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少林寺

いつからだったのか…その始まりは定かではない…


誰が始めたのかもわかっていない…


各国の実力者の元にだけ使者が現れ…招待されるのだと言う…


オリンピックやテレビでやっている格闘技の試合や大会などではなく…


ソレは突然やってくる


どんな名誉か…どれほどの富を得るのか…その全てがベールに包まれている…アルティメットバトルトーナメント…その詳細を知る者はいないが、それが確かに行われてる事を知る人はそう呼んだ。



格闘技が好きな人なら知らない人はいないほど、有名な雑誌『マーシャルアーツマスター』の記者サラもアルティメットバトルトーナメントと呼んでいる。

が、いつ開催されるかもわからない、出場者もわからなければ追跡して取材する事も出来ないので、一応名前は知っていると言う程度で、いつもの世間で知られている格闘技の取材に追われていた。

サラは記者にしておくのは勿体無いほどの美人でスタイルもトップモデルにも引けをとらない。マスコミ関係にも携わっており、非常に人気のある記者だ。

そんな彼女はある事に気が付いた。今は異種格闘技戦が人気であるが、そのなかで中国拳法の選手が出ていない。中国武術はそのほとんどが門外不出だからかと言う思いも勿論あったが、最近の格闘技界はマンネリ気味なので歴史があり武術の発祥元とされる中国武術界から選手発掘の為に取材しようと考えた。

そんな中で思い付くのはやはり少林寺である。もっとも歴史がありガードも固いのは容易に想像がつくが、それが彼女のやる気を煽った。


「なんでもっと早く気が付かなかったんでしょうね」


彼女は軽く微笑みながら言った。

デスクの上に散らばった原稿や書類を慌ただしげに整理し。


「明日早くでるわよ!みんな早く帰って支度してね!遅刻は許さないわよ!」


と、いたずらっぽい微笑みをして走り去って行った。


取材クルーの面々は呆然とした顔で全員

「ああ…」



またか…と諦めた表情でそれぞれ散らばった。


中国河南省崇山少林寺。広大な自然の中に佇む少林寺…独特な存在感を発揮している。仏の道を進む僧侶と武芸に励む僧侶が混在している。カンフー映画に出てくる様な、そのままの姿にサラは感動していた。

建物の素晴らしさにしばらく心奪われていた彼女だったが、我に帰りカメラマンやアシスタントなどを待機させて一人で取材交渉に少林寺に入っていった。

正面の門は開いていて、そこに門前を掃いている修行僧が数人いた。全員まだ若い感じで、穏やかな顔をしている。

サラが近づいて一番近くにいた僧侶に話しかけた。

「こんにちは」声をかけられた僧侶は爽やかな笑顔で挨拶を返した。

「こんにちは」サラは続けて話した。

「少林寺の武術についてぜひ取材させて頂きたいのですが、どなたに許可をいただけば良いのでしょうか?」


と言った瞬間に話しかけた僧侶以外の近くで掃いていた僧侶達は奥のお堂の方に足早に去って行った。

サラは門前払いかと思ったが違っていたようだ。カメラマン達を見て話しかけた僧侶が口を開いた。

「あの方達があなたのお連れの方と思い、皆が大僧正様にお伝えしに行ってくれたのですよ。」


と、にこやかに話してくれた。

どうやら話くらいは聞けそうな雰囲気だ。

程なくして、先ほどいた修行僧達と共に一人の立派な袈裟を着た老人が現れた。

「ラウ老師」


と、目の前の僧侶とその周りの僧侶達がその老人にお辞儀をした。

大僧正ではなさそうだ。

そのラウ老師がサラの前に歩み出た。

「お話は伺っております。大僧正様の元へご案内致しますので…お連れ様もご一緒について来てください。」

優しそうな微笑みを浮かべている。

案内されるままついて行っていたサラは、思い出したかのように老師の目がおかしい事に気付いた。目の黒目の部分が白いのだ。これで目は見えているのであろうか?見えてないとしたら…良く普通に一人で歩けるな…などと考えてしばらく黙っていたら

「あなたが今考えているとおり、私は目が見えていません。ここでの修行で心の目を得たのです。」

と、再び優しい笑顔で話した。

サラは何も言っていない…心を読まれた…少林寺の僧侶は自分たちの想像を遥かに超えていると、最初から思い知らされた気分にもなったが、サラの好奇心は絶頂にまで一気に駆け上がった。

ラウ老師が立ち止まり、サラの方に振り返るとサラの正面には大きなお堂が目に入って来た。


「中へどうぞ」


ラウ老師が言った。お堂に入ると正面に大きな仏像があり、その正面に立派な袈裟をきた僧侶が三人、部屋の両端に数人の仏門の僧侶達がいてお経をあげている。

しばらくしてお経がやみ、サラ達の方に向き直った。正面の大きな仏像の前に三人の僧侶の真ん中にいる僧侶が大僧正だ。

「遠路はるばるご苦労様です。大僧正のロウエンです。」


サラも挨拶を返す。

「はじめまして、私マーシャルアーツマスターと言う雑誌の記者をしております。サラと申します。よろしくお願いします。」


ロウエン大僧正はサラが何を聞きたいのか分かっていたらしく、話始めた。


「ここにいる僧侶達は二種類に別れています。仏の道を求める者と武芸の道を歩む者です。

仏の道を求める者はその生涯をここで過ごします。武芸の道を歩む者は最終試練を終えると下山して自分の人生を進みます。少林寺の武芸を学んだ者が格闘技の試合に出ないのは必要がないからです。仏門にしろ武芸にしろ、己の為に修行を積んでおり、自分の力を誇示する為ではないからです。ご納得いただけましたかな?」


サラはこの答えがくるのは分かっていた。

仏の道を歩む者が、娯楽の為に戦う訳がない。しかし、下山した者なら出てもいいと言う人もいる可能性もある。サラは聞いてみた。


「下山した人は自分の人生を歩むと言う事は、その人が出場してもいいと言えば参加させても問題ないんですよね?」


ロウエン大僧正は微笑みを崩さずに答えた。


「その者次第ですね。ただ下山した者を探すだけでも大変ですし、習ってもいない者が自分で語ってるだけの輩も沢山おります。本物を探すのは非常に難しいのです。」


広い中国で限られた少林寺の下山者を探すのは絶望的だ。


サラは肩を落として大きなため息をついて、駄目なのは承知で最後のあがきをしてみた。


「今現在修行中の方を出場させて頂くなんて出来ませんよね…?」


ロウエン大僧正は相変わらず優しい面持ちで答えた。


「修行中の下山は戒律によって禁止されております…お力になれずに申し訳ない。時間に余裕があるのでしたら、私自らこの少林寺を案内させていただきます。」


サラは、大概の場合今までこのようなケースは幾度となくあったが、今回ばかりは不思議と悔しさもなく自然に諦められた。

せっかく中国まで来たし、もうやる事もないし…何より少林寺の大僧正自ら案内してくれるなんて普通はないだろうと思い、考えを変えて武術の聖地少林寺のコラムでも書こうと考え始めていた。

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