無の魔人 と 時の魔人
肥沃で広大な平地、その西にはまるで縦線のように繋がる1本の山脈。
高低さのある大小の山々が連なる山脈。
その山脈は同時に魔人の住処であり、同時に10名の魔人達の争いの場。
山脈には代表的な山は7
対しそれよりも魔人の数は多い。
その為、その山1つ1つの所有権をめぐって絶えず小さな争いがある。
勝者は山の頂に自らの城を建設し、その山を己が物として、敗者は山の中腹や低めの山の頂を住まいとしている。
現在その頂を己の城とする魔人は七名『無』『花』『氷』『鏡』『牙』『鋼』『音』の魔人
対し、敗者として現在山の中腹や低めの山に館を持つものは『黄金』『砂』そして『未来』の魔人。
その勝者の証明である山、その山頂に1つの城がある。
その城に通じる道は無く、あっても獣道程度、だがその城は死んでいるわけではない。今のその城の中にはいくつかの動く影がある。
但し、その影には翼や角、牙や鱗など人とは明らかに違う特徴がある。
ここは魔族の城『無の魔人』と呼ばれる魔人の住処だ。
その城の中に1人 深刻な顔をする男がいる。年齢は20代ほど。頭には2本の巨大な角が生え腕には無数の棘、背中に翼が生えている。
一般的な魔族の姿。そんな男こそ無の魔人、この城の主。
だが、そんな荘厳な城とは別に・・・今、男の顔はは今苦悩に満ちていた。
「むぅ、どうしかものでであーる。実に困ったのであーる」
魔人はその顔に蓄えた立派な口ひげを触りながら、思案にふけている。
そんな無の魔人の横で控えていた魔人の配下の1人執事魔族である『カムラ』が実に『面倒くさそうに』主に声をかけた。
「主よ、では何らかの行動を起こされたほうが・・・」
「そんな事わかってるのであーる。でも、それでは前回と同じなのであーる」
「はぁ・・・」
その主人の予想通りの回答にカムラはその言葉に深いため息をつく。
そう、この人物は実に面倒な魔人だ。
実際『無の魔人』は面倒な魔人として魔族の中では有名だ。
声をかければ、まず反論する。しかし黙っていれば逆に怒り出す。
カムラとしては主に忠誠を誓ったとはいえ・・・毎度のそれが繰り返されると、忠誠が毎回揺らぎまくる相手である事をいつも実感する。
「確かに前回、我輩は未来の魔人の首を跳ねた。確かに敵対し、勝利したが、よく考えれば未来の魔人など自分の城に閉じこもり、エロ本を見ててるだけの害のない魔人なのであーる」
「まぁ それは否定しませんが・・」
「じゃ、なぜそれを言わないのであーる?」
「いえ、何度も申し上げましたが?」
「知らない、我輩は聞いてないのでーる。お前の失態であーる」
「・・・はぁ すいません」
(いつも自分の都合の悪い事は『聞いてない』なんよなぁ、あぁ面倒)
「よくよく考えれば、時の魔人にその危険性を教えられ、天敵である自分が対処しただけであーる。しかし、・・・そもそも対処する必要なんてあったんだろうかと思うのであーる」
「まぁ・・・そうですね」
「なぬ? お前もそう思うのなら何故言わなかったのか?」
「いえ、そう言われましても・・・」
(あぁまたか、実に面倒だ)
「ならば今回の事態は、全部お前のせいなのであーる。進言しないお前が全部悪いのであーる」
「・・・それは何度も以前、ご忠告申し上げたじゃないですか、そしたら主は『コレで我も念願の山城を得るのであーる』と言って聞かなかったじゃなないですか!」
「それは それ、これは これなのであーる。お前が悪いのであーる」
「そ、そんなぁ そういわれましてもぉ!」
「つまり全部 私を無理やり止めなかったお前が全部悪いのであーる」
(それはご無体な!)
とカムラは思ったが、しかし・・・よくよく考えればいつもの事。反論するだけ無駄と悟る。
主の不条理な物言いに、もう泣きそう・・・。
この主人はいつもそうだ、我が主人は簡単に人の意見で動き、成功したら自分の手柄に、失敗しすれば当然人のせいにする。
実に主人としてはきつい!
何度後ろから蹴飛ばしてやろうと思ったことが!
本当に、なぜこんな主人に自分は百年以上仕えてるんだろう?
本当に自分我慢強いなぁ・・・でも、そんなのは少数派!
山を根城にする勝者であるはずの魔人なのに配下の数は30名とかな~り、数がかなり少ない。
まぁ しかたないか・・・こんな主人ですからね。
皆あきれ果てて、出ていってしまった。今頃他の魔人に仕えているんだろーな・・と思う。少しうらやましい・・・。
「今となっては時の魔人にそそのかされただけのようが気がするのであーる」
「・・・なら今回も放置しておきますか?」
「この城かつては奴の、未来の魔人の城。取り戻さねば魔人としての奴ののプライドが許さないのであーる」
「ならこの城を放棄して・・・・」
「それは自分のプライドがゆるさないのであーる」
(あーもー実に やりにくい主だなぁ・・・)
「まぁそれは自分も分かりますが・・・しかし、未来の魔人は主様の前では無力です。それほど心配しなくとも」
「そうはいってられないのであーる。奴は人間の国を手に居れそこの軍を加勢させるつもりなのであーる。
実にプライドのない魔人の風上にも置けない奴なのであーる。汚物のような人間を使うとは実に卑怯なのであーる」
(あーーもーーしかし、”あーる”、”あーる”と語尾つけるの何なの? シツコイんだけど!)
口ひげとこの『あーる』の口調で自分の威厳を出しているつもりなんだろうけど、この主人・・・あふれんんばかりの小物感オーラがすごいんだよなぁ。
何しても小物感は消せないと思うんだけど・・
「しかし、人間など我々魔族の敵ではありませんが・・・敵は未来の魔人の魔族もいますので実に脅威ですが?」
「今回の未来の魔人はやたらと行動力があって頭が切れるのであーる。引きこもり魔人じゃないから実にやりにくいのであーる」
「では人間の街に奇襲とか?」
「その間に奴にこの城を奇襲される可能性があるのであーる」
「確かに・・・そうなると動けませんね。確かに今回の未来の魔人は 実に頭が切れるようです」
「まずい・・・のであーる」
「よし、お前が考えろ!」
「えっ私がですか?」
「そうなのであーる。お前は私の部下、お前の手柄は私の手柄なのであーる」
(はぁ・・・また始まったよ・・・そうそう対策なんて思いつくわけないじゃん)
「さぁさぁ 直ぐ対策を出すのであーる」
「うぐ、、そう急に言われても困りますぅ!」
「相変わらずだねぇ。あんまり魔族をいじめちゃだめだよ」
カムラが逆ギレ気味で答えた時、突然この場に居ない第三者の声が室内に聞こえるく。
「なっ・・・誰であーる?」
「ははっ 僕だよ!
2人の背後から声がする。
驚き背後を見れは2人のよく見知った顔。
そして、こんな事態になった元凶ともいえる魔人がいた。
見た目は年端もいかぬ少年、しかし細部を見れば人間とは違う。
小人族の魔人だ。
この近隣で厳重に警備された魔人の城に突然現れる能力、そしてこんな風貌を持つ魔人は1人しかいない。
その人物を見ると無の魔人は静かに納得する。
「時の魔人か・・・いったい何しに来たのであーる?」
「へぇ、久しぶりに来たのにご挨拶だね」
「お前のせいで、このような事態になったのであーる。よくここに顔が出せたものであーる」
「へぇよく言うね」
時の魔人がそう言った後、無の魔人はカムラにそっと目配せをする。
この合図は配下の魔族を集合させよという主の合図。
しかし同時に時の魔人もこの合図の意味を瞬時に理解する。
「やめよーぜ、お互い特殊な攻撃手段もない守りの魔人同士 ここで戦っても決着つかねーよ」
「・・・・ぐっ、確かに そうなのであーる」
無の魔人はカムラにそっと目配せし、兵を引かせる。
「こんな事するために俺は来たんじゃねーよ、お前に話があってきたんだよ」
「話? しかしお前のせーで、前回未来の魔人に要らぬ恨みをかったのであーる! 責任を取るのであーる!」
「その代わりこんな立派な城を手に入れたんじゃねーか」
「確かにそうではあるが・・今回、奴は人間をつれて此処に攻め入るかもしれないのであーる。つまりお前のせいなのであーる」
「なら援軍って手はどうだ。相手が人間の手を借りるってんならこっちも借りない手はねーだろ」
「しかし人間の手を借りるなどプライドが許さないのであーる」
「人間じゃねーよ。借りるってのは魔人だよ魔人」
「魔人であるか???」
「そそ魔人」
笑顔で返す時の魔人
「しかし・・・私ならともかく未来の魔人相手では どうあがいても差し違える覚悟がいるのであーる。そんな魔人なんていないのであーる?」
「いるだろ1人、お人好しで熱血漢で、どーしよーもない馬鹿といえる魔人が、うまーく誤魔化せばなんとかなるんじゃね?」
「あ、・・・いたのであーる。確かに1人 そんな馬鹿が・・・」
そう言われ無の魔人は1人の魔人を想像する。
外見20代後半ほどの魔族型の魔人、茶色の肌を持ち、耳にピアスまでした、いかにも若者風の魔人だ。
「そそ、砂の魔人 あいつならお前が泣いて頼むならなんとかしてるけるんじゃねーの」
「いや魔人たる自分がそんな行為などプライドが許さないのであーる」
「なら知らね。勝手に死ねば?」
そんな時の魔人の言葉に無の魔人も現実を考えるしかない
む・・・自分が死ぬ、そんな事態だけは避けたい無の魔人としては、それだけは避けたい。
「うっ・・・しかし、未来の魔人にお前も狙われてるかもしれんのであ-る」
「俺は前回 裏方に徹したから表には出でてねーよ。だから向こうさん知らねーんじゃねぇの?どっちみち直接 殺したのはテメーだろ? まっさきにテメーが狙われるのは確定だ」
「ぐっ! 卑怯なのであーる」
「ほれほれ、選択肢はねーよ。とっとと砂の魔人と交渉しなよ」
「お、覚えているのであーる。今度未来の魔人を始末したら、今度はお前番なのであーる」
「はいはい、楽しみにしてるぜ、じゃあな」
そう言うと時の魔はその場から瞬時に消え去る。
どうやらお得意の時間停止による移動だ。
時の魔人が去ったあと、時の魔人は配下の者に声をかける。
「砂の魔人と連絡は取れるのであーるか?」
「はい、一応最近ねぐらにしている場所は知ってますか・・・」
「なら急いで連絡を取るのであーる」
「よろしいので?」
今回も時の魔人の言うがままに行動しているのだが、いいだろうか?
カムラとしては少々心配になる。
「ともかく、動いてみるのであーる。砂のやつは馬鹿だから多分なんとかなるのであーる」
「はぁ・・・畏まりました」
カムラとしては『本当の馬鹿はお前じゃないのか?』と思いつつも主人の命令には逆らえない。
急ぎ、砂の魔人と連絡を取るためその場を後にする。