」

 亜季は、僕の肩を軽くはたいた。


 家から出て車で行こうとしたら、亜季に「歩いて行きたぁ~い」とせがまれ、駅までの道のりを歩いて行くことにした。


「車で行ったら、早いのに」


「ちょっとでも、お兄さんと居たいからでしょ」と、そう言って彼女は、悪戯っぽく微笑んだ。


 そんな亜季に僕は、「こらっ」と、右手を上げると、彼女は笑いながら僕の数歩先を駆け出していった。


「ねえねえ、片瀬さん。それでさっきの話しの続きなんですけど、どこに連れて行ってくれるの?」


「そうだな~、一番印象に残っている所だもんな」

 以前、麻衣と一緒にいた時の事を思い出そうと、ふいに立ち止まって、何となく夜空を見上げてみた。街灯や家の明かりによって、目を凝らして見ないと星の光が殆んど分からないくらいの星空だったけれど、その暗い夜空の中に、まるで針で刺したかのような微かな光を点滅させながらゆっくりと移動している飛行機が目に入った。

 

 あっ、そうか。あそこだ。


「良し、き~めた」


「えっ、どこどこ?」と目を輝かせながら、彼女が近付いて来たので、「う~ん、内緒」と、今度は僕の方が勝ち誇った感じで答えた。


「え~、そんなぁ。お兄さんの意地悪~」

 彼女も甘えた声で反論する。


「まぁ、強いて言えば、麻衣と最初で最後の場所っていった所かな」


「ふ~ん、最初で最後の場所ねぇ?」

 

 そう、最後の場所なんだ。


「ねえねえ、で、時間はいつにするの?」


「そうだなぁ、え~と~、じゃあ、昼の12時に待ち合わせって言うのは、どう?」


「うん、いいですよ。じゃあ、昼ご飯は片瀬さんのおごりと言う事で」と言う否や、僕の左腕に彼女が抱きついてきた。

 麻衣は、こんな事しなかったぞ。と思いつつも悪い気はしなかった。


「はいはい、分かった分かった。でもさすがだな」


「何が?」と、僕の方を見ながらきょとんとした顔をした。


「その台詞、麻衣も言ってたよ。さすが姉妹」


「そう、私はこの美貌で男を虜にするのよ」


「お前はルパン三世に出てくる峰 不二子か」

 彼女は、ヘヘッと笑顔で返した。


 そんな他愛もない話しをしながら歩いていると、いつの間にか駅の改札口まで辿り着いた。


「さあ、無事着きましたよ、お姫様」


 彼女は、警察官のように敬礼する仕草をしてみせた。


「お疲れ様であります」

 亜季も同じように敬礼した。


「気を付けて帰れよ」


 改札口を通り抜けながら、彼女は軽く右手を上げて、「は~い」と返事をした。

 

 僕は彼女が、そのまま振り向かずにプラットホームまで歩いて行くのだろうと思っていたのだけれど、改札口を通り過ぎた途端、クルッと僕の方にきびすを返し、回りの人達を気にする事無く大きな声で僕の名を叫んだ。


「ねぇ、片瀬さん!!」


 彼女の呼びかけに対して僕は声には出さず、何?といった表情をすると、彼女も僕を真似てか声には出さず、ゆっくり口だけを動かして、何かを伝えようと話し掛けているようだった。


「えっ、何?」と、聞き返してみたのだけれど、亜季は頬を赤色に染めてはにかみながら答えた。


「何でもないですよ~だ」


 そう言って彼女は、プラットホームに続く階段を小走りで駆けて行った。

 そんな彼女の後姿が見えなくなるのを見届けてから、僕もその場を後にした。


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