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走らなくなったカサコソ  作者: 東永尋
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「竹内、俺と付き合──」

「ハブとマングースが仲良く抱き合ってる!!」

「っど、どこ!?」

 突如上げられた通る声と共に、ざわめく周囲。

 ちょっと待て。

 ネコ科の哺乳類とヘビ科が抱き合ってるって、どう考えたって締め上げられているマングースが不利じゃないのか? いや、それ以前になんて危険地帯だ。ココは学校だぞ。

 頭にクウェスチョンマークを貼り付けていれば、いつの間にか校門から離れており目を剥く。

「……瞬間移動?」

「バカキヨ! 逃げるぞ」

「浩平? え、逃げる?」

 なぜか怒鳴られ宙を浮いていた身体を降ろされ、直後問答無用に腕を引かれる。

「いいから行くぞっ!」

「っちょ、……え?」

「待てっ!」

 逃亡した清久たちに気付いたのか、背後から無数の足音が重なる。

「また前みたいに連れ込まれたら、どうするつもりだっ!」

 いつぞやは顔も知らない先輩数人に体育館倉庫に担ぎこまれそうになった。アレも確か、異変に気付いた浩平に助けられた。

「……勘弁してくれ」

 片手で顔を覆った清久は呻く。何が悲しくて同性に迫られなければならないのだ。俺はストレート。筋肉よりやわらかい胸を、デッカイ男よりもかわいい女の子の方が好み。

「竹内! 諦めないからな!」

 叫ばれた言葉に振り返る。豆粒のようになっていくバスケット部の面々に首を傾げる。

 何を?

「……あ、」


 総てが小さくなる。ぐんぐんと。


 まるで、後ろから巨大な掃除機か何かが吸い込んでいくように。


 真横を通り抜けたはずの草木は、すぐに飲み込まれて彼方へ。


 無風だと暑くてグラウンドで腐っていたが、今は違う。


 ぶつかる風の壁を、鋭利に切る。


 風を縫うようにして飛ぶ矢の様に、爽快感を。


「前見て走れ」

 走る……?

 浩平に導かれつつ、口の中で反復して目を見開く。

 沈みゆく夕焼けをバックに、清久の手を引き満足そうに口角を上げる姿。


 ──あぁ、そうか。


 こんなにも、こんなにも楽しかったのに。ソレを俺は止めたのか。


『靭帯(じんたい)を傷つけて』

『日常生活はできるが、運動はもう──』

 複数の大人たちの無神経な言葉と共に、項垂れた最愛の兄の姿が蘇る。

『走らない。俺も、もう走らない!』

 眩しい浩平から目を背けるよう、清久は視線を下げた。




「っし、ぬ……っ!」

「体力ないな」

 息も絶え絶えな清久とは対照的に、友人はケロリと答えた。立っていることもできず、他所様(よそさま)のブロック塀に背を預けてへばる。考えてみれば、日々部活に励んでいる選手と一年ロクに運動していない人間だなんて、体力も筋力も雲泥の差がある。

「ぬるくなったけど、飲むか?」

「サン……キュ」

 差し出されるスポーツ飲料に生命を吹き込まれる。他人の物であろうが遠慮なく水分摂取し、今度は準備よく放られるタオル。

「やっぱり、キレイだな。フォーム」

 そりゃ、国体出たり大会新記録出す位の兄貴追っかけて、仕込まれたからね。

 苦笑だけで返せば、更に言葉を重ねられる。

「楽しかったろ?」

「……」

 答えないだなんて、肯定したも同じ。汗を拭く振りをして逸らす視線。

「……入部しろって?」

「部活に? キヨと一緒にできたら、退屈しないだろうけどな。ソコじゃなくて、嫌いで走らなくなったんじゃないって解っただけでも、俺はうれしい」

 意味が解らなくて、微笑んでいる友人を見上げる。

「勿体ないな、とは思う。でも、キヨが好きだから、無理強いはしない。ただ、一緒に──ヤバッ!!」

 声を上げて、自分の口を塞ぐ友人を仰いで、次いで伝染したかのように清久の顔も火照る。

 今、なにを?

 とんでもないことを言われたのではないだろうか?

 遅れて気付いた頃には若干復活を果たしたのか、それでも普段よりは赤い顔で友人はひとつ咳払いして宣言する。

「もう、いい。もう隠さない。俺はキヨが好きです」

「……俺、男」

「知ってる、そンくらい」

 何を今さらと呆れられ、小突かれる。

「文句言いつつも付き合い良くて、時々ビックリするくらい真面目に走ってるヤツラを見てるのも知ってる。そんな清久がかわいいし、恋愛感情で愛おしい」

「……こー、へい。俺、」

 張り付いた喉で声を絞るも、真剣な眼差しで己を射る彼に明確な言葉では表せなくて。

「別にキヨからの返事が欲しい訳じゃない。溢れんばかりの俺の想いがあるってだけ。自己新塗り替えるくらい、愛で跳びますし? ホントはもっと雰囲気出して言いたかったけどな」

 ハハッと笑って、頭をかき回される。

「ただ、一緒に走れればうれしいなと思っただけだ。──じゃあな」

 いつの間にか清久が借りているアパートに着いており、手を振って小さくなる背を呆然と眺める。

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