王の来訪
『グランゼル』
この都市はキューリアム王国において比較的大型な都市であり、同時に学園都市でもある。その為、学生にとって必要な魔術用の専門店や各種魔術書の販売店など各種専門店が豊富だ。
又、遠方から来た学生の為の寮なども完備し、同時に知恵を求める者にその英知を開放している。その代表格が図書館だ。
その中で最も権威があり、同時に蔵書数も最大を誇るのは魔術学院付属図書館。ここは魔術学院に付随する図書館であり、近郊でも数多くの魔術の蔵書が保存されている。
そして一般人でも高額の保証金と閲覧料さえ支払えば、利用可能の図書館として有名だ。
そんな図書館で、自分はここ2週間ほどずっと調べ物をしている。
自分がこのグランゼルという人間の街に来た理由は3つ
1.魔人の指輪の複製
2.不老の方法の発見
3.100%当たる予知能力の拾得
正直、どれも実現は困難。まぁたぶんダメだろうとは思っては居る。
しかし何もしないで、その結果として、偽魔人とバレ、そのまま未来永劫拷問コース・・・という最悪の選択肢は何よりも避けたい。
とはいっても現状その未来に突き進む可能性が一番高いのが現実・・・。
あーいやな未来だなぁ・・・。
正直、どこで自分の人生は大きく方向転換し、こんな風に魔人として生きる事になったんだと思うわけですよ。
いや、そりゃ死ぬのはイヤです。誰だってイヤです。
しかし魔族の方々に一撃、一瞬で殺されるのと、
『テメェ、よくも今まで魔人と偽り俺達を騙してくれたな、楽に死ねると思うなよ!』
・・・では全然違うと思うのです。
なぜ こーなったんでしょうね?
どこでボタンを掛け間違えた?
本当に何故なんでしょうねぇ。
いずれバレるとしても、何もしないで、というのはどうしても落ち着かない。これも奴隷として毎日忙しく働いていたせいなのか?
いや、誰だって自らの未来が地獄に一直線という道のりが分かれば、それを回避したいと思うのが普通です。万が一でも助かる道があるのであれば、それに賭けてみたいと思うのは当たり前の事。
うんうん
その為にできる事を一つ一つ、こなすしかない。
まずはその為の情報集めからするとしましょう。
で・・・それには・・まずは図書館というわけです。
人間の図書館というのは最適な選択枝だと思うのですよ。
魔人は書物という記録媒体をあまり重要視しない、多くは口伝。
なので、口伝だからといって魔族の方に『自分魔人じゃないのに魔人と誤魔化したいけどいい方法ない?』って聞けるわけないやん!
アベルトに『100%当たる予知能力の拾得したいんだけど おーせて?』
なぞ言えるわけが無い。そんな事したら尋問、拷問、昇天とコースまっしぐら~となるわけで・・・・
ま、その為の人間の町への来訪、そして知識の取得とゆー訳ですよ。
で、早速最初の目的である指輪の複製は成功したのです。
一応、本物は持ってるけど本物は魔人本人しか付けられないのよねぇ。
(本物はポッケにはいってます)
ただ、ずっとポッケにはいったままだと疑われるんだよね。一応、今は偽指輪をしてるけど・・・大丈夫だよね。ばれないよね?
あぁ本当に何もかもがギリギりなんだよねぇ・・はぁ・・・
ホント、一歩でも踏み外したら、そのまま転落。
しかしこれ以外に考えが浮かばないんだよね。取り合えず次の目標は不老なんだけど・・・・
・・・・うん
普通に考えてもあるわけないじゃん!。不老のアイテムなんて!
まぁそうだよね、そうポンポン不老ができるわけない。まぁ魔人の世界にはそーゆーアイテムはあるらしいけど・・
『アベルトに不老のアイテムちょうだい』
って言えないんじゃん。元々魔人不老なんだし・・。
ホント、この点で魔族本当に役に立たない・
・・・役立たずめ!
あ、そういえば不老といえば、面白い記述を見つけたのです。
『時の魔人』
この魔人の能力は自分が偽証している魔人である『未来の魔人』の能力に少々似ている。
時の魔人の能力は時の操作、時間を止めたり、そして未来や過去にも行けるらしい。『何、それ反則じゃないか』と思う。
ただ、時間停止中は魔法も止まるし、物理攻撃もできない、本人は逃げるしかできないらしい。まぁ変な能力!
過去も行けるけど、当然決定した過去は変更できない。未来は多少の変更は可能だが、未来の魔人などが決定した未来の確定事項は変更不可能。
ただ、自分がこの魔人に注目したのは老化を止める能力がある事。
しかも、老化防止のアイテムだってぽいぽい作れるし、多少なら人間界にも出回ってるらしい。
となると、自分の目的として、このアイテムを捜す事になるのかもしれないんだよねぇ。
出来れば数年以内に入手したい。といっても、人間界においてはかなり希少で伝説級の魔道具。そうそう見つかるものではない。
少なくともこの国には実在していないらしい。実に前途多難だ。
しかし、諦めるという選択肢は捨てねばならない。
なんとかして捜さないと。まぁ半ば諦めてるけど・・・
でも拷問はいやだなぁ。
そして、あとは予知。
これに関しては手がかりすらない。人間の中でも優れた予知能力者、この場合占星術師と呼ばれる職がある。
で・・・だ、その優れた占星術師は存在はするが、その能力を代行する魔道具というのは存在してない。
いや、もしかすればあるのかもしれないが、少なくとも今まで探した書物の中には見つからなかった。
いまだ暗い自分の未来を思うと、ため息しかない未来絵図が重くのしかかるわけっす。
あぁ、どーにかならんかなぁ。地道に資料を探すしかないか・・・
そんな事を思いつつ、次の占星術関連の書物に手を伸ばした時。
図書館といえば、静寂な空間であり、学生などが静かに勉学を育む場所、そんな場所であるはずなのに、急に図書館の入り口付近が急に騒がしくなる。
なんじゃらほい???
そんな喧騒と同時に図書館内をみれば職員や司書をはじめ、いままで読書や勉学に励んでいた学生や自分達同様に知識を求めにきた一般の利用者などが全員、駆け足で図書館の位入り口付近に集まって行く。
今までにないその事態に、何が起きたのかと少々不安になるんですが、何でしょうねぇ?
「なんか外が騒がしいな」
「そのようですね」
「クロや、みてきてくれない?」
「はっ、直ちに!!」
近くで暇をもてあましていた護衛役のクロに声をかける。
ちなみにクロは自分の図書館での行為に暇を持て余し、時々あくびをしたりと実に退屈にしていた。
ただ・・・自らに与えられた護衛という重要な任務を忘れたわけではなく、盛んに屈伸したり、首をくるくる回したりと、必死に己に襲い掛かる眠気と対決していた。
そんな折、クロは久しぶりに与えられた使命に笑顔を浮かべ、人々が集まっていく場所に駆け足で向かう。
この街に来た当初、酒場ででかい事件を起こした後はクロも反省し『借りてきた猫』とはいわないが、多少は物分りもよくなり、おとなしく指示に従うようになっていた。
実に扱いやすい。
このまま忠犬、いや忠猫としてがんばってほしい。
そして是非使いやすいアホであってほしい。
クロが図書館の入り口に向かった後、幾ばくかの時間が経たないうちに急いで引き返して来る。
どーしたんでしょうね?
「どうした? クロ」
「あの、主様、なんか人間の王となのる奴が主様に拝謁したいと」
「は????」
・
・・
・・・
・・・・えっ?
「いや ちょっと待って、なんで王様が自分に?」
急展開すぎて、意味が分からない。王様? ってあの王様だよね。
この国の王。自分ただの田舎で飼われてるただの奴隷だよ?
いや、今は魔人としてなんだが・・・あ、いやそんな事、この町で公言した事は無いし、なぜに?
頭の中がパニック!
いやいや落ち着け自分!
「なるほど」
そんなパニックの自分に急に慣れしんだ声が?
って自分の背後から?
「って アベルト、なんでココに?」
背後を振り返れば、我が配下でもある上位魔族であるアベルトを含め3名ほどの魔族が立っている。
いや、突然の出現ビックリだよ!
「我が主よ、突然失礼いたします」
自分に対し深く頭を下げるアベルト。
「いや、それはいいが・・・さっきの『なるほど』というのは?」
「いえ、実はこの国、何という名前の国が忘れましたが、この国王と名乗る下賤の者の一団がここに向かっているのを確認し警戒しておりました」
人間って魔族にその程度ほどの認識なんすね・・国名すらおぼえてもらえないのね・・・まぁ薄々分かってはいたけど・・
「まぁ、いい。確か、アベルトは街を外から監視していたのだったな」
「はい。その為、緊急事態と判断し、何時でも来れるように上空に待機。一応不可視の魔法をかけ、人間には分からないよう待機しておりました」
「へぇ、相変わらず、なんか・・・もう何でも在りの気がしてきたよ」
「今回は異常事態と判断し、急ぎ参りました。いけませんでしたか?」
「いや、こうなると。ここに居てくれたほうがありがたい」
「畏まりました。しかし、王が直接面会したいというのであれば、これは主様が魔人だとばれたようですね」
まぁ消去法でそうなるでしょうね。それ以外に奴隷である自分に王が会う理由がない、しかしどう対応していいもんか?。
で・・だ。何でばれたんだろ? 酒場の一件? いやそれとも指輪の複製を頼んだ時かな? それしか可能性がない・・・
と・・なると・・つまりあの指輪の複製を依頼した魔道具職人か!!
もしかして・・・あの指輪が魔人の指輪って事知ってたの?
うっ、そりゃマズイ!
そりゃばれますわ!
そんな折、図書館の入り口と自分の間を何度も往復し、確認を取っていたクロが声をかけくる。
「王が面会を申し込んでいますが、お通してもよろしいでしょうか」
「あ・・・まぁ、こうなりゃしょうがないか・・・お通しして」
「では私も、念の為、護衛の者を集めさせます」
えっアベルトだけじゃないの?
アベルトの声をきっかけに次々と現れる魔族達、その数は30名以上。
おそらく王の来訪に危険性を感じこの図書館各所に配下を潜めていたのか?
書架の影や、机の下、果ては天井などから続々と魔族が集結。
そして規律正しく自分の背後に整列を開始。
30名の魔族が横並びに整列する姿は実に圧巻なのです。
しかし、30名もの魔族が同じ図書館内にいて人間に気付かれなかったの?
図書館には人間の魔法使いも居たと言うのに・・・心底魔族の人間を遥かに超越した能力というのは関心すると同時に背筋が冷たくなるもんです・・・はい。
いや、この場合は、不味い独り言でも聞かれたか心配すべきだな。ヤバイ、今後は心がけよう。
魔族達が整列を終えた頃、人間の一団がこの図書館に入って来た。
人数は50名ほど。
王と見られる豪華な服装を着た人物や重臣、あれは書記官なのか?、そして多くの護衛の騎士達の姿が見える。
そして巨大な布で隠された四角い台車に乗せられた箱
箱? なんだろ箱って? お土産? 食いもん?
王が入ってきた頃には、既に図書館の中では我々の他に人間の姿はない。
これも王の一団の仕業なんすかね?
あの当初の騒ぎは人払いか・・・ようやく納得。
ゆっくりと入場する王の一団。その豪華な衣装とその歩み自分は今まで見たこともないが、これが王の一団という重厚さと同時に壮言さをを感じさせられる一団なんだけど・・。
なんだけど・・・
・・・・遅い!
王様ってのはこんなにゆっくり歩く物なのか?
お前はナメクジかっつーの!
その一団の動きは実に遅く、ゆっくりとした物。
なぜこうも遅く歩く?
何、それが流儀なの?
作法なの?
都ではそれが流行ってるの?
だが、それは一同の顔を見た瞬間に理解する。
一同全員に恐怖、怯えの顔が見える。皆一様に隠しているつもりなのだろうが、そのこわばった表情、発汗などよく見れば一目瞭然だ。それは王でさえも例外ではない。
・・・あ、そーゆーこと? 納得・・
怖いのね、魔人そして魔族が・・。
うん、気持ちは分かるよ、自分今でもそーだもん
自分の背後を見ればアベルトを筆頭に上位から中位の魔族達30名ほどが規律正しく並び、歩いている王の一団の一挙手一投足を監視している。
魔人たる自分にもし、危害を加えるような事をするなら、一瞬で貴様らを葬ってやる。口に出しては言わないが、その態度はまるでそう言ってるかのよう。
あー・・・これはなんとなく気持ちがわかるな、。
魔族の威圧に王を初めとして近衛の騎士達も一応に恐れを感じているんでしょうねぇ。
自分としてはこの国の王にはあまり良い印象はもってはないけど・・少々この姿をみて王様一同に哀れみを感じてしまうなぁ。
まぁこの光景も見ていて面白いが、これでは時間がかかってしかたない。
自分はナメクジの行軍を見て楽しむ精神的余裕はないのです。
「何をしている。この私に用があるのではないか。いつまで待たせるつもりだ」
「あっ はい、今すぐに!」
その言葉に恐縮するように、王達の一団は態度を改め、今までの遅れを取り戻すかのように駆け足で近寄ってくる。
『急げ!』そう発言した後に、王に対しこんな口調は正しいのかな? あまりにも失礼ではないか?
と一瞬思ったんだけど・・・まぁ今の自分は魔人という立場だし・・・いいでしょ。
ま、少々高圧的な口調になるのは仕方ない。今回は勘弁してもらおう。
唯でさえ魔族達の対応でこっちはいっぱいいっぱいだと言うのに、これい以上ナメクジ、いや人間の王まで相手に出来ない。
ようやく自分の座る机の近くまで移動したナメクジ一行。
ある程度その一行は自分に近寄ると、その中にいた1人の壮年の男が1人前にゆっくりと前に歩み出る。
その立ち位置から、どうやら王に仕える重臣の1人に見えるけど?
多分合ってるよね?
「突然の訪問誠に失礼致します。貴方様は魔族の王たる存在、魔人とお見受けさせていただきました。相違ございませんでしょうか?」
「うむ」
まぁ、ここは大人しく、認めるしかない。
魔人の指輪をこの街で見せてしまった以上言い逃れはできないしな。
それにアベルト達の手前、間違っても違うなんていえるわけが無い。
冗談でも『違うよ』なんていった日にゃ目も当てられません。
まずは、ここは演技モードで切り抜けることにしよう。
「私は、王直属の対魔人戦略研究室 室長のアルバートと申します、こちらに居るのは、この国キューリアム王国 国王 ダングラム8世でございます」
自分の国家の国王に対し、あまりへりくだった敬語をつかわないのは、恐らくこちらを警戒しての事なのかね?
まぁ気持ちは分かる。
どうも魔族達は、人間を遙か下位の生き物だと認識しているんだよね。
なので、いくら国王といえども重厚な敬語を軽々しく使うのは相手に不快な印象を与えてしまうのだと判断したのでしょう・・・案外賢いなこの人
うん・・・正解です。
「こちらにおわすは、魔人の中でも絶大な力を有する『未来の魔人』である、なぜ、許しもなく頭を上げるのか? 平伏せよ!」
ってアベルトさん。何を完全上から目線で急に会話に割り込むの?
ゴメン余りハードルをあげないで!
せめて王をナメクジと思い込んで、なんとか対応しようとしているいのに・・・もう自分の精神力はもう限界に近いのよー。
うう・・・予想外のアドリブとか辞めて欲しい。
アベルトの力ある突然の言葉にアルバートと王であるダングラム8世は膝を折り、頭を下げようとする。が、それを自分は止める。
「いや、よい、此度は私が人間の街に訪れた身、平伏する必要性はない」
「ありがとうございます」
正直、そこまでされたら此方がキツイ!
その言葉に安堵したのか、2人はほっとした表情を見せた。
「で、国王 ダングラム8世だったかな、この私に何か用かね」
ちなみに自分はこの時点でこんな偉そうな言葉を発しているが、実は心臓ドッキドキの緊張度MAX状態。
実は、残りの精神力3割をきりそうな状態です。
何せ相手は王様ですよ。それに対し自分は唯の奴隷、こんな偉そうな口をきける立場じゃないです。
しかし 背後にアベルト達魔族30名がいるので下手な態度なんて取れるわけがない。
演技を続けるしかない。あーもーーなんで今回もこーなるのぉ!
「初めまして、私はこの国を預かる王ダングラム8世と申します」
「ふむ、そうかね」
いやそうかねって・・・自分偉そうに王に対して話し続けちゃってるよ。
相手は王だよ、やはりナメクジじゃないんだよ?
そんな口きいちゃまずいじゃん
その前に礼儀作法なんて知らないんだけど・・・
いやその前に、こんな口調じゃ そもそもまずいでしょー!
と自分の発言に突っ込みをいれるほど焦る自分が居る。
しかし、なんとか顔に出ないように勤め冷静な態度と取りつつ、演技モードを続ける。
「突然の来訪、申し訳ありません、未来の魔人である貴方様は『ポチ様』とお呼びしてよろしかったでしょうか」
「あ、あ・・うむ、かまわないが」
しかし、ポチって名前もばれてるのか、こりゃ下手なごまかしはできないな。
「この度、我が国家に優良種たる魔族、ひいてはその魔族の長である魔人たる方が来られた事は、この国を預かる実としては実に光栄。早速挨拶と参った次第です。
(挨拶かぁ、本当は迷惑に思ってるだろうに、しかし、表向きはそれを口に出しては言えないしな。それに挨拶と言ったが、今回の目的はそれだけじゃないだろうなぁ。何だろ)
「うむ、何かしら人間から挨拶はあると思ったが、まさか王が来るとはな」
「いえ、此度の重大な事件、王たる自分が自ら訪問するべきだと思いましたので」
事件? なんだろう? 大きな事件は起こしてなないんだけど・・
あ、もしかして酒場壊した件? やはりあれだけの額で足らなかったのかなぁ、派手に壊したもんな。弁償いくらなんだろ?
でもわざわざ 取り立てに王様がくるかね?
「うむ、とりあえず無駄な挨拶は抜きだ。さっそく本題に入ろう。これでも忙しい身なのでな」
「かしこまりました。、まぁその今回の事件、どのような形で示すのがいいのか、当方としても迷ってはいる所なのですが・・・」
「まぁ率直に言うがいい 誠意を見せるとして(酒場を壊した弁償額は)どの程度(払えばいい)のものと考えているのだね」
「畏まりました」
この時国王であるダングラム8世は自ら予測した『目の前の魔人は過去の恨みを形あるもので、解決しようとしている』という考えが正しいと確信に至る。
(あぁやっぱり魔人とはいえ、人間の転生体だ。人間の欲という感情はあると見える。
しかし、所詮は学のない奴隷、おだてて手土産でも持たせれば感謝するに違いない。上手くいけば国に魔人とという強力な武器を手に入れることがで出来る。アルバートの奴め、散々脅しておいて・・・。
しかし見れば見るほど、ただの奴隷のガキ。王たる自分が優しく懐柔してやろう)
王はその思惑とは別に極上の笑みで目の前の魔人に微笑みかける。
結果、両者中身が決定的にかみ合わないまま 話は進んでいく。
「まぁそちらの言い分はあるだろうが・・」
(最初に絡んできたのは向こうだし、全部がこっちが悪いわけじゃない。でも壊したのはウチのクロだしな。ある程度の支払いは仕方ないか)
「いえいえ、全ては当方に責任があるのを痛切していおります」
(奴隷がまさか魔人になるとは、完全に計算外、しかし、ただの未成年の奴隷のガキ、ここは多くの美女を送り、裏から傀儡として操る事もできるやもしれんな)
「で、(弁償額は)いくらなのか?」
「はっ?」
突然の魔人の言葉に王の思考が一瞬停止する。
(えっ金? いや魔人だぞ、人間のお金に興味は? いやまさか
いや転生直後だし、奴隷だし、未だお金に執着があるのか?
まずい! 金なぞ用意してないぞ!)
「どうした、王たる者がワザワザ出向いたのだろう、どの程度の金額なのか分からないのか?」
「いえ、それにつきまして 専門部署にしかるべき相談をして、金額を出したいと思います」
「うむ、そうか」
あの3つの穴の修理、結構経つんだけど、まだ賠償金額でないのか? あ、もしかして壁以外に宿の備品まで壊しちゃったとか? あ、ありうるな。クロの蹴り、ありえないほどすごかったし。しかして治療費も?
それは うーん。確かに治療費考えてなかった もしかして死んだのかも?
それならあの金額では足らないだろうし、専門部署ってのもわかる。やばい・・賠償金くらかかるんだろう。
それに申し訳ない事をしたな、後で果物でも持ってお見舞いにいったほうがいいかな?
「はっ、今回はそれに間に合わず大変申し訳ありません」
「まぁそれならば仕方ない。しかし私も気はそれほど長くはないのだよ」
その言葉に深々とダングラム8世は頭を下げる
(まずいぞ、アルバートの奴め、金に興味が無いなど嘘をいいおって!
だが、まだ挽回は可能だ。今回は土産として飛び切りの女を用意した、致命的な失敗にはならぬだろうて・・・
ともかく魔人の機嫌を直すため、急ぎ女を献上せねば!)
王の思考回路はそのように急ぎ切り替わる。
王は、直ぐにその場にいた配下の騎士に指示を出す。
「今回とはそれとは別に、魔人たるポチ様に献上したき物があります」
「ほう、なんだね」
すると、今回中身は何か結局不明のままの箱、巨大な布で隠された四角い箱が
運ばれてくる。
その巨大な箱が多くの騎士達によってゴロゴロと音を立てて運ばれてくる。
「こちらでございます」
大きな箱、そして上に覆い隠された布、そして布に繋がれた2本のヒモ。それはまるで大きなプレゼント箱のようだった。
(なんだろ? こっちが悪いとはいえ、魔族だしなぁ。なんかお土産でも用意してきたのかな? 食べ物かな? なんか悪いなぁ あとでお返ししなきゃ)
そんな思いとは別に、王は自慢げにそのヒモを引っ張っぱった。
その巨大な箱に覆われた布は取れ、その中身の正体を明らかにさせる。
それは自分が全く想像もつかない完全に予想外の代物だった。
「お・・王、これは!」
その箱の詳細な中身をアルバートと名乗る重臣も知らなかったようで、目を見開き驚きの表情をする。その驚きとつい出した声はもこっちに聞こえた。
どうやらこのプレゼントやらはこのアルバートさえ知らない。王のサプライズ品だったようだ。
そして改めて箱の中身を見る・・・
「えっ・・・人?」
王が自慢げに布を取ればそこ居たのは・・・黒目黒髪、自分と同族の女たち海の民だ。皆、一様に手首には縄がつけられ拘束されている。
よくよく見ればみな若く美しい。同時に、女達は目に麗しい化粧と、布地の少ない露出の高い性的な衣装をきせられていた。
ただ、自分が目に焼き付いたのは手に頑丈に付けられた縄と、その女達の希望をなくした未来無き、感情のない目。
「魔人様の同郷のとびきりの奴隷の美女10名を ご用意したしました。ご存分にご賞味ください」
急な予想外の光景にそんな王の自慢げの言葉さえ自分の耳に入らない。
理由は簡単、同属の女性が大勢そこに繋がれていたこともあるが・・・、箱の中の女性・・その中に居た1人の女性に自分の目が釘付けになったからだ。
あれから10年以上も立ったが、今もその面影は色濃く残していた。自分の初恋の女性であり。近所にいた優しい1つ上のお姉さん。そんな女性を自分が忘れるはずがない。
「アマリア・・・ねぇちゃん?」
「・・・ジュン?」
そう叫んだと同時に、檻の中の女性に言われ、自分の鼓動さらにが跳ね上がる。
『ジュン』それは自分が故郷にいた頃の名前、この国では誰も知らない本当の自分の名前だった。