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第14話

 フェイトの自宅から車で三時間程、首都のはずれの路地裏に位置する古びた図書館。

恵一が警察にない古い資料を探す時に使う場所だ。

 古びたレンガの外観とは異なり、内装は掃除が行き届いており、清潔な印象を受ける。

 受付のカウンターには、マジックウッドの鉢が一つだけ置かれており、アリナの資料室とは違い、悪臭ではなく仄かな心地よい香りが鼻を撫でる。

 書棚に入れられた本も古い物から最新の物まで、きちんとラインナップは揃っていて、何より早朝であるのも手伝って人の影は全くない。

 恵一とフェイトは、受付カウンター近くのテーブルに付き、十年前から現在までライリー・カーマインが関わったと思われる事件記事の載った新聞を見ていた。


「やっぱりここまでは手が回らないか」

「やっぱりって、ここならあると?」

「うん。大手の図書館なら回収してるかもしれないけどここは知る人ぞ知る場所だから」


 恵一は、誰も居ない受付カウンターを指差した。

 ここの司書は、人が殆ど来ないせいか開館したらすぐにコーヒーを飲みに行ってしまう。

 そのまま昼食まで済ませて来るので帰ってくるのはいつも昼過ぎだ。


「落ちついて調べものが出来るからお気に入りなんだ」


 口を動かしながら恵一は、新聞に目を通し続けている。

 ライリー・カーマインが関与したと思われる事件記事は、恵一が既に入手した事件記録を外しても実に二十を超える。

 遺体が見つからず記事になっていない物を考慮するともっとあるだろう。


「これは予想だけど」

「何か分かりましたか?」

「もう人一人分のパーツが揃っていてもおかしくないと思うよ」


 複数の事件記事を見た恵一は、既にライリー・カーマインが遺体の収集を終えていると結論付けた。

 そしてもう一つ検証すべき事。

 ライリーの転勤場所と事件の場所、その時期が一致するかどうかである。

 フェイトは、河内から受け取った資料を机に広げた。


「あとは、これがライリーの転勤場所と合うかですね」

「だね」


 数十件に及ぶ事件記事とライリーの転勤先の情報。

 ライリーは、ルーカル、ボリンスキー、カトワーラ等々大きな都市を三十二回も転勤している。

 そして未解決事件の記事に書かれている発生場所とライリーの転勤場所。

 それに事件の発生時期とライリーがその都市に住んでいた時期を照らし合わせてみると――


「一致するね。一件残らず全て」


 場所と事件の発生時期。

 そして事件が起きた当時の街にライリーが居た記録。

 これらが全て重なるというのは偶然ではありえない。

 しかしこの検証は、あくまでも直接証拠にはなりえない物だ。

 裁判でも腕のいい弁護士が付けば、いくらでも言い逃れ出来てしまう。

 この状態では検察も起訴を渋るだろう事は想像に容易かったし、何より恵一の無実を晴らす手掛かりにもならない。

 とは言え、恵一とフェイトの推理を裏付けするには、十分な証拠である。


「これからどうします?」

「遺体を使って母親を再現するつもりなら、隠し場所があるはずだ」

「そこを探すんですか?」

「同時にそれは犯行場所でもあるはず。今のところ被害者は、全て発見場所とは違う場所で殺害されている。人目に付かなくて安全な場所」

「自宅はどうでしょうか?」


 考える素振りすら見せずに、恵一は、これを否定した。


「危険度が高いな。人が来た時、遺体を見られる可能性がある。もしくは警察に目を付けられたら真っ先に見られてしまう場所だし、僕ならそこには保存しない。普段人が行かない様な場所がベストだよ」


 一昨日、ライリーの罠で彼の家に突入した際もそうだ。

 もしも遺体を自宅に隠しているなら強引に恵一達が調べられたら、遺体が見つかる恐れがある。

 そんな愚行をするような男に、ライリーは見えない。


「確かにそうですね。ライリーは十年以上に亘って犯行を続けている。それだけ長期間保存出来る場所――」

「遺体を保存するなら電源が必要だね。彼は属性魔法が使えないって資料にあった。氷属性の魔法が使えないなら巨大な冷凍庫が必要だ」

「つまり電源があって人が来ない場所」


 フェイトは、腕を組んで唸なっていた。

 眉間にしわを寄せ、渋い表情をしているのに愛らしさを感じさせるのだから相当に可憐な容姿である。

 などと再確認をしつつ、暫し可愛い後輩を眺めてから恵一は、にんまりと口元を上げた。


「ある。そういう場所が」

「え、なんですか?」


 フェイトが身を乗り出すと、得意げに恵一は言った。


「別荘さ。官房長のね」

「リリー・エヴァンですか?」

「ライリーと官房長の関係と彼女の僕たち障害への対応を考えれば、遺体の隠し場所や殺害場所の提供も厭わないだろう」

「そうか。先輩や私を殺そうとしたのはエヴァン官房長だった。ラルフ長官以上に積極的に犯行にかかわっている可能性も高いですね」

「別荘は人里離れている場合、食料の確保が面倒だからね。大きい冷蔵庫もあるはずだ。そもそも遺体保存用に色々と改装している可能性もある。そしてそこは多分ライリーが母親と過ごした事のある思い出の場所」


 ライリーの母親への執着は異常だ。

 きっと彼が母親のパーツを保存するなら、母親との最も楽しい思い出がある場所を選ぶのではないか。

 そんなプロファイリングから導き出した恵一の予測に、合点が行ったのか。

 フェイトは手を叩いて感嘆の声を上げた。


「そっか!! それなら納得行きますね。じゃあどうします?」

「課長に官房長名義で所有している物件について調べてもらおう。母親と行ってるなら官房長が出世する前だから、昔に小さい別荘を無理して買ったか、借りたか。とにかく急がないと」

「私、電話します」

「お願い。僕は、病院にライリーが出勤しているかを聞く」


 フェイトが席を立つのを見送ってから恵一は、リアスサン総合病院に電話を掛けた。


「すいません。ライリー・カーマイン先生はいらっしゃいますか?」


 恵一の質問に答えたのは、女性の声だった。


「本日は休暇を取られています。誠に申し訳ありません」

「ありがとうございます。それでは」


 休暇を取っているという事は、ライリーが別荘に行く可能性が高い。

 恵一が電話を切るとフェイトも河内への報告が終わったのか、テーブルに戻ってきた。


「今課長に聞いたら調べてくれるって言ってました」

「ありがとうフェイト。ライリーは今日休暇を取ったそうだ。遺体は集め終わっている可能性が高い。だったら残るのは……とにかく止めよう」

「はい」


 恵一とフェイトが図書館から出ようとした時、二人の視界に入口のドアを破ってなだれ込んでくる黒い集団の姿が映った。

 恵一が目を凝らすと彼等は、黒い戦闘服に身を包んで短機関銃で武装している。

 それがラルフ長官の差し向けた特殊部隊である事を恵一は即座に理解した。

 フェイトの身体を抱き、受付カウンターに飛び込むと、身体を丸めて姿勢を低くする。

 同時に無数の破裂音が響き、恵一の身体に大量の木片が降り注いだ。

 恵一は、フェイトの身体を覆い隠す様に抱き締め、自分の身体を降り止まぬ木片を防ぐ盾にする。


「こんなに早く……」

「どうしよう先輩!!」


 胸の中で泣き出しそうな声を上げるフェイトを恵一は、より強く抱き締めた。


「大丈夫! 絶対守るから!」


 恵一は、懐に手を入れ、魔法銃を取り出す。

 本来仲間である彼等に銃を向けるのは、気が引けたが、ラルフの指示を受けて動いている彼等に犯罪者と思われている恵一からの説得は無意味。

 殺さない程度に相手を倒していくしかない。

 恵一は、カウンターに身を隠したまま、銃だけ出して適当な位置に射撃する。

 とりあえずこちらも銃を持っているのだと、威嚇する意味が強かったが相手の銃声が止む事はない。

 このままではじり貧。何か策を弄せないかと恵一が脳をフル回転させていると、


「撃ち方やめ!」


 突如野太い男性の声が上がり、一斉に銃声が止んだ。


「君達を殺したいわけじゃない。投降すれば命は奪わない」


 この人数相手に戦うのは無謀かもしれない。

 それでもライリーが成そうとしている事を止める義務が恵一にはあるのだ。

 だがその義務にフェイトを巻き込む権利は、存在しない。


「すまないが飲めない! ただフェイトは逃がしてやってほしい! 彼女は関係ないんだ!」

「先輩。私も先輩の要求は飲めません」


 恵一の胸の中でフェイトは、何かを決意した表情でホルスターから銃を抜いた。

 何を意味するか分からないわけがない。

 けれど彼女の決断を許容する事が恵一には出来なかった。


「もうここまでだ。約束したろう? 危なくなったら逃げるって」

「何で逃げないといけないんですか?」

「君を危険に巻き込むわけには」

「恵一先輩は、何時になったら私をパートナーと認めてくれるんですか? いつなったら相棒と認めてくれるんですか!?」


 初めて聞くフェイトの怒号だった。想定していなかった訳ではない。

 一筋縄で納得してくれない事は、分かっていたがそれでもここまで怒るというのは、想像の範疇を超えていた。


「付き合いは短いかも知れないけど私は、先輩の事が大好きです! 人としても刑事としてもパートナーとしても!! 大好きで大好きでたまらない人を危ない場所に置いていけると思いますか!?」

「フェイト……」

「絶対に守るって言ってくれてうれしかった。でもね、私もあなたを守りたいんだよ? 私は逃げない。あなたのパートナーだから、守られるばっかりで終わりたくなんかない」


 フェイトの気持ちを受け止めてやりたい。でも恵一もフェイトの事が大好きだ。だからこそもう大好きな人の傷付く姿なんか見たくなかった。


「フェイト、気持ちは嬉しいけど」

「嬉しいけど何?」

「僕は、君の傷付く姿を見たくない」

「先輩。初めて名前を呼んでくれた時、言ってくれたよね。僕を信じてって。私にあなたを信じさせておいて、なのにあなたは、私の事は信じてくれないの?」

「そういうわけじゃ」

「それに――」


 フェイトは魔法銃を抜いてカウンターから上半身を出し、一発発砲してすぐに姿勢をかがめた。


「これで共犯者ですね。先輩」


 恵一は、自嘲の笑みを浮かべる。

 確かに恵一は、フェイトの事を守るべき後輩としか考えていなかった。

 不慣れな事ばかりなのだから助けてあげないと何も出来ないと。

 そんな自分の勝手な思い込みが今は、恥ずかしくてしょうがない。

 フェイト・リーンベイルの事を信じよう。

 そして相棒と認めよう。

 恵一は、左手を懐に入れて魔法弾のケースを取り出すと緑色に光る魔法弾を六発掴んでフェイトに差し出した。


「これを使って」

「これは?」

「風の魔法弾。衝撃力だけ強めた僕の特注品。直撃しても死にはしない」

「先輩……」

「頼むよ、相棒」

「はい!!」


 フェイトは、笑顔で頷くと風魔弾を受け取って自身の魔法銃に装填した。


「援護する」


 恵一は、氷結弾を再装填して、隊員の頭上に二発撃ち放つ。

 着弾点である天井から氷塊が広がり、一瞬ではあるが隊員達の気を逸らせるのに成功した。

 それを合図にフェイトが上半身だけ出して、視界に入った特殊部隊の隊員二名に目掛けて風魔弾を発砲した。

 着弾と同時に隊員二名の身体は大きく後方に吹き飛び、壁に叩き付けられる。

 二名の隊員は、腹や背中を押さえながら呻き声を上げている。

 恵一が顔を出して相手の数を確かめるとまだ十人以上。

 風魔弾は、フェイトの持っている四発しか残りはない。

 通常弾や魔法弾を足したとしても、残弾はせいぜい二十発程度。

 とてもではないが、十人以上を相手にするのに十分とは言えない。


「数が多すぎます! すごい魔法弾的なの調合してないんですか!?」


 フェイトに言われて恵一は、ケースの中身の弾を確認したが生憎とそんな都合のいい弾はない。


「なくはないけど彼等を殺すわけにはいかない。実弾は怪我させるから威嚇以外に使えないし武器がない」

「そんな」

「ここまでか……なんて映画みたいな台詞を言う日が来るなんてね」

「かっこつけてる場合ですか?」

「いや。でもどうしようか」


 この状況を打開出来るカードは手札にない。

 特殊部隊の放つ銃弾が隠れているのもお構いなしにカウンターに撃ち込まれ続けている。

 なのにどこか現状を楽しんでいる恵一が居た。フェイトも苦笑の中に少々嬉々とした色が混じっている。

 この相棒とならどのような状況に置かれても悔いはない。

 互いにそう思い合っているからこそ出来る二人の表情だった。


「恵一!!」


 特殊部隊の銃声に紛れて聞き馴染んだ声に呼ばれる。

 それと共に重い銃声が轟き、特殊部隊員たちの悲鳴が上がった。

 恵一がカウンターから身を乗り出して周囲を警戒すると、


「無事か!?」


 同僚のジャック・スミスが魔法犯罪課の職員六名を引き連れて魔法銃を構えていた。

 図書館の入り口付近にはうめき声を上げて倒れている特殊部隊の姿がある。

 ジャックたちは特殊部隊とは反対側の裏口から図書館に入ってきたようで、魔法銃を構えたまま特殊部隊に近付き手錠をかけていく。

 思いもよらぬ人物の登場にさすがの恵一も度肝を抜かれ、並行していた。


「ジャック!? どうしてここに?」

「課長の命令だ。ラルフ長官の命令で特殊部隊が動いてるってな」


 ジャックが入口から顔を出し、外を確認すると左右から特殊部隊がそれぞれ5名ずつ図書館を目指して駆けて来ている。


「よく聞け恵一。俺達は連中をここで足止めする。裏手に車があるから――」


 言いながらジャックが恵一に鍵を投げ渡した。


「それを使ってライリーを追え」


 たった七名で特殊部隊の相手をする。その提案はあまりに危険すぎるものだった。

 しかし迷っている時間はない。即断しなければ全員が犠牲になるだけだ。

 ライリーの犯行を証明し、ラルフの関与を裏付けなければこの場に居る全員が犯罪者。

 まともな裁判も受けられずに口封じをされるだろう。

 ここで迷い、ジャックの提案に異論をはさむ事こそがこの場で一番の愚行だ。


「今度酒奢る」

「そういう縁起でもねぇ台詞吐くな。俺みたいな役は映画じゃ大抵死ぬだろ」

「お前は映画に出られる面してないだろ」

「うるせー。早く行け」

「ああ。あとでな」

「おう」


 死ぬなよとは言わない。

 別れも言わない。

 ジャック達とはきっとまた会えるはずだから。

 恵一がフェイトを連れて図書館の裏口から外に出るとそこは幅六メートル程度の通りだった。

 人の気配はなく、恵一が視線を左右に振ると通りの左手に乗用車二台が駐車してある。

 恵一がキーレスキーのボタンを押し、ロックの外れた車にフェイトと乗り込むと同時に銃声の応酬が車内まで反響してくる。


「先輩」


 不安げに声を上げるパートナーに恵一は無理矢理に笑みを作り出し、エンジンをかけた。


「みんななら大丈夫だよ」


 自分にも言い聞かせるようにしてアクセルを踏み込んだ。


「これからどうします?」


 そんな意図を汲んでくれたのか、フェイトが指示を仰いでくる。


「課長から連絡は?」


 恵一が聞くと同時に着信音が鳴り、


「噂をすれば、ですね」


 フェイトは、携帯を耳に当てた。


「はい、フェイトです。はい、分かりました。私達も向かいます。課長も気を付けて」


 簡単なやり取りだけで電話を終えると、フェイトは恵一に視線を送った。


「場所分かりました。えっとここが図書館の近くだとして、北に三時間程、ユーリーンの別荘地にラルフ長官所有の別荘があるそうです。購入はもう何十年も前だとか」


 ユーリーンは、首都ドラゴニアに程近い観光地で、風光明媚な美しい自然が残る土地だ。

 そのため一般家庭や別荘を借りたり、富裕層が別荘を建てる人気の土地でもある。


「そこに行こう。ライリーと被害者の遺体、どちらも今そこに居るんだ」


 恵一は、フェイトから聞いた別荘地に向かって車を走らせた。

 二時間もすると窓から見える風景は、都会のそれと異なっており、広がるのは見渡す限りの草原と作物を植えられた畑である。

 事件の捜査でなければ心の和む牧歌的な光景だが、ライリー・カーマインが別荘で何をしているかを考え始めると募るのは焦燥ばかりだ。


「フェイト少し飛ばすよ」

「はい」


 恵一は、より強くアクセルを踏み込む。周りには車や人影はなく多少速度を出しても安全であろう、そんな事を考えていると突如フロントガラスにひびが入った。


「なんだ!?」

「先輩!!」


 フェイトの悲鳴に恵一は後ろを振り返って見やる。

 すると後方から黒塗りのSUVが三台並んで恵一達を追いかけて来ていた。

 見覚えのある外観に恵一は、警察特殊部隊の使っている車両だという事に気が付く。


「どうしてここが!? まさかジャックさんたち」

「いやこのスピードで飛ばしているのにそう簡単に追いつけるとは思えない。恐らくは別働隊だ」

「どうしてここが?」

「課長がラルフ長官の特殊部隊の動きにそうしたように長官もこっちの動きを読んでるのさ。確かに僕でもバックアッププランとして別働隊を送る」


 ラルフ・カートマンも、伊達に現場から警察庁長官まで上り詰めた男ではないという事だ。ライリーを逮捕しようと画策している恵一達の動きを完全に読み、手を打っている。

 何よりの問題は、向こうが特殊な改造のされたSUV。対するこちらは警察所有の覆面パトカーとは言え、ただの乗用車である事。

 機動性と馬力は、圧倒的にあちらが上。ここまで距離を詰められたら追い付かれるのも時間の問題だ。


「フェイト、撃ち返して!」

「了解」


 フェイトは、手回しハンドルを回して窓を開けると、上半身を外に出して狙いを定める。


「タイヤを狙って」


 フェイトが発砲した弾丸は一直線に飛翔し、真ん中を走るSUVのタイヤを捉えたが、弾は火花を散らして弾かれてしまった。


「防弾タイヤです!」


 足回りを撃って止める事は不可能。

 こうなると怪我人を出す覚悟で車体そのものを破壊して足止めするしかない。


「ハンドル変わって」

「ちょ、ちょっと先輩!」


 慌ててハンドルを持つフェイトを余所に恵一は、足だけ車内に残した状態で、ガラスのない窓枠に腰掛け、身体全体を車外に出した。

 狙うのは真ん中を走る車両。

 恵一は魔法銃に白く輝く魔法弾を装填して構えた。

 ストライクバレット。対物破壊用の魔法弾で特別の許可を得て、恵一が個人的に製造したものだ。

 危険故に許可を得ても気軽に製造出来るものではなく弾は一発。外す事は出来ない。

 指先からじっとりと汗が滲み出す。

 射撃に関しては困難な状況程、恵一は楽しんでしまう傾向にあった。

 今や車間距離は十メートルまで詰まっているが、それに焦りを覚える事はない。


「行け!」


 力強く囁くと恵一は引き金を絞った。

 放たれたストライクバレットは、一切のブレもなく真ん中を走るSUVに着弾する。

 その瞬間白銀の閃光に車体が包まれたかと思うと、SUVの車体をスポンジのように軽々跳ね上げた。

 当然重力に抗う事は出来ず、落下するSUVの車体は並走している二台のSUVのボンネットを打ち付ける。

 金属が擦り合い、軋む音が周囲一帯を覆う様に支配し、三台ともが動きを止めた。


「すごい威力。さっきもこれ使えばよかったんじゃ」


 フェイトの質問に恵一は、困り顔になった。


「生身相手にこれ使ったら死んじゃうよ」

「結局使ってるじゃないですか?」

「魔法戦を想定したあの車体に守られてるから」


 まぁ死ぬ様な事はないだろう、と自分に言い聞かせながら恵一は、車内に戻ってフェイトとハンドルを代わり、アクセルを先程よりも強く踏んだ。

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