12話 お邪魔虫
この日もいつもと変わらず、昼の休憩時間にご飯を食べ終えてから、第一教室でまったりとした時間を過ごす事にした。
3人掛けの椅子を3つとも座れるように倒し、ベット代わりにして寝転がると、別に何かを考えている訳でもなく、ただ天井を見つめていた。
そこへ相原が、音も立てずに忍び足で知らず知らずの内に寝転んでいる僕の側まで近付いて来たかと思うと、いきなり「わあっ!!!!」と、大きな声で叫んできた。余りにも突然の出来事に、寝ころんでいた椅子から転げ落ちそうになった僕は、通常の4倍の速さと言っても過言ではないくらいに、心臓がドクドクドクドクッと、急にせわしく仕事を始めだした。
僕を驚かす事に成功した当の本人はと言うと、目に涙を浮ばせてお腹を抱えながら一人でケラケラ、ケラケラと大爆笑していた。
「もう、何だよ~、相原」
呆気にとられた僕は、何とか椅子からころげ落ちるのを免れた格好のまま、ようやくその言葉を口にした。
「別にこれと言って用事はないんですけどね~」
まだ笑ってる。
「そんなに涙流すほど面白いかよ」
「は、はい。何とも言えない片瀬さんの表情が面白くって」
最初に比べたら幾分笑いは収まったものの、それでも時おり相原は、さっきの出来事を思い出すのか、肩をヒクヒクさせてクックックッと、今にも吹き出して笑い出しそうな気持ちを押さえながら何とか話しを続けた。
「あっ、昨日、高野さんと遠藤さんが免許証を見せに来てくれましたよ」
「へぇー、そうなんだ」
「遠藤さんがね、せっかく片瀬さんに会いに来たのに居ないんですか、って残念がってましたよ。何でも昨日は、遠藤さんの誕生日なんですって」
7月7日って、麻衣と同じ日なんだ。
「免許証を見せに来たかったって言うのも有ったとは思うんですけど、それよりも本当は、どこかドライブとかご飯なんかを誘って欲しかったんじゃないんですかね~」
一瞬言おうか言うまいか悩んだけど、隠しても何だから正直にこの前の遠藤さんとのメールのやり取りについて相原に話しをきり出した。
「え~と~、その事何だけど。ほらこの前、相原がアドバイスしてくれた時あったろ。どこかドライブにでも誘ってみたらって」
「はい、言いましたね」
「それでこの前、遠藤さんに向日葵が一面見渡せる場所があるんだけど、どう?て言うメールを送っちゃてさぁ」
「で、返事は帰って来たんですか?」
相原は、前屈みになって話しの内容に食い入るように聞いてきた。
「うん、良いですよって」
「で、いつ行くんですか」
「7月の22、23、24、25とD班が夏休みだろ。日帰りして次の日が仕事と言うのもしんどいし。それだったら、その夏休みの最初の22日の日にでも行こうかなって考えてるんだけどね」
「良いですね~。じゃあ、その日にしましょう。その日に」
「えっ、あ、あ~」
まるで相原と行くような返事をするよなぁ。と思いつつも、それ以上深くは考えない事にした。
「所で誕生日プレゼントって、何かあげるんですか?」
「えっ?誕生日プレゼント?いやぁ~、考えてないけど」
「喜びますよ、あの子。ちなみに私は、片瀬さんの次の日の11月8日ですけどね。絶対に喜びますよ、私は」
「はいはい」と僕はぶっきらぼうに答えると、相原は「それじゃあ」と言ってそそくさと教室を後にした。
相原が去った教室に、また静けさがまい戻ると、僕は再び椅子の上に横たわり足を組んで落ち着きを取り戻した。
何しに来たんだろ、あいつ。
相原が教室から出ると、長谷川が教室の壁に背をもたれ掛け、両腕を組んで立っていた。
「どうやった?」と、相原に話し掛けた。
「ばっちり聞き出しましたよ、行く日を」
そう言って相原は、長谷川さんにピースサインをした。
「そっか、そっか。それはでかした。相原くん」
長谷川は、うちわで扇ぎながら満面な笑みを浮かべて答えた。
「はっ!恐れ入ります」
「じゃあ行く日は、ジュースでも飲みながらゆっくりと聞くとしようかなぁ~」
「ハッ!!ご馳走になります」
相原は軽く腰を曲げた後、先を行く長谷川のうしろを着いて行った。
ハッー、ハッハッハッハッーと、してやったりと言った2人の息の合った笑い声が、階段で2階に下りるまでの間ずっ~~と、響き渡っていた。




