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どれほどの時間回想に耽っていたのか分からないが、 籠の中で眠る赤子が少し身動ぎしたことで、はっと現実に意識が戻された。
目の前にいるこの子が僕の子どもで、リーシェという名前らしい。よく見ると白い肌にくっきりした目鼻立ち。そしてうっすらと黒髪が生えていることがわかる。
そう、僕と同じ黒髪だ。
この国で黒髪は非常に稀である。僕自身、黒髪を持つことで好奇の目に晒されたり、しなくていい苦労を経験した。少なくとも僕が生きてきた二十五年の間で、僕の他に黒髪を持つ人間は存在しなかったはずだ。
髪色は遺伝性の特徴なので、子どもは親が持つ色を受け継ぐことが多い。偶に隔世遺伝や突然変異などで両親とは違う色が出ることもあるが、大体は親戚や先祖に同じ色を持つ人がいるはずなのだ。
つまり、この子が僕の子どもである確率は非常に高い。或いは近い親戚であることはほぼ間違いないだろう。
そして目の色は自分の魔力と相性の良い精霊の特徴が現れる。火なら赤、水なら青、風なら灰、木なら緑、光は黄、闇は黒、そして月は金色だ。
魔力測定器の水晶に映し出される映像が太陽であれば光属性だが、僕の触れた水晶には月の映像が浮かんだので、そのまま月属性となった。
それまでは少し明るい黄色だと認識されていた僕の目は、月の光に似た金色であると判明したのだ。
これでもしリーシェの目が金色だった場合、ほぼ完璧にこの子は僕の娘ということになる。
厄介だ。とてつもなく。
というか、いや、まず母親は誰だ。
父親は絶対ないけれども何かの間違いで僕だったとして、母親は誰なんだ。去年一瞬だけ付き合っていたアリス?いや、アリスが母親ならあいつが黙っていないはず。しかし他に思い当たる人物はいない。普段から一日中家に篭って実験している僕と添い寝してくれるようなお友達はいない。
ああだめだ。寝不足な頭と不調を訴えている体ではもう考えられない。
間違いなく詰んでる。
一先ず考えることをやめて、リーシェが寝ている籠をそっと床に降ろした。そしてもう一つの荷物を開ける。
中にはリーシェのものだと思われる育児グッズがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。