カウントダウン
二十代最後の、あの頃の私に贈る。
初めて会ったとき。
その眼差しが、怖かった。
でもいつからか。
逃げるのをやめて、受け止めるようになって。
いつのまにか。
手繰り寄せて、絡ませていた。
堕ちるまで。
カウントダウン。
スリー、ツー、ワン。
どちらが先に落ちるか。
ーー賭けてみるか?
揶揄い混じりの視線を寄越されて、小さく火花が煌めいた。
自信たっぷりの口許が微笑ましいと思ったことは内緒だ。
もう、とっくに堕ちていた。
年上の癖に時折見せるやんちゃさや、余裕があるようにみせて実は焦っている姿だとか、そんな欠片をひとつずつ集めるうちにいつの間にか。
鋭かったあの瞳も繊細な硝子のように見えて。
目が離せなくなって。
本気になった。
駆け引きなんて、もうどうでもよくて。
ーー本物の恋をしたいと思った
あの人は刹那の熱を楽しんでいただけ。
でも私はそんなものを全て跳び越えて、一生忘れられない煌めきを魅せたい。
燃え尽きたい、そう思ったのだ。
だから。
仕掛けられたフリをして。
その目をとらえて手を握って。
それからの日々を一気に駆け抜けた。
そんな目眩く日々は、瞬く間に過ぎさって。
ある夜。
肩を抱き寄せられ、見つめあった。
瞳を探り、その奥に互いの存在を確かめた。
けれど。
身体は繋げない。繋がれない。繋ぐわけにいかない。
でも、それでよかった。
焦がれるほど熱く、蕩けるほど甘く。息もつけぬほどに。
あの刹那、見つめ合った瞳の奥で私達は魂という生を交わしたのだ。
結局。
その後の関係は、あっけなく終わりを迎えた。
あの人は、去った。
けれどもやはり、それでよかった。
あの夜の眼差しがあれば、それでいい。
カウントダウン。
出会いは別れのはじまり。
結局、この世は泡沫なのだ。
それでも。
一瞬でもそこに熱が生まれ、同じ生を交わせたのなら、これ以上なにもいうことはない。
カウントダウン。
ほら。
次の出会いがまた、私を呼んでいる。