彼に食べてもらうため、頑張って運命を捻じ曲げました!
沖ミムラ。”天運”の持ち主である。
「むむむっ」
彼女の超能力、”天運”は最大最高といって良いほど、恵まれた運にある。幸運や不運ではなく、あくまで”天運”であるため、導く運の向きは彼女にとって様々に働く。お天気を変えること、電車の運行時間をスムーズにしたり、福引の景品を一方的に好きな物を頂いたり、人の寿命を変更して滅ぼしたり伸ばしたり、様々な運命を書き換えたりと、
不思議な言い方となるが、
運において、彼女に勝てる存在はいないだろう。運に勝敗なんて本人は気にも留めないし、運命も気にしないことではあるが。
「びみょ~~」
能力は運に集約している。それ故、能力を除けばミムラの身体能力、技能には何もない。無敵に近い能力の一つであっても、彼女が弱点とも言える。
とても長い黒のツインテール、勉強中の女子大学生が彼女の姿。
「これ、広嶋くんに食べてもらってもいけるかなぁ~?」
今、勉強中。
1人の男性に夕飯の一つでも提供しようと、料理に励んでいるところ。しかしながら、
『努力するの遅いぞ』
まったくもって、その通りである。
明日来る広嶋に提供するにはとても、びみょ~な味なのである。
「カレーなのになぁ」
まったくだ。
じゃがいもやにんじんの皮むきで指を切っていたり、油はねで火傷になりかけたりと、あわわわしている調理状態。なんとか美味しいカレーを作って、ちょっとは私も凄いって思われたい。
「諦めちゃダメ!あと、1日ある!頑張って美味しく作れるようにする!」
◇ ◇
そんなこんなで翌日。
「飯を食いに来た」
「ようこそ!広嶋くん!さぁ、いらっしゃい!」
テーブルに置かれたのは、カレーライスとつめたい麦茶、福神漬け。見た目、割と旨そうである。
向かい合う両者。
「相当、努力したんだな?」
「え」
「指のバンソーコー、包丁だろ?器用じゃねぇな」
「う、うるさいよ!不器用でもね、私は!」
「分かってるよ。不器用でもお前の根性は、しっかりと入ってるんだろ」
「!うん!ありがと」
真剣に頑張ってるという姿勢が伝わる指の傷。旨くなかろうと、すでに褒めれるさ。
スプーンを手にとって、一口頂く広嶋。それを静かに緊張しながら、見守るミムラ。
出た答えは
「お、旨いじゃん」
「ホ、ホント!?」
「てっきりもうちょっとマズイと思った」
「もう!そーいう褒め方ー!?」
しかしながら、広嶋の口から『旨い』のお言葉。デレデレに照れて、頬を抑えるミムラ。その嬉しさを見かねて、二口、三口、いってから尋ねた広嶋。
「ところでどーいうことしたんだ?」
彼女が家事全般が下手くそなのを知っている広島。その質問は、もしかするとどこかのお店のカレーでも持ってきたとも思わせる、意地悪な質問を抑えたものであった。
しかし、……返された回答は意地悪どころではなかった。
「昨晩ね!私の”天運”で、全人類の味覚が私の料理に合うように作り変えたの!もー、大変だったよ!」
「ぶふーーっ!」
広嶋は食べたカレーを噴き、すぐさまミムラのカレーを彼女の顔面に叩きつけたのであった。
「ミムラ!明日までに全人類の味覚を直せ!体に悪いもんだったら、どうする気だ!?」
「お、怒らないで……」
「はぁ~~~」
凄まじく長い溜め息をついてから、広嶋は
「それと、明日もいてやるから!お前はカレーをちゃんと作れ!」
「へ?」
「不味かろうが少しは食ってやろうと思ったのに、……お前な。努力の方向考えろ!」
「うっ……」
「誰が食べても、美味しいものを作るようにな!」
「広嶋くん」
そうか、私が美味しい料理を提供すれば、良いだけだもんね。
「明日だと、早すぎない?1週間ほど待って」
「お前、今度は誰かに作ってもらおうかと、考えてるんじゃーねぇだろうな?携帯に手を伸ばすな」
「それはないですよー。頑張ります。ネットで調べるだけですよ~(棒)」