ひよっこ魔法使いといぶし銀な冒険者の日常(Ⅱ)
照りつける太陽がジリジリと熱い。
空には一筋の入道雲がぐんぐんと背を伸ばしていた。
幸運なことに銀次の暮らす町の夏は、湿気が少ないので日陰に行けばそれなりに涼を取ることが出来る。既に一仕事を終えて休憩している町の人達が軒下に集まってパタパタと自分を扇いでいる。
そんな町の人達に好奇の視線に見守られながら、銀次はメイリと共に歩いていた。
その彼女の背中には巨大なリュック。
米俵ほどもある巨大さだった。どう見ても少女にしか見えないメイリが、米俵のようなリュックを背負えるのか。それも魔核技術の一言で今は済ませよう。
とりあえず彼女は自分の荷物を宿から回収して銀次の後ろにピョコピョコと歩いていた。
そしてびしっと手を上げながら銀次の前に躍り出る。
「先生! 本当に先生の家で暮らしてもいいんですか!?」
ざわめく町の人達。
頭を抱える銀次。
メイリの声量が大きいためその衝撃的な内容が町に響き渡った。
町の人達は銀次が結婚して、この町に根を下ろしてくれることを何よりも望んでいた。お節介焼きの近所の住人は何かにつけて結婚相手を紹介してくる。それでも銀次は誰とも会おうとせず一人暮らし。男色家ではないかと今は若干諦めかけ。
そして、ふってわいた銀次と暮らす年頃の女。
そこから導き出される答え。
「ギンジ! アンタもとうとう所帯を持つんだね!」
「ギンジ兄ぃ! おめでとう!」
「ホホホ、こりゃめでたいのぅ」
途端に木陰に休んでいた町の人達が銀次とメイリを取り囲み始めた。
最初、わらわらと集まってくる町の人達をきょとんと見ていたメイリだが、ぴんと来たのかポンと手を打って喜びだした。
「おお! お祝い事! それはめでたいですね! 先生! お祭りですか?」
「すまないが・・・家に行くまでちょっと黙っててもらえないかな?」
それから町の人達に事情を説明するのに小一時間ほどかかった。
◆◆
銀次がメイリを自分の家に住まわせるのか?
欲情したからではない。彼はメイリに砂粒ほどの劣情も抱いていなかった。
人にものを教えるということは、自分が教えられた経験が重要になってくる。この点で銀次が人に教えられるのは、同じ屋根の下で同じ釜の飯を食うやり方しか知らなかった。一緒に暮らしその生活を体験すれば分かるだろうと考えていた。
「ほわぁー」
銀次がメイリを家へ招き入れると開口一番、緩んだ口を開けてそう感嘆の息を漏らす。
「先生、すごいですね。まるでお婆ちゃんの家みたいです」
「お婆さんは薬師でもしているのか?」
銀次はまだ緩んだ口を開けたままに家を見渡しているメイリに聞いた。彼女は頷きながらトントンと床板を歩いて薬棚やモンスター素材が浮いている壜を眺める。
「はい。里一番の薬師でしたよ。私にはお母さんもお父さんもいないのでお婆ちゃんに育てられたんです。あ、リコッタ草、これはライプリ草・・・」
メイリはちょこちょこと移動して、屈んで薬草の入った麻袋の中身を検分していた。
「詳しいな。まあいいか。とりあえず部屋に案内する」
「あ! はい! お願いします!」
メイリは立ち上がり嬉しそうに笑顔を向けた。