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街で暮らす。

 はぁ・・・安らぐなぁ。


 ここはスラム街にある安宿、さすがスラムにあるせいか、日当たりが悪い。

 さらに言えば川が近いせいか湿気も多いし、多少の悪臭もする。そして肝心の宿はオンボロで床も所々が腐り、いつ床が抜けるか心配だ。


 こんな安宿で誇れるのは、その宿賃の安さと、宿泊客の素性を問わない、犯罪者などにとって都合のいい事くらいだろう。


 今でもこの安宿の部屋の近くからは近隣住民が喧嘩する声、そして子供達の遊ぶ声など各種様々な声が聞こえてくる。

 ただ、この部屋には窓がないせいか、外の様子をうかがうことはできない。


 だが

   ・・・それがいい!


 窓が無いと言うことは変に外から探られる心配はないと言う事。音まではシャットダウンできないが、少なくとも視覚的には早々探られる事はない。

 なにより、散々カタリナお嬢様こき使われ、まるで奴隷のよう扱き使われた自分にとって・・・いや違う・・・ その名の通り『奴隷』でしたね・・・自分。あぁ思い起こされる地獄の日々っ!

 散々お嬢様にボロカスに扱われた生活に比べりゃここは天国です。

 又、あの魔族の視線がないってのはサイコーっす。


 自分はそんな安宿の床に転がり安らかな休息と軽い現実逃避を楽しんでいる最中です。

 あー・・・やすらぐ~。


 ちなみに・・ここは人間の住む街である『グランゼル』。

 アベルトの許可を得て、ここ暫く自分は人間の街で暮らすことになりました。

 この街は近隣でも比較的大きく、特徴として ここら一体で最大の規模を誇る魔術学院があります。

 それに合わせ、魔術用の専門店や各種魔術書の販売店など各種専門店が豊富。つまり近隣では一番自分の目的に適した街なんです。


 そんな宿の床に横たわり、まったりする自分が居るのです。

(今まで気をずーっと張っていたからな。ようやく一息つけるってもんだ

 といっても完全に気を抜くわけにはいかないけどね)


 ふと視線を横に向けるとそこには忠犬いや・・・忠猫? この街においても唯一ついてきた自分の護衛である魔族『クロ』が正座してじっと自分を見つめている。

 (・・・これさえなけりゃーな・・視線が・・・痛いのよん)


「クロよ」

「ははっ」

「私に気にせず、そこのベッドに横になっていいんだぞ」

 そこに備え付けている安物のベッドに視線を向ける。


「何をおっしゃいます 自分はポチ様の忠実な下僕であり、部下です。主人を置いてベットを使うなど許される事ではありません」

「そうは言うが、この人間の街では私はただの奴隷、お前はそれを使用する地方貴族の三男という設定ではないか」

「そうはいっても主人を床に寝かせてまで、ベットと使用するのははばかられます」

(はぁ・・・頭が固い。自分は設定とゆーより、長年染みついた癖でこの固い床の方が柔らかいベッドよりも落ち着くんだって)


 確かに柔らかいベッドは魅力だけど、どうしても魔人(偽)である以上、どうも気持ち的に落ち着かない。


「それに主様、今日はいつまでその床でゴロゴロしておいでですか? まぁ私ごときが言うのも何ですが。無礼承知で言わせて頂きますと、この街には人間から何か得るためだとアベルト様からお聞きしましたが?」

「うん、そーだよ」

「じゃ、なぜここ数日毎日 そうやってゴロゴロしておいでなんでしょう。いやゴロゴロ自体悪いとは思いませんが・・・」

「・・・・・」

 その言葉に反論するかのように、じっとクロを睨み付ける。


「あのぉ・・・・主様?」

「・・・それもこれも、お前のせーとゆーこと。わかってんの!」

「うっ」

「た、確かに。ですが所詮人間、それほど心配する事では・・」

「やっぱり分かってない!、そのせいでほとぼりが冷める迄、ここに引きこもってるわけでしょ!」

「いや、でも!」

「反論禁止!」

「うっ」

「お前のせーで動きたくても、動けないんだよ!」

「すいません。それは反省しております」

 そう言われクロは深々と土下座をした。

 はぁ・・・前途多難だなぁ・・・



 実は・・・事の起こりは数日前にさかのぼる。


 この学園都市『グランゼル』に自分達はやってきた。

 来る時は飛行できる魔族に近くまで運んで貰い、この街では自分とクロの2人だけの生活を始める為。

 初めての二人っきりの同棲、いや、そんな甘い物ではないが、少々浮かれてわくわくしております。

 まぁ、クロは戦闘特化といえども、短~中距離での仲間への魔力を用いての特殊な連絡能力を持っているし、まぁ強いので護衛役として適切です。

 問題はおつむが少々足らないので、それを利用し・・・なんとか誤魔化して青春を謳歌しつつ『魔人じゃない事を何とか誤魔化しましょう計画』を遂行するだけです。


 まぁ緊急用にグランゼルから少し離れた森の中に小規模ながらアベルト指揮する緊急用の護衛達の魔族が控えています。

 (一応、ミケ、タマいるようです)

 少々厄介です・・が・・・まぁ近くに居ないので良しとしましょう。


 何かあればクロから近郊の護衛魔族、そして本拠地の魔族へと緊急用連絡網が完備されています。何かあればそこから攻撃兼救出部隊が出撃するのです。

 正直、心配性すぎませんかね?

 過保護すぎだと思うのです。

 そんな過保護だと子供は成長しませんよ。まぁ自分の事ですけどねw


 そもそも戦闘力はクロに比べれば人間は圧倒的に劣るのです。

 特に戦闘特化型、中位魔族のクロでも騎士団1個中隊なら余裕に対抗できます。・・・なのに何故にこーも手厚い警護なんでしょうね?

 まぁ信用ないんでしょう。

 自分の戦闘力に・・・ま返す言葉もありませんけどね・・・・事実ですから。

 あー悲しい・・涙がでちゃう!


 まーそれはおいて置いて・・・。


 グランゼルの街において自分は『貴族お付きの奴隷』、クロはその飼い主の飼主の『貴族の三男』という設定です。

 クロは少々馬鹿だが、黙っていれば貴族と言われても全く問題ない風貌をしていか適役だと思う。

 線も細いし・・かなりの貴族風味です。うらやましい。

 それに地方の貴族の三男程度なら奴隷の1人雇っていてもおかしくないでしょ。

 そしてその身分のまま自分が(クロを騙して)計画通りいろいろな行動を起こすという予定なのです。


 まずは魔人の指輪のコピー作成が第一目標です。


 しかしその予定は早々に瓦解しました。ものの見事にクロは破壊してくれました。さすがアホの子でした。


 当所、グランゼルの城門をくぐり、街に入ることに成功した自分は完全に油断していました。

 ともかく、大きな問題もなく全てが順調にいっていたからなんですけどね。

 これで油断してしまいました。


 優秀な執事魔族であるアベルトが詳細な下準備を行い、さらに詳細な部分に至るまで、人間である自分細かくチェックを行う。

 そして実際の仕事である街の衛兵などの交渉や入門料などの支払い手続きは全部自分が行いました。仮のご主人役のクロはうしろで偉そうにふんぞり返っているだけ。

 「ふむ」「うん」とか言わないクロの行動は自分にとって実にやりやすい。


 ともかく何も問題は起きず、次はアベルトが見つけてきた、長期宿泊予定の宿に向かう予定だったのです。

 宿屋というのは同時に食事も用意する場所が兼任しており、1Fは食堂兼酒場であることが多い。

 到着そうそう、そこでクロが問題を起こしたのです。

 さすがアホの子です。

 


「すいません、エルラドという名前で事前に予約してものですが、」

 ちなみにエルラドというのは前自分がお仕えしたカタリナお嬢様の姓。

 今は偽名として使うことにしています。


 村長は元没落貴族だし貴族の三男を名乗る自分としてはちょうどいいだろうと思ったんです。

 まぁ、復讐としてエルラドという名前で無銭飲食してろうかと一瞬思ったけどが、騒ぎを起こすのはタブーなのでここはじっと我慢しました。

 さすが自分です。


「あぁ、話は聞いているよ、確か貴族様とその下男の奴隷の2人という話だね」

「はい、ご主人様はそちらにおいです」

 自分が顔をそちらに向ける。

 そこにはクロが気怠そうな顔で酒場を見回していた。

 それに納得したのが、宿の主人は自分に部屋の鍵を渡す。


「なら2階の4号室だね、そこの階段から上がってくればいい。食事はこの1階でということでいいかね?」

「はい、それで構いません」

 そう、ここまでは万事が順調だった。そう此処までは!


 その時、酒場にいた酔っ払いがある一言を発した。

 これが全ての事件の発端だ。


 自分としてもクロのおつむの弱さをもう一段階引き下げて行動すべきだったと今でも後悔している。

 結局この事件が後に続く壮大な事件の引き金となった事は間違いない。

 なんで自分はクロを護衛に選んだと激しく後悔するが、こればかりは今となってはどうしようもない。


「奴隷かよ、臭いのが来やがった。ちゃんと閉じ込めておけよ」

 近くのテーブルで飲んでいた酔っ払い4人組の冒険者風の男だ。その男が自分を見て軽くそう言った。


 まぁ自分にとってはいつもの事で、気にもならないいつもの言葉です。どうやらその言葉がクロの逆鱗に触れた。

 この言葉は無論 侮蔑の言葉では無い、そもそも奴隷なのだから人権なんてものはこの国には存在しない。

 他人の奴隷を殺したとしたも罪に問われる事も無く、単に賠償金を払うだけで済むくらいの価値しかありません。

 この男は軽い注意のつもりで言ったんでしょうね。


 それに奴隷は臭い。

 これはよく聞く言葉だし、間違いではない。しかし実際、黒髪黒目の一族『海の民』である自分達はこの国民に比べ臭いもなく、体臭もまったくいっていいほど無い。

 それでも臭いと言われるのは体を洗うこともなく、劣悪な環境下で働く事が多いので、自然と悪臭が付くことも珍しくない。

 なので得てしてこのように言われることが多いのです。

 自分は村に居たときから言われ続けて居るので気にもしないが、この言葉はクロを切れさせるには十分な言葉だった。


 しかし、時既に遅し!


 その酔っ払いの言葉が終わった瞬間、酒場にすさまじい轟音が鳴り響く!

 轟音の後、言葉を発した酔っ払いは忽然と姿を消していた。


 轟音の後は、酔っ払いのいた場所には何も無く、上からパラパラと木屑が落ちてきているだけ。


 木屑?


 酒場の客達はそれを不思議に思い、視線を上に向けると・・・天井には大きな穴が開き、その穴には酔っ払いの体が、力なくぶら下がっている。

 

 その一瞬の光景に、酔っ払いの連れの男達や他のお客達は呆然とする。

 ・・・一体、何が起きたのか?

 その酒場にいた多くの人間がその光景に思考を停止し、改めてその下に居た人物・・・クロの姿を見る。

 天井からぶら下がる男の下には、手をポケットに入れつつ、足を上に振り上げたクロの姿。

 この光景から何があったか一目瞭然。クロが目の前酔っ払いを瞬時に天井まで蹴り上げた!。

 常識ではありえない光景に酒場の客達は一気に酔いが覚めるのを感じる。


「ななななな」

「て、てめぇ!」


 酔っ払いの連れの男達のうち2人がその光景を見た後、瞬時にクロに襲いかかる。だが、それは自ら死地に行くの行動と同じ行為!。

 あの姿を見ても、この行動に出るのは、その光景があまりにも常軌を逸したものだったからだろう。

 その常識外れの光景に、自分達が見た物を信じられ無かった。だからこそ、その行動が2人のその後の結末を決定させた。


 そして、その時の行動自体を2人は反省、後悔する瞬間でさえ与えなかった。


「ふん」


 そうクロが軽く言葉を発した瞬間、今度は2人がそれぞれ左右の壁に吹き飛ぶ。この宿屋兼食堂は結構広く、大人数が入る場所。


 なのにクロが軽く2人を蹴れば、人間がまるで軽々としたボールのように、左右の壁の端まで一気に吹き飛び、さらに壁に大穴を開ける。

 だが、今度こそ大勢の酒場の人間は見た。あの貴族風の男が2人を蹴り、左右の壁まで蹴り飛ばしたのを!


 だが、それも正確ではない、貴族風の男の蹴りというのは、あくまで足を上げているからそう判断しての事で、その蹴った瞬間は早すぎて何も目には見えなかった。

 つまり目に見えない程の蹴りを、しかも左右に2回。体格もいい大人の男を壁まで蹴り飛ばした。

 間違いなく普通の人間にできる事じゃ無い。


 「お、おまえ」

 酔っ払いの残りの1人が、おそるおそる口を開いた瞬間、今まで天井に深々と刺さった男が落ちて来る。そして椅子やテーブルを破壊し、男の体が床に転がる。

 「まだ何か あるか?」


 クロがそう睨むと、残りの男はその場所に膝を落とした。

 男達は股間が濡れている。どうやら失禁したようだ。


 男達は自分より想像も付かない格上の人間である事を十二分に悟った、仇を討つなどという考えはその男の頭から完全に喪失し、今は自分が同様に蹴られない事を強く願うだけ。


「お、お客サン」

 その光景に、さすがの店主も口を開く。


 そして自分も、この異常事態から我に帰る

(やばい! なんじゃこりゃ クロ お前なにしてくれるん! あかんフォローせんと!!!)


「あぁすいません、ご主人様がこんなコトしてスイマセン。これ少ないですが修繕費です。あぁ宿泊も大丈夫です。前払いの宿泊費も治療費などの足しにしてください」


 自分は急ぎ金貨を店主に握らせると、クロの手を引き急いでその場を去る。

 (あぁ、大失敗だ。あんな真似人間にできるわけないじゃん、やば魔族ってばれたかも、あーーやばい、やばい、やばい!)


 自分とクロ、2人は街中を全速力で逃げる。

 「クロー!」

 「えっ、なんですか、相手は魔人たるご主人様に失礼な言葉をはいた人間ですよ。そう・・人間、あんなゴミみたいな存在に気にすることないです」

「やかましいわ。今は自分達も人間として生活することにしたんだろーが」

「あ、そうでしたね、でも緒戦は人間。ゴミっすよ。気にする事ないっす」

 クロ、馬鹿だ馬鹿だとはおもったが、ここまでとは完全に想定外だ!


「馬鹿ーーっ! とりあえず逃げるぞ」

「えっ、でも」

「いいから!」


 こうして自分達はその場から逃げ出す事にしたのだ。

無論その後クロに対し執拗な説教も忘れない。

 

 自分・・・普通の生活がしたいだけなのに・・・クスン

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