金月と一華の場合。=4=
周りを気にしながら、やってきたのは服屋だった。世間に興味の無い金月も名を知っているような有名かつ、黒を基調とした何処か高級感漂う店だ。
一華と名乗った女は、金月の腕を掴んだままその店に堂々と入った。
「コレとコレ…あと、アレも。」
店員に入るなり指示を出し、金月をジッと見つめた。
「あなた、線が細いけどある程度筋肉はついてるわね。それでも細っこいけど。」
下から上まで舐めるように見られ、金月は軽く眉間に皺をよせた。
…どうでも良いから、特売終わるって。
店員が不機嫌そうに一華が指示した通り服を持ってくると、一度合わせてから全て会計へ出した。
「そのまま着ていくから、タグ取って。」
上着を脱ぎ、ポケットから財布を出しながらそう言う一華にタグを全て取り終えた店員が不機嫌さを表に出しながら口を開いた。
「お客様。私どもの店は現金一括払いとなっております。今回、会計金額が15万を超えておりますが、お
支払い頂けるのでしょうか?お支払い頂けない場合は学校様と親御様へ連絡致しますが…」
敬語を何とか保っているが、店員は帰れと目で語っていた。そんな店員を一華は睨みつける。
「あなた、私を舐めているのね。現金一括?会計金額は17万9900円…はい、これで良いわね。」
一華は財布の中から現金で20万円出した。店員はギョッとしている。
「あら、ごめんなさい。私ったら2万100円も多く払ってしまったわ。ごめんなさいね。お釣りは要らないわ。」
タグの取られた服の幾つかを金月へ渡し、着替えて来てとドレスルームへと押し出した。
金月は無言で一華に言われた通り服を着替えに行った。
面倒臭い…
もとから金月はとても中性的な容姿をしていた。身長は男としては低く、線も細い。性格は雑で無感情で表情はほぼ仏頂面。…だが、髪が長い為女性に見られることも多々あった。雑な金月は服に興味が無い為、服を選び買ってくるのは大抵妹で、そのせいか中性的な服ばかり着ていた。
だから…
金月は中性を通り越して女性的な服の裾をひらりと揺らし、首を時計へ向けた。
あと、30分…
「店長に藤堂一華が次の会議でよろしく。って言ってたって伝えといてね。」
悪魔的な笑みを向け、同じく着替えた一華は金月の腕を引いて店を出た。
先程まで着ていた服を紙袋に入れて一華が持っていた。
金月が紙袋へ手を伸ばすと一華が金月の手を叩き落とした。
「駄目。今から、君は僕の彼女なんだから。」
ビシッと音が付きそうな勢いで金月へ人差し指を向け、一華は金月の耳元に口元を寄せた
「?」
「嫌かもしれないけれど、その方があいつらを欺けるから…」
理由をそっと告げる。
一華は自分より幾分か小さい金月の頭を撫でながら離れた。
「さぁ、次は何処に行きたい?」
声を少し低くし、金月の手を握った。金月は一華をジッと見つめた後、小さく口を開いた。
「…特売。」
「え?」
「三ツ葉屋の特売…18時まで。」