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いぶし銀な異世界冒険録  作者: 三叉霧流
プロローグ いぶし銀な一日
6/20

何でもない日 夜中・就寝

 美味しい食事に満たされて銀次は軽い足取りで自宅へと向かった。

 場所は貧困街に面した市民住宅区。その屋根裏付き二階建て木造住宅の一つが彼の家だ。通りを挟んで向こう側は治安が悪い。魔核灯がある場所ではまだ大丈夫だが、奥に進む度に危険度は増す。そのお陰で銀次が住む場所は家賃が安い。一軒家を借りたとしても大銀貨七枚となっている。

 銀次は通りから少し中に入り、今は見えないがオレンジ色のとんがり屋根と木の格子が目立つ白い塗り壁の玄関に立つ。

 玄関の扉には拳ほどの魔核結晶がはめ込んであって、それを手で軽く触れながら呟く。

「――解除(アンロック)

 ふっと意識が軽くなって僅かな脱力感。魔核結晶へと魔力を流して、銀次は家の結界を解除した。

 家に結界を施した魔核結晶は、家を石造りの壁と同じ強度にして侵入者を阻んでいた。様々な道具を購入して保管しているためにこういった高価な魔核道具がないと銀次は安心して暮らすことができなかった。

 玄関に入るとモワッと薬品や薬草の臭いが充満している。一階は倉庫兼作業室となっているため仕方がない。銀次は魔核洋燈を灯し、家の奥へと歩いて行き、中庭側の扉を開けて空気を入れ換えた。そして中庭の水道を開けて水を溜める。

 それが終わり、中に戻った。中は荷物は多いが、整頓されている。薬師のような小さな棚が天井高くまである作業台と椅子。それ専用の小さな魔核洋燈。その脇には数個のズタ袋に入ったモンスター除けと寄せの原料、木の棚にはアルコールに浸かったモンスターの素材、陰干ししている薬草は壁に掛かってて並んでおり、床の木箱には素焼きの壺が箱一杯に詰め込まれている。反対側の壁には武器の山。短剣、刺突用のダガー、両手剣、斧、鎌、木のマネンキンに掛かっている鉄の鎧一式、木の枝のようなマント掛けには五枚以上のマントが掛けられている。

 銀次は荷物を作業台の椅子の上に置いて、革鎧を脱いでいく。一人ではなかなか脱げない鎧を器用に解いていき、あっという間にチェニックとズボン姿になった。体臭が付いている鎧の裏地に殺菌成分のが含まれたハーブの香油をふりかけ、丁寧に磨く。武器と防具をしまい直すと、今度は荷物を解き、明日の分の道具を補充する。

 その手つきは酒を飲んでいても全くぶれない。基本的に彼は飲みに行くときは三杯までとしている。一人で夜道を歩いて襲われることもあるので簡単には酔えないのだ。

 明日のサーペント狩りの道具の補充が終わる。今度は長革靴を脱いで足の指を運動させて凝りをほぐす。

 このピッタリと吸い付くような長革靴を脱ぐときが一番リラックスする。蒸れて痒くなった時は特に。サンダルに履き替えて、家の鉄の箱から拳ほどの赤と青の魔核結晶二つを取り出し、小さなハーブの袋を持って庭に出る。

 庭の衝立の先には小さな中庭があった。ちょうど六畳ほどの庭だ。月の光と満天の星空が家々の間から眺めることができる。

 特注で注文した大きな木の桶。人が足を広げて座れるスペースに濁った水が腰の高さまで入っている。

 銀次は、二つの魔核結晶に魔力を込めて投げ入れる。毎日のようにしている作業だ。ちょうどいい魔力量は完璧に把握していた。

 五分ほど桶の横にある椅子で月を眺めているとふんわりと湿気を帯びた空気が、肌の産毛に水滴を作る。湯船の中に手を入れると透明感のある綺麗な水がちょうどいい湯加減になっていた。

 水を止めて衝立で周りと遮り、服を脱いで桶の湯船に身体を横たわらせる。

 じんわりと温かい湯が心地よい。全身の疲れが取れていくようだ。

 真上を見上げれば綺麗な満月。

 その素晴らしい景色を楽しみながら持って来ていたハーブの包みを湯船の中に入れる。

 スッキリとした柑橘系の香り。握り込めば泡がくしゅくしゅと出てくる。調合して入浴剤としても身体を洗う洗剤としても使える万能ハーブ石けん。細かく砕かれた石けんは、たくさん泡を湯船の上に滑らせる。その泡で顔を洗い、髪や全身を洗っていく。

 それでやっと染みついた血の臭いがマシになった。もうどんなにハーブを使っても取れないが、少しはマシになると思って念入りに洗っていく。

 洗い終わった頃にはもう湯はぬるくなっている。魔核結晶を取り出して、椅子の上で乾かし、銀次は布で身体を拭いていく。

 月光に照らされた見事な裸体。瞬発力も持久力も兼ね備え鍛えられた鋼。しなる筋肉の束は細い鉄線をより合わせたよう。常に鎧を纏い、誰からも評価されない肉体美が月明かりにひっそりと秘められている。

 だが、その美しい裸体には宝石が曇ったように無数の傷跡が残っていた。

 銀次は腰に布を巻き、湯船の排水溝を抜いて湯を捨てる。それを確認して部屋に戻って新しい服に着替える。着替え終わりったら、道具を拭き、また鉄の箱や籐籠へとしまい直す。

 そのまま玄関に向かい、結界用の魔核結晶で戸締まりすると、魔核洋燈と短剣を持って二階へと昇っていく。

 二階の部屋は伽藍洞だった。ただ真ん中に大きな寝台と足下の木箱があるだけ。

 火照った体に心地よいひんやりとしたシーツを滑り、ハーブの香りがする毛布に(くる)まり身体を寝台に横たえて彼は目を閉じる。傍らの魔核洋燈はぼんやりと燐光していた。

「おやすみ、アデレード。今日も無事生きたよ」

 そう言って彼はただ無感情に眠りに落ちていった。

 何でもない日がこうして終わる。

何でもない日は終わりです。

次話は一日単位ではなくモンスター討伐主体になるかもしれません(未定)。

ただ地味ではある。

あと男の入浴なんて誰得?って感じですみません。

それにしてもハーブハーブと五月蠅いなこの文章・・・。

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