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いぶし銀な異世界冒険録  作者: 三叉霧流
間章 番外短編 何でもない依頼録①
7/20

町役場下水管理課依頼 『黒い影の調査』(上)

おかげさまで総合日刊にランクインしました。

応援していただいた皆様とレビューを書いていただいた寒天ゼリー様に感謝を込めて。


しばらくはメイン連載「ゼンの冒険」を優先で執筆しますので、もうしばらくお待ちください。

「ギンジさん、おはようございます」

「ああ、おはよう。依頼はあるかな?」

 朝早く、何時ものように同じ挨拶と同じ会話が始まる。

 銀次はギルドの受付嬢と向かい合っていた。

 彼女は自分が朝出所して一番に用意していた書類を手にとって微笑む。

「ございますよ。今回は町の下水管理課からの直接依頼です」

 そう言われて銀次は、そろそろ自分は町と直接契約を結んで下請け会社でも始めようか、とすら思った。

 前回、二週間にわたりスモールサーペント狩りで街道安全課の依頼をこなしたばかりだったからだ。もはや、冒険者ではなく、どちらかというと町役場の下請け状態。銀次が町にとって、なくてはならない存在だということだった。

 銀次は躊躇なく聞き返す。

「どんな依頼?」

「調査依頼です。先日、町の下水道の浄化魔核取り替え工事のために下水道へ入った町役場の担当官が、黒いモンスターの影を見たそうです。今回は銀次さんに調査をお願いして、モンスターの脅威度が高ければパーティーに依頼しようかと思っております。もし倒せるモンスターでしたら、追加料金お支払いしますので討伐をお願いします」

 銀次に聞かれたハーフエルフの受付嬢は記憶していた内容をスラスラと言った。

 ふむ、と銀次は少し考える。

 町の周囲は高レベルのモンスターをあらかた駆除している。しかし、繁殖力の強いブロンズレベルのモンスターの完全駆除は不可能に近く、そういったモンスターも数で押し寄せた場合に町の住人にとって脅威度は高い。町を建設するときにはモンスターが来ないように、あらゆる手を打つことになる。それが町の発展の一番の鍵だからだ。

 だからこそ、町に侵入しやすい下水口のような場所には高価な威嚇スキルの魔核結晶が埋め込まれてブロンズ以下のモンスターが入ってこれないようになっていた。ちなみに威嚇スキルの魔核結晶は、町や村といった人の居住区になくてはならない。値段も必然的に高騰するが、供給はなかなか厄介である。なぜなら、威嚇スキルを持つのはカッパークラスのモンスター、威嚇(スレット)大蛾(ジャイアントモス)。全長1mを超す巨大な羽を広げてスキルを発動し、カッパークラスの敵を硬直させる。が、非常に弱い。弱すぎることを自覚しているため硬直させている間に逃げ、そのうえに個体数が少ない。シルバークラスの冒険者やカッパーの冒険者パーティーが広い森を走り回って一匹いるかいないかの個体数だ。

 銀次はそんな威嚇魔核がある下水にどのようなモンスターが潜むかを思案していた。

 おそらくギルド側は、調査に高ランクの冒険者を使う資金やその冒険者が抜けるリスクを計算して、自分に話を持って来ているなと、一瞬考えたが、それよりも町にシルバーランクのモンスターが潜んでいるだけで大問題だと思った。

「調査だけならまず受けるよ」

 ほんの僅かな時間の沈黙だったが、じっくりと冷静に考える銀次の姿に受付嬢は安心感を覚え、書類をカウンターの上にのせ、

「では―――」

「その依頼待ったぁぁぁぁあああ!」

 受付嬢の言葉が、何者かの叫びに遮られた。

 隣のギルドの居酒屋兼カフェから現れたのは、二人の男であった。

「ふははぁぁぁー! その依頼! この俺様、黄金鎧(ゴールデン・プレート)が手伝ってやろう!」

「に、にいさん!」

 銀次が見たものは、大威張りする黄色(・・)のブロンズ胸当てを装備したぼさぼさ頭の野性的な少年とそのマントの裾を引っ張りながら焦っている革鎧の美形少年だった。

 パーティ名、黄金団。

 黄金とは言いながらリーダーが装備しているのは、黄色の塗料で塗ったブロンズの胸当てとボロボロの片手剣。もう一人は、黄色く塗りたくった木の盾を背負っていた。それだけでも彼らがどういったパーティかはわかる。

 早い話が、完全に名前負けである。

「タガラク兄弟か…」

 銀次は苦笑する。

 銀次はこの兄弟をよく知っていた。というのも、近場のフィールドでよく見かけるパーティだからだ。銀次の後ろをちょろちょろし時におこぼれをかっさらっていったり、討伐依頼を受けても数を誤魔化そうと商人に食ってかかったり、はたまた調査依頼でデタラメを書いてサボる。そんな常習犯。主に銀次の前で腰に手を当てふんぞり返っているグラカク兄のバーズカラ・タガラクが犯人。横の弟であるクニウロン・タガラクは兄のとばっちりを受けて何時も苦労していた。

 彼らは冒険者には無料で配られる綺麗な水を求めて、早朝から居酒屋にいたのだった。そして隣から聞こえてくる楽そうな仕事に反応して兄が飛び出していたのだ。

 クニウロンは、兄を止めようとマントを引っ張りながら、

「兄さん、これはギンジさんの直接依頼だよ!」

「直接依頼? なんだそれは? 俺様はそんな依頼受けたことないな」

 兄は不思議そうに首を傾げていた。

「そ、そりゃそうだよ。ぼく達なんかじゃ―――」

「馬鹿コラ! 耳貸せ!」

 そういって兄は弟の耳を引っ張りながら銀次達に背を向け、小声で話し出す。

「お前も聞いただろ。調査依頼だぞ? しかも金のかかる遠出じゃないんだぞ? 下水道の調査なんざ、ただ歩いているだけでいいだろうが。こんな美味い話があるか。何としても俺様はべったりアイツに張り付いて依頼料の分け前をぶんどる」

「でもこれは直接依頼だからぼく達が張り付いても契約が―――」

 ゴン、と頭を殴る音が響く。

「あいたっ!」

「馬鹿野郎。んな難しい話はわからねぇ。いいか、俺様は直接依頼なんて言葉は知らんし、ムカつくいぶし銀に張り付いてたら勝手に働いてくれるから楽だしな。何せ、もう二日も粥だけだぞ! 今日は腹いっぱい喰って、宿屋で寝たいんだよ!」

 段々と声が大きくなってもはや普通の会話というよりも怒鳴り声だった。ちなみに、最初の方ですらも彼らは小声で話しているつもりだが、銀次と受付嬢には全て筒抜けだった。

 ハーフエルフの受付嬢は凄まじく顔を引きつらせている。彼女はギルドの受付嬢をしているだけあって町や冒険者達への思いは強い。それにエルフの血によってか、かなりの潔癖症で、この兄弟、いや兄が大嫌いだった。

 受付嬢は、怒りを何とか抑えようと笑みを作ったものの、それは逆に迫力があった。

「バーズカラさん、これは町役場が―――」

 受付嬢が説教ぽい口調で話し始めようとしたとき、意外にも素早い動きでバーズカラは銀次を押しのけて、カウンターに肘を突いて髪をかき上げる。

「ノンノン。ミシェラ。俺様に任せおけ」

 呼び捨てにされた受付嬢、ミシェラの鳥肌が立つ。

 怒りで。

「あ、あなたねぇ! ろくに依頼もこなせない分際で何言ってんのよ!」

 ヒステリックな悲鳴が響き渡る。

 キンキンと銀次の耳が鳴った。

 しかし、叫ばれた相手、バーズカラは何処吹く風に、凄まじいまでのタフさでふっと格好をつけて微笑む。

「オンナを泣かしちまうのが俺様の悪いところさ。許せ、ミシェラ」

 それを聞いたミシェラは髪を逆立てていた。

 逆立て、手を振り上げる。

―――パシィィィーン。

 いい音が鳴り響き、バーズカラの頬には真っ赤な紅葉が咲いた。

 だが、バーズカラは微動だにもせず、なおも気障な顔で、

「いい痛みだ。俺様達の愛の証だな」

 そう言いつつ、張り手をしたミシェラの手を握った。

「どんな神経してんのよぉーー! 汚い臭い! 離して! 離しなさい! あんたなんて冒険者登録から抹消してやる!」

 ガシガシと握られていない方の手でバーズカラの顔を叩きもがくミシェラ。

 その喧噪を見ながら、

「すまん。頼むから依頼の手続きを進めてくれないか…こいつらを雇うから…」

 なし崩し的に銀次はため息を吐いてそう言った。

ちなみに威嚇スキルは集団、互いに連帯している群れなどには効きにくくなります。心理効果的な側面のスキルです。ただ、それでもブロンズレベルのモンスターが10匹ぐらい群れても威嚇スキルで硬直します。カッパーなら四人で、微弱なバインド状態にかかりますが行動は可能です。シルバーならソロでもまったく効きません。

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