毎日の日々
・・・あかん・・・詰んだ。
そんな状況に思わず頭を抱え込む。
うふふふふ、ああははは
もー笑うしかないわ、この状況!
魔人と勘違いされてこの屋敷に連れられて早数ヶ月、何も不便もなく実に快適な生活を針のムシロ状態で過ごしております。
うん・・・そう、針のムシロw
ここは魔族の皆様にあてがわれた我が自室。
広大な広々とした部屋に、天蓋付きのベッド、床にはふかふかの高価な絨毯、他にテーブルやソファーなど1つ1つか高価な品だと分かるほど良い物が置いてあります。
1つタンスを開けてみれば、自分用の服がびっしりと詰まっております。
後、並ぶのは大量の本棚とそのなかに入った小説!
今まで村長の家で奴隷として暮らしていた生活と比べれば、いや比べるほうが失礼なほど豪華な生活をさせて頂いてます。
しかし・・・
しかし・・・
しかしっ!
現状は、そんな豪華な生活であればあるほど自分を苦しめる。
なぜなら自分はただの『人間』しかも最底辺の『奴隷』。
間違っても魔族の皆様が称え敬服する魔人などではない!
ちなみに本来の『未来の魔人』であるカタリナお嬢様は荷馬車とともに
厳重に庭の片隅に埋めて証拠隠滅しております。
後は、化けて出てこないよう願うのみ。
そんな生活の中、今も早朝から、1人自室で頭を抱えながら、床に転がり続てるわけ。
うーー
うきゃきゃきゃっ!
ついつい奇声を上げてしまう
しかし、その苦しみの原因たる内容を口に出すわけにはいかない。なにせこの館には大勢の魔族の方がいる。
人間には想像もできない聴覚や、自分の想像もつかない能力を持ってる方もいるのかも知れない。
そこで自分が魔人じゃない・・と知れたらどんな目にあうか分からない。
あー苦しい!
そのままバレて瞬殺されれば、まだ良い方だと思う。
魔族の魔法の中には未来永劫とも言える苦しみを延々に与え続ける魔法があると聞く。
そんな目に合うのは絶対に嫌ぁー、嫌なのぉ!
正直、その前に何度死のうとさえ思った事か!
しかしっ
しかしっ!
自分の部屋の前には必ず護衛や秘書役の魔族が控えているのですよ。
で、死にかけた所を治癒の魔法で速攻で治療され、
→その理由を問い詰められ
→自分が魔人じゃないとバレる
→超スーパー拷問コース
うわーーん、それはいやーー
とりあえずは誤魔化し続けるしかない!
うん、そうしよう。
後は魔神同士の戦いに紛れ戦死を装って逃げるとか、とにかく時期を待つしかない。
とりあえずは、現状をなんとか継続しないとダメ。
それにはまず状況把握から開始したわけ
まずは、他の魔人の存在や能力、天敵となる魔人、味方の魔人、今を取り巻く状況の把握。できれば魔法も覚えたい所だね。魔法を覚えれば今後逃げるのに役立つ事だし。
その点、執事であるアベルトは色々な事を熱心に、しかもわかりやすく教えてくれる。
で・・・結果、文字も覚え、魔法の拾得に
・・・・失敗しました。
うわーん!
がんばりましたよ、そりゃ毎日がんばりました、必死に集中し、詠唱も覚え、体内の魔力を活性化する努力をしてきましたよ。
それもこれも超スーパー拷問コースを回避するために!
色々試した結果、自分には壊滅的に魔力がないと分かっただけ。知識はついだけど、三ヶ月間渾身の努力をした結果、全くの無駄に終わった。
アベルト曰く、未来の魔人は元々未来予知に全能力を注いでいるから、伝統的に通常の魔法には向いてないのだと慰めてくれた。
しかし、自分は元々魔人でない、普通の人間なわけで・・・
なのでもうちょっと可能性を信じていたのだが・・・才能なんて最初からなく、人並み以下!
じゃ、剣や槍などはと、これも試してみたが、どうも人と比べ平均程度。
ゴメン・・嘘をつきました、これも平均以下です。
武力も人以下、魔力は皆無・・・・これでどうしろってw?
あぁ一応、もしかしてと思い予知の予測をしてみましたよ。今晩の夕食の予測
をかけて!
結果0勝30敗に終わりましたけどね
アハハハ!
しかたないやん、奴隷の自分がそんなに料理知ってるわけないやん、毎日想像もつかない豪華な料理じゃ それこそ予想なんて無理
あかん、予知の才能すらまったくない!
完全に詰んだ。
しかし、こんな無駄な努力を続けて居ると部下からの視線が痛いんです。
絶えず自分に対し目をキラキラさせ、憧れの目で自分を見てきます。
一体何があったの??
ただ、そんな目で見られても正直、胃がキリキリ痛むだけです。
しかし魔人に胃痛なんてあるのか??
ないんでしょうね・・・
なので、どれだけ痛くても我慢するしかない。
そのうち胃潰瘍で死ぬかもしれないけど、正直それでもアリかなと最近では思うようになってきた。
そんな時、さらに部下数人が改名を申し込んできた。
自分の『ポチ』という名に遠慮しての事だと思うんです。
なので『タマ』『ミケ』『クロ』など猫系の名前を付けたのですが、これが素晴らしく喜んでくれた。
あまりの申し訳なさに、ついつい何度も謝ったが、逆に更にキラキラとした目で自分を見るようになってきた。
本当に魔族ってのは分からない。
あー胃が痛い。
とりあえず、豪華な自室に贅沢な調度品、さらに豪華な食事や風呂など完全に王侯貴族かと思うほどの素晴らしい生活。
しかし逆に、これが仮初めの物だと思うと全てが苦痛。
もしばれたら、この反動で地獄の苦しみが待っているかと思うと全てが楽しめない。
なので、最低限の食事だけ頂いて、寝る場所も馬屋でいい、この食事も寝室も皆さんで使って欲しいとお願いしたのですが、逆になぜか好感度がドンドン上がるのが分かる。
上げすぎたハードルが高いほど、その後に奈落の底が深くなるとかと思うと・・・うっ。
とりあえず当面の問題は3つ
・そのうち何かしらの予知を行う、しかも100%当てなければいけない
・魔人は不老、今はまだいいいが、あと数年で老化を止める必要がある
・次代の未来の魔人が転生したら、指輪はそれと同時に消えるので代わりの指輪が必要・・・
うん、完全にどしよーもないね。完全に詰んだ
予知は運だし、指輪も外見だけ似せた指輪を用意するとしても、老化は無理やん。不老なんて普通の人間にできるわけない!
あーあ、
これは一か八か、試してみるしかないかなぁ・・。
この数カ月悩みに悩んで、とりあえず浮かんだとりあえずの応急的な対策を実行に移すしかない
のでは?
と頭に思い浮かべた時
コンコン
そんな時、部屋のドアをノックする音がする。
いかん気持ちを切り替えなければ。
「あ、はい」
「ミケです。朝なので起こしに参りました」
「あ、はい。どうぞ」
自分にミケと名付けられた魔族がワゴンを持参し部屋に入ってくる。
そのワゴンには顔を洗うための水とタオルが用意してあった。
「主様、朝でございます」
この魔族は『ミケ』3対となる手を持つ、見るからに強そうな魔族。コイツの名前である『ミケ』。これは自分が付けたのだが、この名前を実に気に入ってる。
奇特な奴だ。しかし、コイツも自分が魔人と思ってるから仕えてるのであって
自分が普通の人間だと知ったらと思うと・・・背筋がぞっとする。
なんだろ、事態がドンドン悪い方向に際限なく向かっていると思うのは気のせいなの?
たぶん・・・いや、きっと気のせいじゃないんだろうなぁ。
しかも加速してる気がする。
実は以前、ミケに「人間ってどう思う?」っいて聞いた事がある。そうしたら奴はこう答えやがった。
「でかい蟲」
人間なんて魔族にとっては蟲程度の価値しかないって事、そんな蟲に使われ、しかも「ミケ」なんて屈辱的な名前を付けたと知ったら・・
うっ、予想するだけ恐ろしい。
だが、それを顔に出すわけにはいかない、いつものように平然とした態度を取るだけだ。あー胃が痛い。
「あぁ悪いミケ、いつもありがとう。早速で悪いんだが、アベルトを呼んでくれないか?」
「はい、アベルト様でございますか?」
「そうだ、頼む」
自分はこの状況を少しでも回避すべく早速行動を開始することにした。
さぁ一世一代の大芝居の開始だ!