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第8話

 二人が向かったのは警察庁から車で二十分の所にある東商店街。

 普段は大勢の人で賑わいを見せるはずの場所はテープで封鎖され、その周囲をテレビ局のクルーが囲んでいる。

 ここまでは事件が起きた際いつも見る光景だったが、マイクを突き付けて来るリポーターをかわして現場に入った恵一はそのあまりの異様さに息を飲んだ。


 一本の電柱。その十メートル程の位置に両足を切断された三十代程の女性の全裸で縛り付けられていたのだ。

 遺体はワイヤーのような物で括り付けられており、電柱はペンキを撒いたかのように赤く染められている。

 罪悪感や愛情を持っている尋常な人間の出来る所業とは思えない。

 市警の若い捜査官は、遺体の凄惨な状態に口元を押さえ、蹲っている者もいる。

 さすがに恵一も今回の状況には閉口してしまい、言葉もなかった。


「ひどい」


 涙を滲ませ、フェイトは遺体から目を背けている。

 遺体を直視出来ないのは、捜査官としては失格かもしれないが、恵一はまだ成人もしていない少女にそんな酷を強要出来る気分ではなかった。

 恵一も叶うなら目を逸らしたいし、今回の遺体の悲惨さは一生頭から離れないだろう。


「よう」


 普段と変わらぬ調子で、磯山が声を掛けて来た。

 さすがにベテランの刑事らしく、こうした凄惨な現場も見慣れているようで平然としている。


「で、この行動の意味は」


 磯山の問い掛けに、恵一は顎先を撫でながら遺体を見上げた。


「自信を付けて、警察へ挑戦してますね。事件をショーにしている。おまけに警察庁から車で二十分の距離なんて明らかな挑発です」

「なるほど。要するに舐めてるってわけか」

「発見されたのは?」


 恵一が視線を送ると、磯山は手帳を取り出した。


「お宅らに連絡した十分前。電柱に遺体が突然現れたんだと」

「多分光学魔法で遺体をカモフラージュしていたんでしょう。ある時間になったら解除される設定にしていたんです」


 恵一が推論を口にしつつ、電柱に近付いた。

 遺体から伝い落ちてきた血は湿り気はあまりなく、既に凝固している。


「血液は固まっていますから、多分磔にされたのは深夜でしょう」


 遺体を高所に縛り付ける。

 決して人の少ない通りではないはずだが、犯人は危険を貸してまでこの行為を行っているという事だ。

 当然魔導師であっても容易な事ではない。

 恵一が推理を構築しようとする中、そこに磯山の声が割り込んだ。


「そろそろ下ろしていいか? あのままにしとくのはなぁ」

「どうぞ、下ろしてください。この光景は、目に焼き付けましたから」

「よし分かった。下ろしていいぞ!!」


 磯山の指示で、遺体を下ろし終えると瞬く間に鑑識官が群がり、恵一もそれに混じって足の切断面を凝視した。

 傷口の断面は非常に鋭いため魔力刃による傷と考えられる。

 傷口には凝固した血液が多量にこびり付いているが、首元が切り裂かれている事から直接の死因は頸動脈切断による失血死のようだ。

 こちらの傷の付近にも凝固した血液がべったりと付いている。


「身体全体と切断面から魔力が検出されました」


 恵一が顔を上げると、一人の鑑識官が手を上げていた。

 彼の手には手のひらサイズの残留魔力測定機がある。

 恵一は鑑識官の隣に移動して、手元の測定器を覗き込んだ。


「それでどうなんですか」

「サンプルを持ってきて照合しました。簡易検査なので確実性は低いですが、先の二件と一致しました。より詳細な検査は検死の際に行いますが間違いないでしょう」

「同一犯って事か」


 恵一が振り返ると、磯山が背後に立っていた。

 思いがけず苦虫を噛み潰してしまったような、そんな表情をしている。


「あんたの推理だと血に思い入れがあるんだったな」


 捜査の初期に作られたプロファイリングが外れるのはそれほど珍しくない。情報を仕入れる度に修正していけばよい。

 プロファイリングは万能の超能力などではない。プロファイラーなら行動分析の有用性と同時にそれを心得ている。

 だがプロファイリングへの理解が薄ければそうはいかない。

 磯山は恵一への懐疑心を一気に強めている。

 これは磯山に非がある事ではない。

 むしろ彼はプロファイリングを好意的に見てくれていた。

 事件が連続している事で焦燥し、信頼が揺らいでいるのだろう。

 それを察したのか、現場から数歩離れていたフェイトが恵一と磯山の間に割って入る。


「足を切断して血を抜いたんじゃないですか」


 フェイトのフォローは嬉しかったが、恵一は首を横に振る。


「遺体をよく見て御覧」


 恵一の指示でフェイトは恐る恐る遺体を眺めた。


「血が抜け切ってない……ですね」


 今までの事件では血液は全て抜かれ、さらに遺体にも血痕は残っていなかった。

 だが今回は遺体に流血の痕が見られており、電信柱にも大量の血痕が付いている事から犯人は、被害者の血を抜き切らず、電信柱にワイヤーで縛った事になる。


「問題はこれを一人で出来るかでしょう」


 いくら魔導師でも今回の演出は、単独犯では容易でない。

 以前から恵一は、共犯者の可能性も視野に入れていた。

 今までの遺体の状態から見て、殺しているのは恐らく一人。

 そして彼に支配された軍隊経験があり、光学魔法が使える人間が遺体の処理を担当していたのではないか。

 恵一は現状持っている素材で、練り上がったプロファイリングを磯山に伝え始める。


「犯人は二人組か、それ以上」

「複数犯なのか?」


 恵一のプロファイリングに磯山は、素直な反応を見せる。

 どうやらまだある程度の信頼はしてくれるようだ。

 恵一はそのまま続けた。


「被害者を殺害したと言えるのは、支配者タイプの主犯格。そして彼に支配された人間が遺体の処理を行っている。遺体の遺棄には光学魔法が使われているから軍隊経験のある魔導師かもしれないな。となると魔導師が最低二人……かなり厄介だ」

「支配って洗脳でもされているのか?」

「そう言っていいでしょう。秩序型の犯人には、人を操る事に天才的な技能を発揮する者もいる。彼等もまたとても優れたプロファイラーなんです」


 磯山は、相槌を打ちながら頭を掻き毟った。


「そして部下が捕まってもトカゲのしっぽ切りか。賢いな」

「こういう犯人は、ある種のカリスマ性を持っているんです。取調べをする捜査官が犯人の魅力に取り込まれるというケースもありますから、今回の犯人もそれに近い物を持っているのかもしれない」


 恵一が過去の犯罪例を挙げると、磯山は深く溜息をついた。それから二人の間に沈黙が流れる中、口火を切ったのはフェイトだった。


「足は見つかっていますか?」

「付近を捜索したが見つからない。足が戦利品って事はないか」


 磯山の問いを受けて、恵一は顎に触れた。


「なんで戦利品が足に? 何の理由がある」


 恵一が思案する間に、鑑識官がフェイトに声を掛けた。


「リーンベイル捜査官」

「なんですか?」

「被害者の口内に免許証が」


 鑑識官は遺体の口を開いて血に塗れた免許証を取り出し、指で血を拭い取った。


「身元は分かりますか?」

「名前はリーア・カティス。三十五歳」

「血液型は?」

「免許証によれば……AB型です。詳細は検死に回した時に分かるでしょうが、公的な記録です。間違いはないでしょう」

「そんな……」


 被害者の唯一の接点と思われていた物が失われた。

 血液型の一致は単なる偶然だったのか?

 この事実に一番の落胆を覚えたのは恵一自身であった。


「残留魔力は同じ。血液型は偶然だったのか……」

「とにかく身元を調べたいから運んでいいか」

「何か分かれば知らせてください」


 磯山と別れた恵一とフェイトは、警察庁に戻る事にした。

 河内への報告も兼ねて、一旦頭の中身を整理したかったのだ。

 警察庁の正面入口前にある駐車場に車を止めて、恵一とフェイトは並んで入口まで歩いて行く。

 すると入口の前で警備の制服警官と年老いた女性が押し問答しているのが目に入った。

 その光景が気になって恵一は歩みを速めた。


「お願いします。娘も、娘も」

「いや、私には権限がなくて、担当者も今席を外しておりますので」


 困り顔の制服警官が恵一を見つけるや、助けを借りたいのだろう、懇願するような視線をぶつけて来た。

 恵一も写真と新聞の切り抜きを手にして、必死に食らい下がる老女の姿が印象的だったので、老女の元に駆け付けた。


「どうしました?」


 恵一が声を掛けると、老女は制服警官から離れ、恵一の傍に寄って来た。

 老女の行動を警戒してか、制服警官も近付こうとする。恵一は、笑顔を浮かべながら掌で彼を制止した。


「あなた刑事さん?」


 縋る声色の老女だが、普段は思慮深く慈愛に満ちた人柄なのだろうと確信させる耳心地の良い声をしている。

 恵一も出来得る限り穏やかな口調で、老女に声を掛けた。


「はい。魔法犯罪課の新巻警部補です。どうされました?」

「今起きている、あの連続殺人。血を抜かれて、男の人と女の子が殺されている。あの事件の担当刑事の人に会いたいんです」


 つまりこの老女は、恵一に会いたくて、わざわざ警察庁まで出向いてきたという事になる。

 本来この事件を担当しているのは、ミラード市警なのだが、テレビでは警察庁と魔法犯罪科の介入が大きく取沙汰されている。ここに来たのもそれが原因だろう。


「私がその事件を担当している刑事の一人です」

「まぁあなたが?」

「それでどのようなご用件で?」

「娘の事件を再捜査してほしいんです、この子、ほら」


 老女は、手に持っていた写真と新聞の切り抜きを恵一に手渡した。

 写真には三十代に見える女性と、雰囲気が若干異なる物の老女と思しき女性が並んで写っており、二人は笑顔を浮かべている。

 新聞の切り抜きの方は、殺人事件に関する記事で、そこには女性の顔写真が載っていた。


「十年前の事件。被害者はエミラ・クルト、三十四歳。死因は、頸動脈からの失血死」

「手口が同じでしょう。今起きている殺人事件と同じ」


 記事には森林の奥からエミラ・クルトと言う女性の遺体が発見されたと記載されている。

 エミラ・クルトの死因は、頸動脈を切断された事による失血死。

 さらに恵一の目を引いたのは、彼女が死後腕を切断されたらしく、遺体には両腕がなかったという記述だ。


「まだ未解決なんです。他にも同時期に起きた未解決事件を私調べたの」

「こんなに」


 恵一が老女から渡された新聞の切り抜きは実に十数枚に上った。

 事件が起きたのは全て違う土地でリアスサン全国に亘っている。

 いずれの事件も十年前から三年前までの範囲で起こっており、全ての事件の被害者は三十代の女性で、遺体の一部が切断されて紛失していた。


「全部未解決なの。私、遺族の方達に会いに行ったわ。みんな未だに苦しんでいる」


 恵一が記事を読んでいると、後ろから眺めていたフェイトが声を上げた。


「まるで人体収集してるみたい」


 フェイトの発言に恵一は、思いがけず振り返った。

 突然の行動に恵一を驚き見るフェイトだったが、そんな事はお構いなしに、恵一は笑みを浮かべた。


「そうか。そうなんだ。そういう事か」


 一人で盛り上がる恵一を尻目に、フェイトは呆気に取られている。

 老女もおずおずと声を掛けて来た。


「あの……お願いします。再捜査を」

「分かりました。再捜査します」


 恵一が告げると老女は、晴天みたいな笑顔を見せた。


「本当ですか!?」

「ええ。それにあなたのお陰で点が線で繋がりました」


 恵一の感謝の意図を理解出来ないのか老女は、首を傾げた。

 恵一は、子供の様に生き生きとした表情でフェイトを手招きした。


「行こう巡査。クルトさんありがとうございます。君、彼女を誰かに送らせて」

「は、はぁ」


 警官は戸惑いの声を上げたが、恵一からして見れば、それに見合う働きをあの老女はしてくれたのだ。

 自宅まで送るぐらいやらなければ申し訳が立たない。

 そして魔法犯罪課のオフィスに戻る否や、恵一は歓喜に震えながら言った。


「巡査やっと分かったよ!」

「何が、ですか?」


 困惑の色を強めるフェイトに恵一は焦れたような声を出す。


「君が言ったじゃないか!」

「私、何を言いました?」


 フェイトは、泣きそうな顔をしている。

 どうやら恵一の怒りを買ったと思い込んでいるらしい。

 実際には事件の糸口を教えてくれた事に感謝しているのだが、彼女がそれを知る由もない。


「さっき言ったろ。あのお婆さんに。記事を見て」

「人体収集?」


 ようやく正解に辿り着いたフェイトの目の前に恵一は、人差し指を突き付けた。


「正解!! この新聞記事。取られたパーツは、眼と耳と唇とか、それに手だ。今回の事件は血液と両足」


 フェイトも合点が行ったのか、手を叩いた。


「そっか、犯人は」

「そう、犯人の狙いは」


 恵一の笑みがより一層強くなる。


「人間一人分のパーツを集める事」


 恵一は、自分のデスクに新聞の切り抜きを置き、今捜査している殺人事件の資料を広げた。


「被害者はトーマス・キンバリーを除いてすべて女性だ。そして女性達の年齢も血液を取られたユーリ・ランド以外は、三十代で統一されている。それと被害者は全員容姿が似ている。みんなスマートな美人だ。犯人にとって理想のパーツを持つ女性が被害者になっている」

「でも男性の被害者は?」

「彼が盗られたのは血液だ。容姿には関係ない。だけど何らかの問題が生じて血液がダメになったのかもしれない。そして同じ血液型の女性を殺した」

「じゃあもしかして犯人は」

「君の想像通りだ」


 恵一は、資料を見つめながら先程までとは一転して、犯人への強い嫌悪感を滲ませた。


「自分が完璧と思う人間を作るまで殺人をやめない」


 そう言いながら恵一は、自分のデスクの椅子に座って顎を撫で始めた。


「足りないパーツは、これを見るに腎臓、肝臓、脾臓以外の臓器。頭部さえ、眼や耳なんか細かく分けてパーツを取っているから、それ以外にもたくさんある。まだ全然揃ってないよ」

「何人が犠牲になるか見当も付きませんよ」


 フェイトの言うようにこの犯人は、基本的に一人から一つのパーツしか盗まないらしい。

 一刻も早く逮捕しなければ、確実に犠牲者数は、警察庁創立以来前代未聞のレベルに膨れ上がるだろう。


「類似の事件を探そう。死因は頸動脈切断による失血死。遺体の部位が欠損していた事件だ」

「はい」


 恵一とフェイトは、その足で資料室へ向かい、アリナに類似した事件記録の検索を頼んだ。

 ところが彼女から返って来たのは信じがたい答えだった。


「ないね」


 アリナは、両手を上げて溜息をつく。

 予想だにしない現実を受け入れられずに、恵一が受付カウンターを激しく叩いた。


「そんな馬鹿な事が!! 紙の資料がないまではまだ分かるけど、デジタルデータまでないわけが!」


 恵一は、思わず声を荒げてしまった。

 今までアリナにこんな態度を取った事はない。

 アリナも今まで経験した事のない恵一の怒号に驚いたらしく、俯いてしゃくりを上げながら涙を堪えている。


「ない物は……ないもん」


 見兼ねたフェイトがアリナの肩をそっと撫でる。

 熱気が冷めて来た恵一は、友人に八つ当たりをした自分が恥ずかしくなり、アリナから視線を逸らした。


「ごめん。怒鳴って」


 アリナは、眼鏡を外して涙を拭うと笑顔を浮かべた。


「ううん。びっくりしただけ」


 気にしないで――

 そんな風にアリナが心中で言っているように思えた。

 無言で頷き、恵一は床に腰を落とした。


「類似した事件が無いのはともかく、どうしてこの記事の事件まで資料が無いんだ」


 類似した事件記録がない以上に問題なのは、エミナ・クルト始め、他の被害者達の事件資料が存在していない事だった。

 警察庁が扱った全事件が保管されているのが資料室。

 十年前から起きている事件なら、確実に捜査資料が存在しているはずだ。

 だが捜査資料の一切が存在していない。

 アリナは眉間にしわを寄せながら眼鏡のつるを咥えた。


「分からない。今まで起きた全ての事件記録が登録されているはずだけど。昔の事件だと穴抜けもあるし。稀だけど事件記録が無くなる場合もある」

「でもアリナ」

「稀、だね」


 事件記録がひとりでに歩いて無くなるという事はあり得ない。

 考え得る可能性はただ一つ。


「誰かが意図的に資料を持ち出した」


 恵一が言うと同時に、恵一とフェイトの視線がアリナに注がれた。


「私!? 私じゃないって。なんで私がそげん事するの」

「金に目が眩んで」


 冗談めいた口調で恵一が疑惑の眼差しを向けると、アリナは顔の前で激しく手を左右に振った。


「しないって。資料室に入れるの私だけじゃないし。それにデジタルデータなんて。私パソコン苦手だもん。金に目が眩んだ人は居たのかもだけどね」


 アリナの言うように、資料室に入れるのは彼女だけではない。

 多くの捜査官が出入りしている為、庁内どころか警察関係者全員が容疑者となり得る。

 さらに犯人からの賄賂によって資料を持ち出した警察官が居ないとも限らない。


「警察官を買収出来る財力か、権力の持ち主か、あるいは」


 恵一がさらなる可能性の提示をしようとした時、フェイトがはつらつとした声で割り込んで来た。


「わかりました先輩。犯人は貧乏な警官をお金で釣るお金持ちですね」


 的を外していない物の、どこかピントのずれたフェイトの推理に、資料室の空気が若干和んだ。

 けれどもフェイトは、場の雰囲気に耐え兼ねたのか、顔を真っ赤に染めて俯いた。


「ないですね。すいません」

「いやいや、僕の予想は、内部に協力者が居るかもしれないって所」


 恵一も疑いたくはなかったが、この状況を見るに内部犯の可能性が濃厚であった。

 警察庁や資料室には大量の防犯カメラが設置されている。

 警察内部に入り込んで大量の資料を持ち出すというのは、現職の警察官以外では不可能に近い行為だ。


「内部って、先輩」


 フェイトは、恵一の提示した可能性に同意しかねている様子である。

 その予想は本当なのか?

 そう確かめるようなフェイトの視線に恵一は頷いた。


「警察内部に犯人の協力者が居ると考えていいかもしれない」


 もしそうなら事態は深刻だ。

 犯人側にこちらの捜査状況が筒抜けになっている可能性も考慮しなければならない。

 だがこれは同時に事態を好転させる鍵にもなり得た。

 内部犯の有無を確かめ、さらに特定して事情を聴き出せれば、犯人に近付くチャンスともなる。


「警察に協力者がいるとして、関係は友人か家族」


 恵一は持論を述べながらフェイトとアリナに尋ねるような視線を交互に向ける。

 それを受けてフェイトは手帳を取り出した。


「二人の家族構成は調べましたが、警察官は居ないです。とすると友人か恋人でしょうけど、交友関係を洗った時にも、何も出ませんでした」


 犯人と内部犯には一切の繋がりが認められない。

 相手がそこまで甘くない事は重々承知していたが、恵一は頭を掻きながら息をついた。


「どうにか糸口を掴めないかな」


 打開策を考えようとした矢先、恵一の携帯電話の着信音が響いた。

 恵一は携帯電話を取り出すと耳に当てる。


「もしもし。磯山さん。え……」


 電話口の磯山から告げられた内容に恵一の意識は凍り付いた。


「どうかしました?」


 フェイトが恵一の急変した態度を心配したのか、声を掛けて来る。

 恵一は携帯電話を切ってフェイトに向き直った。


「さっきの遺体から指紋が出て、ウォーマン医師と一致した」

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