あるコンビニ店員の役得
「……あの、すいません」
蚊の鳴くような声に気が付いてレジカウンタに向かうと、そこにいたのは眼鏡をかけた地味な少女だった。着ていた制服から近くにある学校の生徒であることが窺える。
レジに商品を置かれていることからどうやら精算待ちの客のようだった。
「お待たせしました……っ!?」
俺は商品の精算を行おうとしたが、そこにあったものを見て一瞬ぎょっとした。
レジカウンタに置かれていたものの中にコンドームがあったからだ。
最近の子は大人しそうな顔しておいてやることはやってんだな……と内心で呆れながらも顔には出さずに商品を取ろうとして再びぎょっとする。
コンドームの他にそこにあったのはお菓子だった。
しかしそれはただのお菓子ではない。
透明で規則的な凹凸を持ったプラスチック容器にいくつかの小さなグミが入っているというものだった。
若い子の中ではこれを使って自分を慰める人がいると風の噂で聞いたことがあるが、まさかこの少女もそうなのだろうか。
バーコードを読み取りながら少女の顔を盗み見すると、少女は顔を赤くして俯いていた。
「……円になります」
俺が会計の値段を伝えると少女は思い出したかのように慌てた仕草で財布から小銭取り出した。
預かった金銭をレジに入れてお釣りを取り出す。
「……円のお返しになります。ありがとうございましたー」
レシートとお釣りを返却してコンドームとお菓子が入った袋を渡した俺は、礼の言葉と共に軽くお辞儀をした。
このまま店を出ていくんだろうな、と思っていたが、なんと少女は店から出ずに店の奥、トイレがある方へと向かっていった。
こ、これはまさか……?
少女はトイレの横にある貼り紙を見ると再びレジに戻ってきて、
「す、すいません。トイレ、お借りしてもいいですか?」
と赤い顔で訊ねてきた。
そう、この店にはトイレは店員に一言かけてから使うというルールが存在するのである。
横にある貼り紙はそのことについて書かれていた。
「あっはい、ごゆっくりどうぞ」
思わず本音が出てしまった。普通はトイレの許可にごゆっくりだなんて言葉は使わない。
少女はぺこりと軽く頭を下げると足早にトイレへと向かっていった。
トイレの中ではいったい何が行われるのだろうか。
レジカウンタにいる俺には知る由しもない。
三十分ほど経ち、少女がトイレから姿を現した。
少女の顔には陶然とした表情が浮かんでおり、足下は少々おぼつかない様子であった。
少女の肌には、激しい運動をした後のようにうっすらと汗が浮かんでいる。
その汗で肌に髪が貼り付いており、妙な色気を醸し出していた。
少女は俺と目線が合うと羞恥の表情を浮かべて軽く頭を下げ、足早に出口へと向かっていった。
「ありがとうございました~」
少女によって自動ドアが開くと共に俺は感謝の言葉を店内に響かせた。
夏場ってトイレで用を足してるだけで汗かきますよね。もう秋ですけど。