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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
136/136

136話  ただ、君だけをみつめて


マンションの一室にある畳の部屋で、「スゥ~スゥ~」と寝息をたてて寝ている赤ちゃんの顔を、僕と遥はベビーベッドの上から見つめていた。


「凄いよなぁ。この子なりに生きよう、生きようと呼吸しているね」


「そうよね~。悠、見て、このちっちゃい手」


「うん」


 そう言って頷いた僕は、人差し指で赤ちゃんの手を優しく触れると、赤ちゃんは、僕の人差し指を軽く握りかえした。


 それを見た僕と遥は、お互い目が合うと赤ちゃんを起こさない様に、ニコッと静かに微笑んだ。


 すると遥は、「あっ、そうた」と、思い出したかの様に、リビングの壁に掛けてある時計の方をチラッと覗きに行った。


「そろそろ、長谷川さん達が来る頃ね」


「うん、そうだね。でもなぁ、今、寝てる所だからなぁ。長谷川さんの声で起きないかなぁ」


「あり得るかも〜」と、遥は笑顔で答えた。


 そんな会話をしている矢先に、「ピンポーン、ピンポーン」と、マンションのロビーの入り口にあるインターホンから呼び鈴を鳴らす音が聞こえてきた。


「は~い」と言いながら、遥はオートロックを解除しに行った。


「賑やかなお兄ちゃん、お姉ちゃん達が来たよ~」


 僕は、赤ちゃんの頬っぺたをツンツンと押して話し掛けた。


「もぅ、今、スヤスヤ寝てるのに~」とでも言いたげな表情を浮かばせて、赤ちゃんは触った頬っぺたを軽くなでた。


「見てて飽きないなぁ」


 そう呟いた瞬間、突然、僕の目の前が急に真っ暗になった。誰かが僕の目を両手で目隠しをしているからだ。


 でも、この手の感触は、間違いなく女性の手だ。だとすると・・・。


 そう思った瞬間、僕の背後から、「だぁ~れだ!!」と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 さっきオートロックを解除しに行った、遥の声だ。


 目隠しされながら、「遥」と答えた。


 僕は、優しくその手を取り除き、後ろを振り返って見る。すると、僕の目と鼻の先には長谷川さんの顔がドアップで目に飛び込んできた。


「うわっ!!、ちかっ!!」と、余りの近さに驚いた僕は、50センチ以上は後ろにのけ反ったんじゃないだろうか?


「や~い、ひっかかった、ひっかかった~」


 それを見た相原は、「ゲラゲラ、ゲラゲラ」と体をくの字にしてお腹を抱え、目に涙を浮かべながら笑っていた。


 声は遥だけど、両目を覆い被せたのは相原で、近くに顔を近付けてきたのは言うまでも無く、長谷川さんだ。で、この悪事を思いついたのが、発案者である相原だった。


 3人を出迎える為、玄関先で遥は待っていた。なので玄関の呼び鈴を鳴らさずに、抜き足差し足で静かに玄関から入ってこれたのだ。


 たくぅ~、この2人は~。


 すると後ろで絵里ちゃんが声を掛けてきた。


「ご出産、おめでとうございます」


「あ、ありがとう」


 まだ動揺してる。


「うわぁ~、可愛い~」


「静かにしてよ~。私、寝ているんだから」という感じで赤ちゃんの顔はクシャとなった。


「所で赤ちゃんの名前は、何て言ううんですか?」


「うん、僕のゆうの字と、はるかの字を合わせて、優香」


「へぇ~、どう言う意味があるんですか?」


「誰にでも優しく接する事が出来る様にって言う意味を込めてね」


 そう言ってから僕達は、ベビーベッドで寝ている優香を見ていた。


 これから僕と遥で力を合わせて頑張るから・・・。だからね、麻衣。良き理解者として僕達の事を見守ってて。


 僕だとハラハラ、ドキドキするかもしれないけれど、僕なりに精一杯やってみるからさ。


 換気の為に開けていたリビングの窓から、心地良い風が吹き抜け、カーテンをなびかせていた。


 そんなリビングの壁には、遥が大学時代の卒業制作で描いた向日葵畑の油絵が飾られていた。


 そして、その油絵の右下部分には、小さい文字で花言葉が書かれていた。


 ただ、君だけを見つめて・・・と。



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