空腹
7月27日、学生達は夏期休暇により数多くの子供が平日の街道や公園を駆け回る。
そんな光景を少女は見つめている。
羨ましそうなその様子は歳相応だ。
それでもその少女は普通ではない。
少女の周りには黒い霧の様なモノが全身を覆う異形の生物達が控えていた。
少女は掲げた腕を振り下ろす、それは指揮官が兵士に突撃の号令を出したかのように異形の生物達は動きだした。
街に異形が足を踏み入れた時、街灯に取り付けられたスピーカーから大音量で警報音が鳴り響く。
子供達は不思議そうに立ち止まっている。
やがて、異形は子供達のいる公園へと現れた。
近くにいた大人は大声を張り上げて子供達を誘導し始めるが、最後尾にいた男の子は自分の周りがいきなり暗くなってしまったので周りを見て、最後に上を向いた。
そこにはただ、黒い世界が広がっていた…。
01.「空腹」
グーグー、鳴り止まない。
目も回って足取りも重い。
も、ダメ。
そうして自分は倒れてしまった。
「……かー?………もし?……か?」
カモシカ?
頰を軽く叩かれる感覚と誰かの声が聞こえた。
でも起きられない。
まだグーグー鳴ってる。
鳴り止まないと考えられない。
「ダメ……。…ませんし、…に続けても、……………はい、すいませんでした」
謝った?
頰を叩かれる感覚は消えてなにやら話し声がしますが、先程よりは全然聞こえない。
少し時間が経った頃、美味しそうな匂いがして、ぐーぐー鳴って目が覚めた。
力が入らないから起きられないのでくるくると目だけで辺りを見回すけど、知らない天井しか見えない。
トテトテと、誰かが近づく音がして自分の近くで止まってこちらを覗き込んできたので自分の視界いっぱいに、個性的な顔立ちのオニーサンが映る。
「目が覚めたか坊主、飯、食えるか?」
訂正、凄く優しいオニーサンである。
自分はなんとかコクコクと首を動かして答えた。
起きれるか?とオニーサンが聞いてきたけどすいません、全然無理です。
フルフルと首を振り意思表示、これ伝わる?
「無理か、じゃあちょっと待ってな、すぐ飯持ってくるからよ」
伝わりました。
オニーサンは自分の視界からいなくなって、離れて行きます。
わざわざ取ってきてくれるのでしょうか?
やはり凄く優しいオニーサンだ。
「おおっと!その必要はありませんよヴァン、何故なら私が既に持ってきましたから」
?もう一人居ました?
「お前なぁ、はぁ、まぁいいがよ、なんかあったら声上げろよ?」
「ハイ、分かってますよ」
声高いですね〜、若い人?
「どうもです!気分はどうですか?」
覗き込んできたのは声の高い銀髪っ娘。
「いい?悪い?とりあえず私に看病されてください」
なんだろう、この人の押しの強さ。
とりあえず力任せにスプーンを押し付けないで、口開けるんで。
「いっぱい食べてくださいね」
ちょっ、まだ飲み込んでがふ。
む、きゅう。
目が覚めて身体を起こして伸び伸びします。
あ、身体動く。
グーグーは鳴ってるけどぐーぐーは止んだから大丈夫になったのかも。
「坊主、大丈夫か?」
声のした方を向くとオニーサンがいます。
そのとなりには何故か正座している銀髪さん。泣いてらっしゃるみたい。
「おい、坊主起きたぞ、サッサと謝れ」
「ごめんなさい〜」
え?いきなり土下座されてもなんのことですか分かりませんよ?
「いい加減な看病してごめんなさい〜」
看病…あ、ちょっと思い出した。
あんまり気にしなくてもいいですよ、助けていただいただけで感謝感激…喋ってなかった。
まだ声出せないの?
のでジェスチャーで伝えられたらいいのになぁ。
とりあえず首を横に振ろう。
「許さないですよね」
あれ、伝わってないな。
もっかい首振り。
「気にすんな、てか坊主?」
コクコクですよオニーサン!
とりあえず、自分の意思を理解してくれる優しい(ここ大事)オニーサンのおかげで会話?できました。
自分は町外れで倒れていたところを銀髪さんが見つけてオニーサンが運んでくれたらしい。
銀髪さんは私が助けますと意気込んでいたのですがカラ回りしてしまったようで。
この町(名前聞きましたけどすぐに忘れてしまった)にはお二人共仕事できたそうです。
お二人には何故町外れで倒れていたのか聞かれましたが、自分、お恥ずかしいながら空腹で倒れたとお腹辺りをさすってバタンキュすると理解してもらえました。
「良かった、狂獣に襲われた訳ではなくて」
狂獣?何ソレ?
「不思議そうな顔をされてもな、坊主もまさか狂獣を知らないとはないだろう」
いや、知らないです。
ええい伝わって首振りぃ。
「だよな」
やばい、伝わってない。
「俺たちはその狂獣を…」
その時に感じた。
空腹を。
胸の高鳴りを。
喉が渇く。
身体に力が漲らない。
だけど使い方は知っている、教えてもらってる。
「ヴァン、彼の目が⁉︎」
「坊主、そいつは」
突然町に鳴り響く災厄を告げるサイレン、それは狂獣の襲来を意味している。
「んな時に!」
二人がサイレンに気を取られた僅かな間に少年は駆け出したのだ。
黒い霧を纏いながら。