金月と一華の場合。=5=
一華と金月は三ツ葉屋からの帰り道を歩いていた。
「何処行きたい?って聞いて、特売って答えるのは、何か面白いね。」
心底楽しそうに笑う一華の横を金月は三ツ葉屋の袋を持って歩いていた。一華が持つと手を出してきたが、コレは良いと断った。
「なぁ、あなたの家ってどんな所なんだ?」
「小さい一軒家。」
一華が尋ねてきたことに金月は即答した。
「家族構成は?」
「兄三人、妹一人。」
淡々とした調子の金月に一華は益々興味が湧いてきた。今まで周りに居なかったタイプの人間だ。
「飯食ってけ。」
「え?」
「どうせ、4人も5人も一緒だ。」
少し見上げ、金月が一華に向かってさも当たり前かのように言う。
「い、いいわよ!数時間前まで見ず知らずの人だったあなたの家にお邪魔なんて出来ないわ。」
驚きすぎて声と口調が元に戻ってしまった一華はあたふたと落ち着きが無くなってしまった。
「第一、私があなたを引きずりまわしちゃったわけだし…私があなたに何かお礼をすべきなのであって、あなたが私に気を使うべきでは無くて…」
「じゃぁ、飯食ってって。」
ぽかんと、つい一華は足を止めてしまった。
「お願い。」
淡々としているうえ仏頂面だが、真っ直ぐと見つめてくる目と声に一華は金月の言葉に甘えることにした。
「…。」
「…ふーん。」
そして少し後悔した。
一華は銀髪ポニテの美青年に詰め寄られていた。
顔を覗き込まれ、まるで前にテレビで見た品定めされている築地のマグロのような気分だと一華は思った。
ひとしきり見たのか青年は軽く息を吐くと目を一華の後ろにいた金月へ向けた。
「金月、こいつ何?」
買い物袋を金月から受け取り、顔に似合わない口調でしかも親指を一華に向けて声を掛けた。
「…藤堂一華。」
「…あぁ、そう。」
何が『そう』なの!?と思う一華。青年はそれっきり興味を無くしたかのように二人を無視して土間の方向へ消えて行った。
「クガネくん。今の人は?」
「…紅月雪音」
「関係は?」
「雪音は二番目の兄。」
縁側を少しいき、金月が振り返る。「こっち」と目が言っている為、一華はそれに従った。
一華は数時間の間に何となく金月のことがわかってきていた。
大して大きくもない庭は綺麗に揃えられ、池には絶えず水が流れており、大きめの岩には緑の苔が生え、松の木には針葉が生い茂っている。
つい見入っていた一華は障子を開ける音にハッとした。
「あり?」
「あ…」
赤い髪の青年が一華のすぐ後ろにある部屋から出てきた。
「…金月ー、お嬢ちゃん此処に置きっぱやでー」
角から金月がやって来た。
「秋紅兄さん。」
「置いてったったらあかんやろ?・・・てか、なんやその格好めんこいなぁ」
「それ関西弁じゃない。」
「はははっ気にしたあかんで?」
金月の頭を上からぽんぽんと叩き、軽く手を振りながら去って行く。
「雪音兄ぃ手伝ってくるわー、一華ちゃんのことちゃーんと連れてったりーやー。」
飄々と言う言葉が似合いそうだと一華は思った。
と、いうか…
「あの人…何で私の名前…」
金月に付いてやってきたのは少し大きめの座敷の居間だった。
テレビ、電話、棚、机がある。
家に来たときは何やらレトロな気がしていたがそういう訳ではないようだ。近代的な物も多い。
「座ってて。」
そういうと金月は部屋の奥にあった襖を開けて出て行った。
金月が居なくなると一華は部屋を見回した。一般的な掛け時計、天井近くにある四神の美しい彫り物。何か不思議な世界に来て、不思議なことが起こる。そんな予感がした。襖ががらりと開いた。
金月が帰って来たと思い、振り返る…が、そこにいたのは黒髪の大人しそうな女性だった。
「あ…」
戸惑った様子の女性は一華を見た瞬間オロオロとし始め、戸を閉めようとした。
「待って!貴女、金月くんの妹さん?」
引き止めるように声を掛けると、閉め掛けた戸を少し開け、恐る恐る顔を覗かせ、コクリと頷いた。
か…可愛いっ!
一華の心臓はその瞬間、可愛らしい金月の妹…雪春に射抜かれたのである。