開口
そして俺達は追いついた。
私は遂に見つけた。
03.「開口」
それは一匹の小さなバケモノだった。
小さなバケモノは己と同じ大きさの円形の物体を見つめ、クルクル回して眺めやがて飽きたのか円形の物体を真上に投げた。
円形の物体は少し高く回転して空中に滞空すると重力に従って落ちていく。
小さなバケモノは己の上に落ちてくるそれには無関心でぶつかる手前に思い出したかのように頭から口のようなものが開きひと噛み、半ばまで喰われたそれは地に落ちぐしゃりと潰れる。
小さなバケモノは咀嚼を続けながら新たに興味を引いている自身の座る物体に小さな手を入れる。
引き裂く音と掻き分ける音、潰れる音裂ける音。
やがて小さなバケモノは物体から塊の何かを引き出して(ブチブチと音を立てながら出されている)見つめる。
「aAはEな⁉︎」
謎の奇声を上げて口のようなものを開くと塊にかぶりついた。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も欠片も残さない位に食べ尽くす。
小さなバケモノは次の物体へと興味を移す。
それは一部を欠損している何かのシタイ。
小さなバケモノはまた小さな手をシタイに入れ、何かを探す。
それの繰り返しだった。
小さなバケモノが座るのは小さな山、それは一様に黒一色で小さなバケモノも黒い為とても解りづらい。
山を形成するのはどれも一部を欠損したシタイの山だ。
全て、こいつがやったのだ。
ほんの数分前の私の指示した結果だ。
なんなんだこのハグレは。
私が町の結界を壊し、僕を突入させて人間を喰らわせることが目的であった。
今回はいつもと同じく人間達は慌てふためき、相当数贄に出来たはずだった。
だが、始めの一匹がノロマな子供を喰らおうとした時、そいつは現れた。
そいつの姿は小さな猿に似ていた。
猿は始めの一匹の頭に飛びつくと何をしたのか簡単に頭が取れた。
猿は子供の方に倒れかけるシタイを蹴って別の場所に倒すと仰向けのシタイの上に着地し取った頭を眺めてから口を開いて丸呑みにした。
体積に合わない筈なのに呑み込んだものをゆっくり嚥下して、
『ハハhaHAはハハハハハ』
まるで餓えを満たしたような歓喜の声を猿は上げている。
私は困惑する、自分の命を聞かない異形の生物(猿)に。
猿が少年を見る、少年は恐怖に突き動かされ涙流しながら逃げ出した。
「何者です?私達を魔王様配下の者と知っての妨害ですか」
私は問う。
私の問いの返答に猿は首を傾げ尾で?
死に去らせ!
「たく、無知なノラ、ハグレが!お前達、彼奴を喰え!」
私は指示を出す。
目障りな障害物をどかす為に。
僕共が一斉に飛びかかりシタイごと猿を潰す。
これで終わったと思った。
だが、それは一瞬だった。
シタイを四方から囲んで殴り続けていた四体の頭が跳ね上がり、動きが止まる。
次は三体の僕の胴体が二つに分かれる。
僕共は近いて殴り、蹴り、噛みつき、潰すを繰り返すが頭と胴体を切り離される方が早くなる。
「お前ら止まれ!」
私は慌ててまだ突撃していない僕共に指示を出し止めさせると、
『mお…RE?』
猿の虐殺は止まった。
そうして出来たシタイの山は言葉通りに山にして積まれている。
猿が腑分けして食べるを繰り返すのを私は見ているだけしか出来なかった。
俺達が到着する頃には相応の被害があることは確定していた。
狂獣の進行速度次第では外周区の三分の一は喰われいるだろうが仕方がない。
手持ちの武器(小銃)ではあまりに貧弱、近接武器、狙撃武器等を部下や警邏に行き渡るまでに時間をかけてしまった。
そうして俺達は地獄絵図の広がる筈の外周区へと到着した。
周囲には何かを咀嚼する音が木霊を脅えさせる。
皆が一様に緊張感を高める中、偵察して来た部下からのありえない報告で俺達はその場に突入した。
そして、小さなバケモノがいた。
小さなバケモノが黒い小さな山の上に座って何かを咀嚼している。
ガリッ、バリッ、時折硬い音が鳴りそれが遠くまで聞こえてきた音だろう。
「ヴァン、向こうを見て下さい」
小さなバケモノに注意が向かっていた俺にガキが服を引っ張り指し示した方を見させた。
そこにはこの町に寄った当初の目的の人物、敵の幹部がいた。
敵の幹部は背が低く汚れた黒の髪が肩辺りで乱雑に切り揃えられ、右の眼球が真黒の少女だ。
本当に、人間の少女だった。
少女の後ろにはあまり数は多くないが狂獣の群れが控えている。
奴等が目の前の少女に襲いかからないのは少女が奴等を操っているからだろう。
少女らは動きがない。
少女らはただ一点を放心したように見つめている。
それは俺達と少女らとの境界を作る一つの小山。
俺達が来ても意にも介さず無心で食べるバケモノを。
そして気がついた。
小山を構成する土台には全く動かない狂獣のシタイに。
狂獣、とは生きる者を喰らいその精神と魂のみを吸い取り残った肉袋は吐き出す。
狂獣はシヌ時はシタイを残さず塵となりて消える。
塵となりて消える、その筈なのだが、シタイが消えず、塵にならず、小山となりバケモノに貪り喰らわれる。
その様な不思議なことを起こしつつも少年はただ食べ、喉に詰まる大きさの塊を嚥下する。
だいぶ満ち足りてきたようでグーグー止みました。
今の状態では食べ辛いので少し変えましょうよ。
良し、では、変☆身。
はい、お願いいたします。
ゴクンッ、大きな音を立て嚥下したバケモノは静止してから次第に身体を溶かし、水の様になると小山を包む。
不揃いだった形の小山はきれいなに整えられて次第に縮み始めた。
ごきり、ばきり、メシメシ(美味い)。
砕かれる生々しい音を響かせ小山は小さくなっていき、やがて小さな球状になり地面に転がった。
水とも生物とも違う、金属のような落下音を発てる玉。
不意に、誰かがそれに近付こうとした時、玉は爆発したように盛り上がる。
突然のことにその者は足を止めた。
また水の様になると形を取り始める。
犬、鳥、蛇と様々な形をとろうとするが崩れまた新たな形をとる。
今度は人形、崩れては作り直し崩れては作り直しを繰り返してやっと、様になってきた。
小さなバケモノは人形のバケモノへと、小さな進化を遂げて産声を上げた。
『やった、やっとここまで戻れた、あー死ぬかと思った〜、腹減って』
全く緊張感のない少年の声で。