第4話 小規模ダンジョンへの踏破訓練
朝。澄んだ空気の中、ティア・ルーシェは深呼吸をして、今日の授業に臨む気持ちを整えた。
――今日は、実践訓練。学院の外にある小規模ダンジョンへの踏破訓練だ。
安全装備を万全にしたティアは、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
◆◆◆◆
集合場所には、すでに多くの生徒たちが集まっていた。騎士のような制服姿の先輩や、個性的な髪型の生徒、緊張で固まる新入生たち。
「ティア、遅刻しないでよね!」
元気な声が響く。金色のボブ髪、碧い瞳の ミナ・アルテアが、手を振りながら駆け寄ってくる。
「大丈夫、ちゃんと時間前に来たよ」
ティアは微笑みながら答える。隣には、長い銀髪を一本にまとめた **アイラ・ヴァレンタイン** が静かに立っている。紫色の瞳が落ち着いた光を湛えて、周囲の騒がしさにも動じない。
「……準備は整った?」
「うん。今日こそ、失敗しないようにしなきゃ」
ティアは自分の胸を軽く押さえながら、小さく息をつく。
◆◆◆◆
訓練担当の先輩が説明を始める。
「今日の課題は、学院近郊の小規模ダンジョン踏破。注意することはただひとつ――無理をせず、魔力と知識を駆使すること。事故があれば即、報告せよ」
ティアはうなずく。フラスコや小型魔法器具を腰のベルトに装着し、慎重に歩き出す。
ミナも横で元気に頷く。
「ティア、怖がらなくていいよ! 私も最初は緊張したけど、面白くなるから」
アイラは静かに、でも確かな声で励ます。
「慎重に。焦らなければ、必ず安全に戻れる」
ティアは二人の声を胸に刻み、第一歩を踏み出した。
◆◆◆◆
ダンジョンの入り口は、森の奥に隠れるようにしてあった。入口をくぐると、外の光は徐々に弱まり、ひんやりとした空気が肌を撫でる。
壁は岩肌がむき出しで、湿った苔の匂いが漂う。足元に注意しながら、ティアはフラスコを手に持ち、魔力反応のランプを灯す。
前を歩くミナは、ぴょんと小さく跳ねるように歩き、楽しそうに声を上げる。
「わぁ、思ったより広いね!」
ティアは小さく笑う。アイラは淡々と進むが、時折、壁のひびや床の変化を鋭く見つめ、ティアに目配せを送る。
◆◆◆◆
奥に進むと、突然、床の一部が不自然に光った。
「……これは魔力反応?!」
ティアはフラスコを取り出し、反応を観察する。小さな光は、魔力を帯びた石片のようで、触れれば危険な仕掛けになっていそうだ。
アイラがそっと手を伸ばす。
「ティア、私の指示に従って。まず、左足を一歩前に――」
ティアはアイラの冷静な指示に従い、一歩ずつ慎重に進む。魔力の感覚を頼りに、光の石片の間を抜ける。
「よし……通れた」
安堵の息が漏れる。ミナも手を叩き、笑顔を見せる。
「ティア、すごいよ! 焦らず進めたね!」
ティアはほっと笑み、心の中で小さくつぶやく。
(……まだまだだけど、これなら、錬銀術師への道も近づくかも)
◆◆◆◆
さらに奥に進むと、魔力を帯びた小型モンスターが現れる。フラスコから作った錬金術の弾丸を使い、ティアは初めて実戦で攻撃を試みる。
ミナの支援魔法とアイラの冷静な指示に従いながら、ぎりぎりで倒すことに成功する。
「……やった」
ティアは胸の奥から込み上げる達成感に顔を輝かせた。
「初めての戦闘でも、焦らず対応できた。私、少しは成長したかな……」
アイラは静かに微笑む。
「うん。よくやった、ティア」
ミナも元気に拍手を送る。
――失敗も多かったけれど、仲間と共に前に進む喜び。これが、錬金術師として生きる意味なのかもしれない。
◆◆◆◆
訓練を終えて学院に戻る頃、夕日が塔をオレンジ色に染めていた。
「今日の経験は、忘れられないね」
「ええ。次はもっと上手くやれるはず」
ティアは静かに決意する。
「……次の実験も、ダンジョンも。全部、私、全力でやるんだから」
夕日に照らされる三人の影が、長く伸びる。




