第1話 錬″銅″術師、学園に降臨
街の中心にそびえ立つ、白亜の塔――その頂は雲を突き抜けそうに高く、太陽の光を受けて壁面が眩しく反射している。ここは、錬金学の最高学府、アストリオ錬金学院。
学院の前に立つのは──ティア・ルーシェ。これからアストリオ錬金学院で学ぶことになった少女だ。
落ちこぼれだったティアは、周囲から「錬銅術師」と囃されていた。
学院への入学試験も、本当は合格できるような成績ではなかった。
しかしなんと、奇跡的に合格を果たしたのだ。
──ティアは15歳、身長165センチ。胸はあまりなく、鏡を見るたび、溜息をもらしている。
髪は栗色のショートカットで、実験の邪魔にならないよう短く整えていた。鏡に映る自分の姿を見て、少し無骨な印象に胸がきゅっとなることもある。
入学初日。ティアは学院の制服に身を包む。
濃紺のロングジャケットに、胸元には銀糸刺繍の学院章。
中は白いハイネックシャツと黒リボン、下は濃紺のスカートだ。
靴は衝撃を吸収する魔導ブーツ。
ソックスには、歩行が軽くなる魔力が施されており動きやすい。おしゃれな制服は、ちょっとだけ自信を持てる装いだ。
◆◆◆◆
学園の門をくぐると、生徒たちが行き交う。背の高い少年、個性的な髪型の少女、制服姿の先輩たち。塔の窓から差し込む光が、校庭の芝生や石畳に反射して、にぎやかさを増している。
そんな中、ひときわ元気な少女が手を振って駆け寄ってきた。
「やっほー! 君、新入生でしょ?」
「え、あ、はい……そうです」
振り向くと、金色のボブ髪に碧い瞳――小柄で笑顔が愛らしい少女だった。元気で人懐っこい雰囲気に、ティアは少し安心する。
「私はミナ・アルテアだよ!」
「ティアです。よろしくお願いします」
すると、ミナの後ろから歩いてきた少女が目に入る。
「……あたしは、アイラ・ヴァレンタインです」
ミナの隣に立った少女は、長い銀髪を一本にまとめ、静かな紫色の瞳を持つ アイラ・ヴァレンタイン。落ち着いた雰囲気で、口数は少ないが、目の奥に優しさが宿っている。
「よろしくお願いします、ティアです」
静かな微笑みに、ティアはほっとする。――この二人となら、学園生活もなんとかなるかもしれない。
◆◆◆◆
初日から授業は調合実験。大きな実験室には、フラスコや薬品、金属片が整然と並ぶ。先輩たちは慣れた手つきで実験台を整え、魔力反応の装置をセットしている。
「新入生諸君、今日のテーマは『基礎金属の錬成』。焦らず、手順を守ること。焦れば大事故に繋がるぞ」
深く落ち着いた声が、部屋に響く。
ティアの手は緊張で少し震えるが、フラスコを握りしめ、心を落ち着ける。
隣でミナがウインクする。
「ティア、大丈夫! リラックス、リラックス!」
アイラも静かに頷き、微笑む。心強い――。
ティアは深呼吸し、粉を計量して水を加える。だが、混ぜ方が少し強すぎたらしく、フラスコの中で泡が立ち、煙がふわりと立ち上る。
「うわっ、熱っ!」
慌てて火を止めると、煙は消えたが、焦げた匂いが漂う。先輩が肩越しに小さくつぶやいた。
「……錬銅術師らしいデビューだな」
「す、すみません……」
「まずは、錬《《銀》》術師の称号を手に入れるように頑張ったほうがいい」
「……は、はいっ!」
ティアは精一杯元気に返事をする。
錬銀術師というのは、錬金術師に次ぐ称号だ。
まずは皆、錬銀術師を目指すことになる。
(よし、まずは一人前の、錬《《銀》》術師を目指そう……!)
◆◆◆◆
休み時間、三人で校庭を歩く。芝生が光を受けてきらきら輝き、午後の風が心地よい。
「錬金術って、魔法みたいで楽しいね」
ティアの目が輝き、思わず笑みがこぼれる。
「うん、私も最初はドキドキしたけど、やってみると面白いよ」
ミナの笑顔に、ティアも自然と笑う。アイラの静かな微笑みも、心をほっとさせる。
――失敗ばかりでも、仲間がいれば前に進める。そう思えた。
◆◆◆◆
午後は図書館で古文書に向き合い、錬金術の理論を学ぶ。知識もまた、実験と同じくらい大切な武器だ。
「これも大事な力……」
小さく呟き、ページをめくるティア。少しずつ、錬銀術師への道が見えてきた気がした。
夕方、校門を出る。橙色に染まる空の下、塔はさらに輝き、街は穏やかだ。
「……今日から、私も学院の仲間入り。世界一の錬金術師になるんだ」
未熟だけど、小さな希望が胸に芽生える。
――ティアの、世界一の錬金術師を目指す物語は、ここから始まった。




