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いぶし銀な異世界冒険録  作者: 三叉霧流
一章 いぶし銀な家庭教師
10/20

ひよっこ魔法使いといぶし銀な冒険者の日常(Ⅰ)

「なるほど」

 銀次は受付女、ハーフエルフのミシェラの話を聞き頷く。

 ギルド内の居酒屋。今はカフェのように利用しており、暇そうな料理人が厨房の奥で欠伸をしている。

「如何ですか? この依頼はギルド総意のお願いです。受けていただけると・・・」

 ミシェラは言葉を濁しつつも銀次の顔を伺うように見つめる。その瞳はしっとりと濡れ、並の男なら見栄切りそうだが、銀次には通用しなかった。

 彼は百面相のようにめまぐるしく変わる魔法使いの顔を無視して考え込む。

 つい最近、この町の近くに遺跡が見つかった。

 それも地下迷宮。

 とある学匠の話では、地下迷宮は地下の魔力をくみ取る装置だと言っている。石油コンビナートと同じように地下の魔力を吸い上げて魔力結晶を作り上げる。魔力結晶は、モンスターに取り込まれて魔核となる。つまるところ、魔力結晶は純粋な魔力を結晶化した精製物。魔核にはそのモンスターのスキルや魔法が記憶されるが、魔力結晶は膨大な魔力を含有し、魔力を込めるときも効率的に貯蔵できる高性能なバッテリーだ。

 その魔力結晶が発掘できる地下迷宮となれば膨大な利益を生む。

 いまこの町は一種のゴールドラッシュのように活気づいていた。ギルドや領主はそれに対応するために冒険者達をかき集めて長期的な探索を計画し、つい先日その第一調査に乗り出している。

 もちろん、その調査に乗り遅れまいと初心者や低レベルの冒険者も参加し、町から冒険者の姿は消えた。

―――故に。

「つまり、俺が冒険者ギルドに入ったばかりの魔法使いに冒険者のやり方を教えると」

「はい。そうです」

「そうです! 先生!」

 ミシェラとメイリはそれぞれ同じ言葉を口にするが、一方は品良く微笑んで、他方は椅子から立ち上がって背伸びするように手を上げていた。

 元気が良すぎるメイリに目眩を感じつつ、銀次は落ち着くためにアイスハーブティーを一口啜る。

 この世界のハーブは様々な種類がある。銀次もこの世界に訪れてからその種類の多さと薬効の高さに驚かされっぱなしだった。道ばたに生えているハーブでさえ銀次がいた世界の薬ほどの効果があり、寒暖差に強く、一年のごく短い期間以外ずっと採取可能。味も甘みがあって砂糖をそこまでいれなくても十分に美味しい。ハーブや薬草、毒草を組み合わせれば様々な事にも対応できるため、この世界では特にハーブ菜園が盛んで必然的に庶民の口に上りやすい。

 このハーブティーもそんな一品で、ローズヒップの香りに蜂蜜が加えられ、魔核製氷機の氷でグラスには霜が降りている。

 カラン、と涼やかな音色をたてて銀次はグラスをテーブルの上に置いた。

「わかりました。調査が終わる一ヶ月間、俺が見ましょう」

 銀次が仕方なくそう言うと、目を潤ませたメイリが椅子から飛び上がって銀次の元に駆け寄ろうとする。

「せんせ―――ぎゃ! ぐっぅ」

 しかし、どうやったのか椅子に小指をぶつけて苦悶の声を上げながら屈んでいた。

「大丈夫ですか?」

 それを心配そうに気遣ってミシェラは椅子から立ち上がりメイリに近づく。

「ミシェラさぁああん。痛いですぅ・・・」

 その姿を見て銀次は今さっき言った台詞を本気で後悔し始めた。

 今回の依頼はギルドが申請した指定依頼。ギルドに所属している者として銀次には少し断りにくい。

 何故、このドジそうな魔法使いの家庭教師役を銀次に頼むか。

 それは魔法使いが貴重な戦力になるからだ。

 一般的に、ギルドでは初心者に向けて冒険者養成所の門を開いている。初心者はウッドの若葉マークをぶら下げてその養成所に半年間通い、様々なことを学んだ後で残りの半年間をフィールド実技に当てる。

 しかし、今時代は冒険者の黄金時代。

 次々と見つかる遺跡に冒険者達は湯水のごとく派遣され、初心者ですらも時にそこへ繰り出していた。その時勢によって初心者の講習期間を短くし、養成所の教育係の冒険者までも遺跡に借り出されている。

 いわば、教育者が少ないのだ。

 それにこの町は新たに発見された地下迷宮にその数少ない教育者達も派遣され、ギルド内は事務員以外空っぽ。

 彼女を教えることができるのは、遺跡の依頼料に目がくらまない銀次のみ。

 その上に、メイリは魔法使いだった。

 魔法使いはとても貴重な戦力で、砲塔よろしく高火力で敵を一掃できる。低レベルでもアメフト選手のような鎧姿の冒険者に守られ、戦車のごとくモンスターを蹂躙すれば探索も効率的。

 しかし、ギルド協定の中で半年以上の講義を受けないとメイリを実戦投入できない。

 教育者がいない厄介な時期に現れたひよっこ魔法使いを少しでも早く戦力に仕立て上げようとギルドは考えた。

 考えた結果、暇そうにしている銀次に辿りついたというわけだった。ギルドがある程度高額な依頼料を払っても魔法使いは一年もあればカッパーレベルの働きをする。ギルドには採算は十分にとれるという打算もあった。

 それに銀次はブロンズの中でも最高レベルの実績を持つ。例えブロンズでもこれまで生き延びた技術をギルド側は評価していた。

 しかし、と銀次は口にする。

「ミシェラさん。だけど俺は魔法使いじゃありませんよ?」

 アイスハーブティーの氷でメイリの足の小指を冷やしていたミシェラは振り返った。その営業スマイルに銀次は丸め込まれるんだろうな、と勘づく。

「それは養成所の魔法使いに任せますので、ギンジさんには基本的な冒険者の過ごし方を教えていただければいいんですよ」

「はぁ・・・フィールドに連れて行ってもいいんですか?」

「はい。講義では野生モンスターの観察も含まれています。激しい戦闘にならなければ大丈夫ですよ」

 銀次とミシェラの話に割り込むように、メイリが満面の笑みで自慢そうに手を上げた。

「あ! 名前知らないですけど弱いモンスターならこの町に来るまでにやっつけました!」

 その言葉に銀次は額に手を当ててため息を吐いた。

 モンスターの名前から教えないと駄目か、と。

 こうしてひよっこ魔法使いといぶし銀な冒険者の生活が始まった。

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